Last Updated on 2024-06-01 20:26 by 荒木 啓介
アークティック地域のピートランドでは、毎年突然火災が発生している。これらの火災は、地下で冬を越えて燻り続ける「ゾンビ火災」と呼ばれ、春になると再び燃え始める。これまでの説では、前夏の地表の火災が原因とされていたが、新たなモデリングにより、地上の急速な大気温暖化がピート土壌を地下で突然燃焼温度まで加熱する別の原因が示唆された。この現象は、気候変動による自然発火の一例である可能性がある。
1940年代から報告されているゾンビ火災は、過去20年間で頻度と強度が顕著に増加しており、これはアークティック地域の加速する温暖化と関連している。2024年初頭には、カナダのブリティッシュコロンビア州で100以上のゾンビ火災が活動中であり、シベリアのオイミャコン近郊でも複数の冬を越えて燃焼し、広域で年間焼失面積の約3.5%を占めている。
アークティック地域のピート土壌には、大気中の炭素よりも多くの炭素が含まれており、これらの火災によって大量の炭素が大気中に放出されている。研究チームは、急激な温暖化が直接的な原因である可能性を探求した。
研究により、特定の微生物が土壌を分解し炭素を大気中に放出する過程で発生する熱が、冬の間に地下のピートを約80度セルシウスで燻焼させ、春になると火災が発生することが明らかになった。これは、地上で火災が発生していない場所や、通常土壌が燃焼するために必要な気温に達していない場合でも起こり得る。
この新しい状態は「ピート土壌の熱メタステーブル状態」と呼ばれ、長期間(最大10年間)燃焼を続ける。また、夏の熱波や地球温暖化シナリオを含む現実的な気候パターンだけで、通常の冷たい状態から熱メタステーブル状態への突然の移行が引き起こされることが分かった。
ゾンビ火災への対策として、気候の変動性を制限することが唯一の解決策である。気候変動によって極端な天候が増加し、それがさらに多くのゾンビ火災を引き起こし、悪循環を生じさせる可能性があるためである。
【ニュース解説】
アークティック地域のピートランドで毎年発生する「ゾンビ火災」について、新たな研究が示唆する原因とその影響について解説します。これまで、ゾンビ火災は前年の夏に発生した地表の火災が冬の間地下でくすぶり続け、春になって再び燃え上がると考えられていました。しかし、最新のモデリング研究により、地上の急速な大気温暖化がピート土壌を地下で突然燃焼温度まで加熱し、自然発火させる可能性があることが示されました。
この研究は、アークティック地域が地球上で最も温暖化が進行している地域の一つであり、その結果としてゾンビ火災の頻度と強度が過去20年間で顕著に増加していることを背景にしています。特に、カナダやシベリアのピートランドでのゾンビ火災は、これらの地域に蓄積された膨大な量の炭素を大気中に放出し、さらなる気候変動を加速させる懸念があります。
研究チームが開発した数学モデルは、特定の微生物が土壌を分解し、その過程で発生する熱がピートを燻焼させることができることを示しました。この現象は、地上で火災が発生していない場所でも、また、土壌が燃焼するために通常必要とされる気温に達していない場合でも起こり得ます。この「熱メタステーブル状態」は、最大10年間続く長期間の燃焼を意味します。
さらに、この研究は、気候変動による夏の熱波や地球温暖化シナリオだけで、ピート土壌が通常の冷たい状態から熱メタステーブル状態へと突然移行することが可能であることを示しています。この移行は、大気温度の上昇速度が一定の臨界率を超えると発生することが分かりました。
この研究の示唆するところは、ゾンビ火災を防ぐためには、気候の変動性を制限することが重要であるということです。気候変動が極端な天候を引き起こし、それがさらにゾンビ火災を誘発する悪循環を生じさせる可能性があるため、気候変動の速度を抑えることが、これらの火災の発生を抑制する鍵となります。
この研究は、気候変動が自然界に与える影響の理解を深めるとともに、気候変動対策の重要性を改めて浮き彫りにしています。ゾンビ火災のような現象は、気候変動が地球の生態系に予期せぬ影響を与える一例であり、その対策としては、地球温暖化の進行を遅らせるための国際的な取り組みが一層求められます。