Last Updated on 2025-05-30 07:27 by admin
国立海洋大気庁(NOAA)は2025年5月22日、2025年大西洋ハリケーンシーズンの予報を発表した。6月1日から11月30日までの期間で、13から19個の命名された熱帯低気圧が発生し、そのうち6から10個がハリケーンに発達、3から5個が風速時速111マイル(179km/h)以上の大型ハリケーンになると予測している。平年を上回る活動レベルとなる確率は60%である。
この予測は平年より暖かい大西洋海面温度と弱いウィンドシアーに基づいている。2024年シーズンは18個の命名された嵐、11個のハリケーン、5個の大型ハリケーンが発生し、ハリケーン・ベリルが7月に記録上最も早いカテゴリー5ハリケーンとしてテキサス州などを襲った。9月にはハリケーン・ヘレンがカテゴリー4でフロリダ湾岸に上陸し、2005年のカトリーナ以来最も多くの犠牲者を出した米国ハリケーンとなった。
発表はルイジアナ州ジェファーソン郡で行われ、ハリケーン・カトリーナによる甚大な被害から20年の節目にあたり、その犠牲者を追悼し教訓を未来へ繋ぐ意味合いも込められていた。
From:
A Nightmare Summer Ahead: The U.S. Could Be Hit by 10 Hurricanes
【編集部解説】
今回のNOAA(国立海洋大気庁)による2025年ハリケーンシーズン予報は、気象予測技術の進歩と同時に、気候変動の影響が顕著に現れている現状を浮き彫りにしています。
NOAAの国立気象局長ケン・グラハムが強調したように、現在の5日間進路予測精度は、2005年のハリケーン・カトリーナ当時の3日間予測と同等レベルに達しています。さらに今シーズンから導入されるHAFS(Hurricane Analysis and Forecast System)の改良により、追跡精度が約5%向上する見込みです。
マイアミ大学の研究によると、カトリーナ以降の技術進歩により、少なくとも600億ドルのコスト削減効果が得られたとされています。これは予測精度向上が社会に与える経済的インパクトの大きさを物語っています。
気候変動の複合的影響
今回の予測で特に重要なのは、ENSO(エルニーニョ・南方振動)が中立状態にあることです。2024年はエルニーニョ現象からラニーニャ現象へと移行する年でしたが、2025年は太平洋の海水温が平年並みとなる見込みで、これが大西洋でのウィンドシアーを弱める要因の一つとされています。
同時に、大西洋の海面温度が平年を上回る状態が続いており、これがハリケーンの「燃料」となります。この複合的な気象条件が、活発なシーズンを予測する科学的根拠となっています。
社会インフラへの長期的課題
2024年のハリケーン・ヘレンとミルトンが示したように、現代のハリケーンは沿岸部だけでなく内陸部にも甚大な被害をもたらします。グラハム局長が指摘するように、近年は離岸流による死者数が高潮による死者数を上回っており、ハリケーンの脅威が多様化していることがわかります。
特に注目すべきは、カテゴリー5のハリケーンが米国本土に上陸したケースでは、その3日前には熱帯低気圧以下の強度だった事例が報告されているという点です。この急激な強化現象(ラピッド・インテンシフィケーション)の予測精度向上が、今後の重要な技術課題となっています。
新技術の導入と課題
今シーズンからNOAAは新たな高解像度衛星による監視体制を導入し、マイアミ大学と連携して新型ドローンと水中グライダーを配備します。ハリケーンハンターズも改良されたレーダー技術を使用し、データ収集の精度向上を図ります。
また、大西洋と太平洋沿岸で離岸流警報の発令や、予測円錐内への風警報の統合など、情報提供方法の改善も進められています。これらの取り組みは、技術的進歩を社会の安全向上に直結させる重要な試みといえるでしょう。
興味深いことに、今回の予測では複数の国際機関が類似した見解を示しています。英国気象庁、メキシコ気象局、さらには民間のトロピカル・ストーム・リスク(TSR)まで、予測値が一定の範囲内に収束していることは、気象予測科学の成熟度を表しています。
この予測精度の向上と国際協調は、グローバルな気候変動対応において重要な基盤となっていくと考えられます。
【用語解説】
HAFS(Hurricane Analysis and Forecast System):
NOAAが開発した次世代ハリケーン解析・予測システムで、2025年シーズンから本格運用される。従来モデルより約5%の精度向上が期待されている。
ウィンドシアー(Wind Shear):
大気中の短い距離での風速や風向の変化を指す気象現象である。垂直風シアーはハリケーンの発達を阻害する要因として知られており、シアーが弱いとハリケーンが成長しやすくなる。
ENSO(エルニーニョ・南方振動):
太平洋の海水温変動と大気循環の連動現象で、エルニーニョ、ラニーニャ、中立の3つの状態がある。エルニーニョ時は大西洋のハリケーン活動が抑制され、ラニーニャ時は活発化する傾向がある。
ラピッド・インテンシフィケーション(急激な強化):
ハリケーンの最大風速が24時間以内に35mph(約56km/h)以上増加する現象である。予測が困難で、沿岸地域に甚大な被害をもたらす可能性が高い。
ACE(累積サイクロンエネルギー):
ハリケーンシーズン全体の活動度を測る指標で、各嵐の最大風速の2乗を6時間ごとに合計して算出される。シーズンの総合的な強度を評価する際に用いられる。
離岸流(Rip Current):
海岸から沖に向かって流れる強い海流で、ハリケーン時に特に危険となる。近年、高潮による死者数を上回る死亡原因となっている。
【参考リンク】
NOAA(国立海洋大気庁)公式サイト(外部)
アメリカ商務省の機関で、気象予報、海洋調査、気候研究を担当する連邦政府機関。ハリケーン予報の権威的な情報源
国立ハリケーンセンター(NHC)(外部)
NOAAの下部組織で、大西洋と東太平洋のハリケーン監視・予報を担当。リアルタイムの嵐情報と詳細な予報を提供
コロラド州立大学熱帯気象研究チーム(外部)
ハリケーン季節予測の先駆的研究機関。NOAAと並ぶ信頼性の高い予測を毎年発表している
Climate Central(外部)
気候変動とハリケーンの関係性に関する科学的分析を提供する非営利研究機関。リアルタイムの気候データと可視化ツールを提供
Tropical Storm Risk(TSR)(外部)
英国を拠点とする季節ハリケーン予測機関で、保険業界向けのリスク評価も行っている
【参考動画】
【編集部後記】
気象予測技術の進歩により、私たちは数ヶ月先のハリケーン活動をある程度予測できるようになりました。しかし、予測精度が向上する一方で、急激な強化現象の予測など、まだ解決すべき課題も残っています。みなさんは、AIやドローン技術の活用により、ハリケーン予測はどこまで進歩できると思いますか?また、日本の台風予測技術とアメリカのハリケーン予測技術の違いや、相互に学べる点はあるでしょうか?気象予測技術の未来と、それが私たちの生活に与える影響について、一緒に考えてみませんか。
【参考記事】
CBS News – NOAA’s 2025 Atlantic hurricane season forecast predicts above-average activity
The Weather Channel – NOAA Hurricane Season Outlook: More Active Than Average
New York Times – NOAA Announces 2025 Atlantic Hurricane Season Prediction