2025年8月6日、中国重慶市でBaiduのApollo Goロボタクシーサービスが運行する自動運転車が建設用の穴に転落する事故が発生した。
車両には女性乗客1名が乗車していたが怪我はなく、近隣住民がはしごを使って救助した。事故現場の建設現場にはバリケードと警告標識が設置されていたが、車両がどのような経路で進入したかは不明である。
中国のSNS上では白いBaidu Apolloロゴ付き車両が穴の底にある映像が拡散された。Baiduは金曜日時点でロイターの取材に応じていない。
同社は武漢、北京、重慶など複数都市で商用ロボタクシー事業を展開し、最近では米国のUber TechnologiesおよびLyftと提携してグローバル展開を推進している。競合のPony.aiは2025年5月に北京で車両火災事故を起こしている。
From: Baidu robotaxi falls into construction pit in China, raising safety concerns
【編集部解説】
自動運転技術における最も重要な課題は、予期せぬ環境変化への対応能力です。今回のBaidu Apollo Go事故は、現在の自動運転システムが抱える根本的な制約を浮き彫りにしています。
建設現場のような動的環境では、日々状況が変化し、従来の地図データだけでは対応できません。Baiduのシステムはバリケードと警告標識が設置されていたにも関わらず、それらを認識・回避できずに穴に転落しました。これは、現在の自動運転技術がまだ人間の直感的な判断力に及ばない領域があることを示しています。
特に注目すべきは、この事故が中国の自動運転業界全体に与える影響です。中国は世界最大規模の自動運転実証エリアを持ち、政府主導で商用化を推進してきました。しかし、今年5月のPony.ai車両火災事故に続く今回の事例により、規制当局はより厳格な安全基準を求める可能性があります。
技術的観点から見ると、建設現場の検知は複数のセンサーが連携して行う複合的な判断が必要です。LiDAR、カメラ、レーダーが統合されたシステムでも、急速に変化する工事現場の状況をリアルタイムで把握することは困難な課題です。
一方で、この事故によってBaiduの海外展開計画への影響も懸念されます。同社は最近UberやLyftとの提携を発表したばかりで、グローバル市場での信頼性構築が重要な局面にありました。
今後の自動運転技術発展においては、AIの判断力向上と並行して、インフラ側のデジタル化も重要になってきます。建設現場とのリアルタイム通信や、動的な危険区域の自動通知システムなど、車両単体ではなくエコシステム全体での安全性確保が求められるでしょう。
【用語解説】
ロボタクシー
自動運転技術を搭載した無人運転タクシーのことで、乗客の要求に応じて目的地まで自動で運行する。GPSやLiDAR、カメラなど複数のセンサーを統合して周囲環境を認識し、AIが運転判断を行う。
LiDAR(Light Detection and Ranging)
レーザー光を照射して物体との距離や形状を測定するセンサー技術である。自動運転車の三次元環境認識において重要な役割を担っており、カメラやレーダーと組み合わせて使用される。
ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)
先進運転支援システムの略称で、運転者の安全運転を支援する技術群である。自動ブレーキ、車線逸脱警告、アダプティブクルーズコントロールなどが含まれる。
【参考リンク】
Baidu(百度)(外部)
中国最大の検索エンジン企業で、Apollo自動運転プラットフォームを開発している。
Uber Technologies(外部)
アメリカの配車サービス大手企業。Baiduとロボタクシー分野での提携を発表している。
Lyft(外部)
アメリカの配車サービス企業でUberの競合。Baiduとの協業でロボタクシー展開を計画している。
【参考記事】
Baidu robotaxi crash reignites China AV/ADAS concerns | Automotive World(外部)
Baidu Apollo Goの事故は、中国の自動運転システムの安全性およびADAS技術の課題を浮き彫りにした。
Baidu Partners With Uber To Deploy Apollo Go Robotaxis Globally | insideCHINAauto(外部)
BaiduがUberと協力し、Apollo Goロボタクシーのグローバル展開を推進。2026年第一四半期までに15都市展開予定。
【編集部後記】
今回のBaiduロボタクシー事故は、私たちが日常的に利用する可能性がある自動運転技術の現状を示す重要な事例でした。建設現場という予測困難な環境での判断ミスは、技術の限界と可能性の両面を浮き彫りにしています。
皆さんは自動運転車に乗ってみたいと思われますか?それとも、まだ不安を感じられるでしょうか?この技術が本格普及する前に、どのような安全対策が必要だと考えられますか?また、日本での自動運転タクシー導入についてはどのような期待や懸念をお持ちでしょうか?
興味深いことに、本日お伝えしたAmazon Zooxも、今回のBaidu Apollo Goも、ともに日本のフレームワークではレベル4(高度自動運転)に分類されます。しかし、米国では「適用除外型」、中国では「広域展開型」と、それぞれ異なるアプローチで商用化を進めています。
一方、日本でのレベル4商用化実現はまだもう少し先の未来と考えられます。現在は福井県永平寺町での限定的な実証実験が代表例ですが、全国展開には道路交通法の改正、インフラのデジタル化、社会受容性の向上など、複数の課題をクリアする必要があります。
日本の「段階的適合型」アプローチは慎重である一方、技術革新のスピードを考えると、国際競争力の観点で不安も感じます。しかし、安全性を最優先とする日本の姿勢は、長期的には信頼性の高い技術基盤構築につながるかもしれません。
私たちinnovaTopia編集部では、この日中米の規制フレームワークおよび技術展開の違いをより詳しく分析し、日本の自動運転産業が国際競争力を維持するための課題と展望について、近日中に特集記事を企画したいと考えています。読者のみなさんからのご意見やご質問もお待ちしており、ぜひ一緒にこの変化の意味を考えていければと思います。