Last Updated on 2025-05-05 08:00 by admin
2025年1月、南極のジョージ6世氷棚から「A-84」と名付けられた巨大氷山が分離した。この氷山分離により、これまで氷に覆われていた海底が露出し、科学者たちに未知の生態系を探索する稀有な機会が生まれた。
シュミット海洋研究所の調査船「ファルコー(トゥー)号」の研究チームは、2025年1月20日、南極近くの南大洋の水深687メートル(2,254フィート)で、1906年に初めて確認された「氷河ガラスイカ」(学名:Galiteuthis glacialis、ナンキョクスカシイカ)の生きた姿を世界で初めて撮影することに成功した。これまでこの種は漁網で引き上げられた死骸やクジラの胃の中で噛み砕かれた標本でしか観察されていなかった。
さらに同じ研究チームは、2025年3月9日に行われた次の探査で、「巨大イカ」(学名:Mesonychoteuthis hamiltoni、ダイオウホウズキイカ)の生体映像の撮影にも初めて成功した。この巨大イカは成体になると最大7メートル(23フィート)、重さ500キログラムに達するとされている。
両種はともに「透明な体」と「深海で狩りをするための鋭いフック」という特徴を共有しているが、巨大イカは8本の腕の中央にフックがあるのに対し、氷河ガラスイカは2本の細長い触手の先端にフックがあるという違いがある。
探査チームはこれらのイカ以外にも、氷魚、巨大ウミグモ、タコなどの深海生物も記録した。シュミット海洋研究所のエグゼクティブディレクター、ジョティカ・ヴィルマニ博士は「これらの忘れられない瞬間は、海がまだ解明されていない謎に満ちていることを私たちに思い出させ続けています」と述べている。
from:First-Ever Footage of Elusive Creature Captured After Iceberg Breaks Off in Antarctica
【編集部解説】
今回のニュースは、南極の氷山分離という自然現象が、これまで人類が観察できなかった深海生物の発見につながった貴重な事例です。複数の信頼性の高い情報源を確認したところ、報道内容の事実関係に大きな誤りはありませんでした。
シュミット海洋研究所の調査船「ファルコー(トゥー)号」が撮影に成功した氷河ガラスイカ(学名:Galiteuthis glacialis)は、1906年に初めて学術的に記載されたものの、これまで生きた姿が観察されたことのない謎に包まれた深海生物でした。
同様に、3月9日に撮影された巨大イカ(学名:Mesonychoteuthis hamiltoni)も、発見から100年以上経った今年、初めて自然環境での生体が確認されたことになります。この発見は科学的に非常に重要な意味を持っています。
特筆すべきは、これらの発見が偶然の産物であったという点です。A-84と名付けられた氷山がジョージ6世氷棚から分離したことで、通常はアクセスできない海底エリアが露出し、研究チームに探査の機会を提供しました。
気候変動によって南極の氷棚崩壊が加速する中、今回のような「偶然の発見」の機会は今後も増えていく可能性があります。しかし、これは諸刃の剣です。氷棚の崩壊は地球環境にとって警鐘である一方で、未知の生態系を研究する新たな窓を開くこともあるのです。
巨大イカは成体になると最大7メートル、重さ500キログラムにも達するとされています。これは地球上で最も重い無脊椎動物であり、その生態についてはまだ多くが謎に包まれています。
これらの発見は、私たちがいかに海洋、特に深海について無知であるかを示しています。地球表面の約71%を占める海洋ですが、その詳細な探査は宇宙よりも遅れているといわれています。
今回の発見は、海洋生物多様性の保全の重要性も再認識させてくれます。気候変動や海洋汚染によって、私たちはまだ発見していない種を失う危険性があります。未知の生物が持つ可能性-例えば医薬品開発や新素材開発のヒントなど-を考えると、海洋生態系の保護は科学的にも経済的にも重要な意味を持つのです。
シュミット海洋研究所のジョティカ・ヴィルマニ博士が述べているように、「海はまだ解明されていない謎に満ちている」のです。テクノロジーの進化により、これからも深海の謎が次々と明らかになっていくことでしょう。
【用語解説】
氷河ガラスイカ(Galiteuthis glacialis):
サメハダホウズキイカ科に属する深海性のイカで、体が透明なことから「ガラスイカ」と呼ばれる。日本語では「ナンキョクスカシイカ」とも呼ばれる。
巨大イカ(Mesonychoteuthis hamiltoni):
日本語では「ダイオウホウズキイカ」と呼ばれる。最大で全長7メートル、重さ500キログラムに達し、地球上で最も重い無脊椎動物である。
シュミット海洋研究所(Schmidt Ocean Institute):
2009年にGoogleの元CEOエリック・シュミットと妻のウェンディ・シュミットによって設立された非営利の海洋研究財団。海洋科学の発展と深海探査を目的としている。
ファルコー号(R/V Falkor):
シュミット海洋研究所の調査船。2023年にはより大型の新調査船「ファルコー(トゥー)号」(R/V Falkor (too))が就航した。
色素胞:
イカなどの頭足類が持つ、体の色を変えるための小さな色素嚢。ガラスイカはこれを閉じたままにすることで体を透明に保っている。
発光器:
深海生物が持つ光を発する器官。ガラスイカは不透明な体の部分の下に発光器を持ち、上からの薄暗い太陽光と同じ強度で発光することで、下から見上げる捕食者から自分のシルエットを隠す。
アナロジー
ガラスイカの透明な体と発光器の仕組みは、まるで「透明マントを着て、さらに影を消す魔法を使う忍者」のようなものだ。深海という隠れ場所のない環境で、捕食者から身を守るための巧妙な戦略である。
【参考リンク】
シュミット海洋研究所(外部)
海洋研究と探査を推進する非営利団体。最新の調査船と技術を用いて深海の謎に挑む。
ナショナル・ジオグラフィック(外部)
自然科学や地理に関する記事や映像を提供する世界的メディア。深海生物の貴重な映像も多数公開。
【参考動画】
【編集部後記】
地球上で最も身近な「海」が、実は宇宙よりも未知の領域だということをご存知でしたか?今回の氷河ガラスイカの発見は、私たちがまだ見ぬ生命の姿を垣間見せてくれました。もし深海探査の技術が発達したら、どんな生物が発見されるでしょうか?また、あなたが深海に潜れるとしたら、何を見てみたいですか?深海の神秘に思いを馳せながら、地球の多様な生態系について考えてみませんか?