サイボーグビートル「ZoBorg」が災害現場を変革、クイーンズランド大学が5年以内の実用化計画

サイボーグビートル「ZoBorg」が災害現場を変革、クイーンズランド大学が5年以内の実用化計画 - innovaTopia - (イノベトピア)

クイーンズランド大学のタン・ヴォ・ドアン博士と博士課程学生ラクラン・フィッツジェラルドは、ダークリングビートル(Zophobas morio)にマイクロチップバックパックを装着し、ビデオゲームコントローラーで遠隔操作する技術を開発した。

この技術は2025年7月1日に発表され、学術誌「Advanced Science」に論文「Zoborg: On‐Demand Climbing Control for Cyborg Beetles」として掲載された。バックパックは電極を通じてカブトムシの触角や硬化した前翅(エリトラ)を刺激し、特定方向への移動を促す。

研究チームは建物や鉱山の崩落などの災害現場で、生存者を数日ではなく数時間以内に発見する捜索救助活動への応用を目指している。

カブトムシは垂直な壁面を登ることができ、低断面障害物を92%以上の成功率で1秒以内に乗り越える能力を持つ。現在はテザー電源を使用した試験も行われているが、自重と同等の重量のバッテリーを搭載しても移動可能である。

研究チームはカメラと効率的な電源システムを統合した設計の改良を進めており、5年以内に実際の災害現場での試験実施を計画している。この研究はクイーンズランド大学機械鉱山工学部のバイオロボティクス研究室、同大学環境学部、ニューサウスウェールズ大学、シンガポール南洋理工大学の共同プロジェクトである。

From: 文献リンクCyborg Beetles May Speed Disaster Response One Day

【編集部解説】

この技術の核心は、生物学的システムと電子工学の融合にあります。電極を通じてカブトムシの神経系に微弱な電気刺激を与えることで、自然な移動能力を損なうことなく方向制御を実現している点が画期的です。従来のマイクロロボットが直面してきた垂直面移動や複雑地形での機動性の課題を、数億年の進化で培われた昆虫の能力で解決するアプローチといえるでしょう。

技術的な仕組みと革新性

サイボーグビートルの制御システムは、触角や硬化した前翅(エリトラ)への電気刺激によって実現されています。この方法の優れた点は、昆虫の自然な行動パターンを活用しながら、必要な時にのみ方向修正を行う点にあります。研究チームによると、カブトムシは低断面障害物(5mmおよび8mmの段差)を92%以上の成功率で1秒以内に乗り越えることができ、柔軟な構造、可撓性フットパッド、鋭い爪、内蔵センサーなどの生体昆虫の特性により、低電力・低コストで例外的な適応性を持つ敏捷な移動を実現しています。

災害対応における実用的価値

現在の捜索救助技術には明確な限界があります。人間の救助隊員は危険な環境への立ち入りが制限され、従来のロボットは瓦礫の隙間や不安定な構造物での移動が困難です。サイボーグビートルは自重と同等の重量を運搬可能で、カメラや各種センサーを搭載した状態でも垂直面を移動できる能力を持ちます。

災害発生後の「ゴールデンタイム72時間」という制約の中で、これらの生体ロボットは広範囲の捜索を並行して実行できる可能性を秘めています。特に建物倒壊や鉱山事故といった閉鎖空間での生存者発見において、従来手法では数日を要していた作業を数時間に短縮できる潜在力があります。

技術発展の現状と課題

現在の研究段階では、電源システムとペイロード容量が主要な制約となっています。登攀テストでは有線電源を使用していますが、カブトムシは自重と同等のバッテリーを背負っても登攀能力を実証しています。研究チームは現在、カメラとコンパクト電源システムを組み込んでカブトムシの機動性と汎用性を向上させる設計の改良を進めており、5年以内の実地試験が計画されています。

しかし、実用化には技術的課題以外にも考慮すべき要素があります。昆虫の個体差による制御精度のばらつき、環境条件による性能変動、そして何より生物を利用することの倫理的側面です。

倫理的議論と規制への影響

この技術は生物倫理の新たな議論を呼んでいます。昆虫に対する電気刺激が「苦痛」を与えるかという根本的な問題から、軍事転用の可能性まで幅広い懸念が提起されています。フィッツジェラルド氏は「サイボーグ甲虫の寿命は通常通りだ」と語り、生物の福祉に関する懸念はもっともだと認めつつも、「都市部の災害で人命を救うこの技術の可能性は、いかなる躊躇よりも大きい」と述べています。

現在の規制枠組みでは、遺伝子改変を伴わないサイボーグ昆虫の管轄が不明確で、新たな規制体系の構築が必要になるかもしれません。プライバシー保護や軍民両用技術の管理といった観点から、国際的な議論が求められる段階に入っています。

長期的展望と社会への影響

この技術が実用化されれば、災害対応だけでなく、インフラ点検、環境モニタリング、農業分野での応用も期待されます。特に人間がアクセス困難な環境での継続的監視や、大規模な群制御による効率的な作業実行が可能になります。

一方で、生物と機械の境界が曖昧になることで、我々の技術観や生命観にも影響を与える可能性があります。「Tech for Human Evolution」の観点から見れば、これは人類が自然界との新たな共生関係を築く転換点となるかもしれません。

技術の発展と倫理的配慮のバランスを取りながら、この革新的なアプローチがどのように社会実装されていくか、今後の動向に注目が集まります。

【用語解説】

ダークリングビートル(Zophobas morio)
ゴミムシダマシ科に属する昆虫で、幼虫は「スーパーワーム」として知られる。中南米の熱帯地域原産で、成虫は飛行能力を持つが通常は地上を移動する。体長50-60mmで、垂直面を登る能力と自重と同等の重量を運搬できる特性を持つ。

サイボーグ昆虫
生きた昆虫に電子機器を装着し、電気刺激によって移動方向を制御する生体機械融合システム。昆虫の自然な運動能力を活用しながら、人間が遠隔操作できる技術。

バイオロボティクス
生物学とロボティクスを融合した学際的研究分野。生物の構造や機能を模倣したロボット開発や、生物と機械を組み合わせたハイブリッドシステムの研究を行う。

エリトラ(前翅)
甲虫の硬化した前翅で、後翅を保護する役割を持つ。サイボーグビートルでは、この部位への電気刺激により方向制御を行う。

低断面障害物
高さが低い段差や障害物のこと。研究では5mmおよび8mmの段差を指し、カブトムシがこれらを92%以上の成功率で乗り越えることが実証されている。

バイオハイブリッドロボット
生物と機械を組み合わせたロボットシステム。生物の自然な能力と人工的な制御システムを融合させた技術。

【参考リンク】

クイーンズランド大学(外部)
今回のサイボーグビートル研究を主導するオーストラリアの名門大学公式サイト

Dr T. Thang Vo-Doan | UQ Experts(外部)
研究主導者タン・ヴォ・ドアン博士の専門家プロフィールページ

Advanced Science Journal外部)
ZoBorg研究論文が掲載されたワイリー出版の権威ある科学雑誌

シンガポール南洋理工大学(外部)
共同研究に参加したシンガポールの名門工科大学公式サイト

ニューサウスウェールズ大学(外部)
サイボーグビートル研究の共同研究機関の一つ、豪州の研究重点大学

【参考動画】

【参考記事】

クイーンズランド大学がサイボーグカブトムシ「ZoBorg」開発(外部)
92%成功率での垂直面移行など具体的な性能データを詳細に報告

「サイボーグ・ゴキブリ」は未来の捜索救助隊員か 豪研究(外部)
CNN日本版による研究背景と倫理的議論の包括的解説記事

群れで操る「サイボーグ昆虫」 本能を利用、被災地捜索に期待(外部)
日本経済新聞による世界各国のサイボーグ昆虫研究の現状分析

【編集部後記】

サイボーグビートルという技術を目にして、皆さんはどのような未来を想像されますか?生き物と機械が融合する世界は、SF映画の中だけの話ではなくなってきているようです。

災害救助という崇高な目的で開発されているこの技術ですが、同時に生命倫理や軍事転用といった複雑な問題も抱えています。私たちinnovaTopia編集部も、この技術が社会にもたらす影響について、正直なところまだ答えを見つけられずにいます。

皆さんは、人間の都合で昆虫を操ることについてどう感じられるでしょうか?また、この技術が実用化された時、私たちの日常生活にはどのような変化が訪れると思われますか?ぜひSNSで、皆さんの率直なご意見をお聞かせください。一緒に考えていければと思います。

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TaTsu
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