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MIT完全自律型ロボット、半導体材料の光導電性測定を24時間で3,025回実現 – 太陽電池開発が劇的加速

 - innovaTopia - (イノベトピア)

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者が開発した完全自律型ロボットシステムが、新しい半導体材料の光導電性を迅速に測定する技術を発表した。2025年7月4日にScience Advances誌に掲載された同研究は、機械工学教授のTonio Buonassisi氏が率い、主執筆者の大学院生Alexander Siemenn氏、ポスドクのBasita Das氏とKangyu Ji氏、大学院生のFang Sheng氏が参加している。

このロボットシステムは自己教師ありの空間微分可能畳み込みニューラルネットワーク(SDCNN)、コンピュータビジョン、経路計画技術を統合し、ペロブスカイト薄膜の光導電性を4点プローブ法で接触測定する。24時間のテストにおいて、同システムは1時間あたり125回を超える測定を実施し、合計3,025回の測定を完了した。従来の人工知能ベース手法と比較して高い精度と信頼性を示した。

研究室は2018年以来、完全自律型材料発見研究室の実現に向けて取り組んでおり、太陽光発電用半導体材料の開発加速を目的としている。資金提供はFirst Solar、MIT Energy Initiative経由のEni、MathWorks、トロント大学Acceleration Consortium、米国エネルギー省、米国国立科学財団が行っている。

From:
文献リンクRobotic probe quickly measures key properties of new materials

【編集部解説】

MITが発表した完全自律型ロボットによる半導体材料測定システムは、材料科学の研究スピードを根本的に変える可能性を秘めています。

このシステムが解決する最大の課題は、従来の手動測定における「測定速度の限界」です。新しい材料の特性を測定する作業は、研究者が一つひとつ手動で行う必要があり、これが材料開発のボトルネックとなっていました。今回のロボットシステムは、24時間で3,025回の測定を実現し、人間の測定者と比較して圧倒的な効率性を証明しています。

技術的な革新性として注目すべきは、機械学習と材料科学の専門知識を組み合わせた「自己教師ありの空間微分可能畳み込みニューラルネットワーク(SDCNN)」の実装です。従来のAIシステムでは大量のラベル付きデータが必要でしたが、この研究では材料科学者の知識をアルゴリズムに組み込むことで、効率的な学習を実現しています。

この技術が与える影響は多岐にわたります。太陽電池分野では、高効率な半導体材料の発見が加速し、エネルギー変換効率の向上につながる可能性があります。また、電子機器産業では、新しい半導体材料の開発により、より高性能で省エネルギーなデバイスの実現が期待されます。

規制面では、自律型研究システムの普及により、研究データの品質保証や測定結果の信頼性を担保する新しい標準化が求められるでしょう。特に、製薬や材料工学分野での応用を考えると、規制当局による認証制度の整備が必要になる可能性があります。

長期的な視点では、この技術は「完全自律型研究室」の実現に向けた重要な一歩と言えます。材料の合成から特性評価まで、全てをロボットが自動で行う研究環境が構築されれば、新材料の発見速度は現在の10倍、100倍に向上する可能性があります。これにより、気候変動対策や医療技術の発展に必要な革新的材料の開発が大幅に加速することが期待されます。

【用語解説】

光導電性
光を照射した際に材料の電気伝導性が変化する現象。太陽電池の性能を決定する重要な特性の一つである。

ペロブスカイト
特定の結晶構造を持つ材料の総称。太陽電池や発光ダイオードなどの用途で注目される半導体材料である。

SDCNN
自己教師ありの空間微分可能畳み込みニューラルネットワーク。大量のラベル付きデータを必要とせず、専門知識を活用して学習する機械学習手法である。

4点プローブ法
4つの電極を用いて材料の電気的特性を測定する手法。精密な測定が可能で、半導体業界で標準的に使用される。

【参考リンク】

MIT News(外部)
マサチューセッツ工科大学の公式ニュースサイト。最新の研究成果や技術革新を発信している。

Science Advances(外部)
今回の研究が掲載された科学雑誌。査読付きのオープンアクセス誌として高い評価を受けている。

Materials Project(外部)
材料科学の計算データベース。研究で使用された材料情報の参照元として活用されている。

【参考動画】

Why Is MIT Making Robot Insects?
MIT研究室での精密ロボット技術の発展について解説。微小なロボットがどのように複雑な動作を実現するかを紹介している。

【参考記事】

A self-supervised robotic system for autonomous contact-based spatial mapping of semiconductor properties(外部)
Science Advances誌に掲載された原著論文。技術的詳細と実験結果が記載されている。

MIT’s AI-powered robot speeds up search for better solar materials(外部)
工学系メディアによる解説記事。太陽電池への応用可能性に焦点を当てている。

Robotic probe quickly measures semiconductor properties to accelerate solar panel development(外部)
技術系ニュースサイトによる詳細解説。半導体特性測定の技術的背景を説明している。

【編集部後記】

研究室での実験作業を想像してみてください。一日中顕微鏡を覗き込み、手作業で材料を測定する研究者の姿が浮かぶのではないでしょうか。今回のMITの研究は、そんな日常的な光景を一変させる可能性を秘めています。

私たちが普段使っているスマートフォンやパソコンの性能向上も、こうした地道な材料研究の積み重ねによって実現されています。しかし、もし研究速度が劇的に向上したら、どんな未来が待っているでしょうか。

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乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!

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