NASAは2026年ヒューマン・エクスプロレーション・ローバー・チャレンジの学生チーム提案を9月15日まで受け付けている。
学生は月・火星探査用ローバーを設計・製造・テストし、ミッションタスクを完了しながらコースを走破する能力が求められる。競技にはリモートコントロール部門とヒューマンパワー部門がある。
今年のミッションは将来のアルテミス計画の月面ミッションを模倣し、小惑星破片の模擬フィールド、岩石、侵食による轍、割れ目、古代の川床を含む0.5マイルのコースで土壌、水、空気のサンプルをテストする。
2026年版では新たにローバー自動化機能が導入される。2025年の第31回大会には500人以上の学生からなる75チームが参加し、20州、プエルトリコ、世界16カ国の35大学・短期大学、38高校、2中学校を代表した。
第32回年次競技会は2026年4月9日から11日まで、アラバマ州ハンツビルのNASAマーシャル宇宙飛行センター近くの米国宇宙ロケットセンターで開催される。1994年開始以来、15,000人以上の学生が参加している。
From: NASA Seeks Proposals for 2026 Human Exploration Rover Challenge
【編集部解説】
NASAのヒューマン・エクスプロレーション・ローバー・チャレンジは、単なる学生コンテストを超えた戦略的な人材育成プログラムです。1994年の開始以来、この競技を通じて育成された15,000人以上の学生の多くが、現在NASAや航空宇宙産業で活躍している事実は、このプログラムの実効性を物語っています。
今回の2026年版で特に注目すべきは、初めて「ローバー自動化」機能が導入される点です。これは現在のアルテミス計画において、月面探査での自動化技術が重要性を増していることの反映といえるでしょう。リモートコントロール部門は2025年に初めて導入され成功を収めており、自動化機能の追加は技術的な発展の自然な流れでもあります。
競技の実践性も際立っています。0.5マイルのコースには小惑星破片の模擬フィールド、岩石、侵食による轍、割れ目、古代の川床が設定され、実際の月面環境を忠実に再現しています。学生たちは土壌、水、空気のサンプル収集・分析を行いながらこのコースを走破する必要があり、将来のアルテミス計画で必要となる技術要素が網羅的に含まれています。
このプログラムが持つ教育的影響の範囲も拡大しています。2025年の第31回大会では、20州、プエルトリコ、世界16カ国から参加があり、国際的な宇宙人材育成の場として機能していることがわかります。特に中学校チームの参加は、より早い段階からSTEM教育への興味を喚起する効果が期待されます。
一方で、競技の高度化に伴い、参加校間の技術格差や資金格差が拡大する可能性もあります。自動化機能の導入により、プログラミングやセンサー技術への習熟が必要となり、一部の学校にとっては参加のハードルが上がる懸念もあるでしょう。
長期的な視点では、このチャレンジはアルテミス計画の成功に不可欠な次世代エンジニアの育成基盤として機能しています。2026年4月の実施時期は、アルテミス3号の有人月面着陸予定時期(2027年中頃)に近く、実際の月面ミッション成功のための人材確保という戦略的意図が読み取れます。
【用語解説】
ヒューマン・エクスプロレーション・ローバー・チャレンジ(HERC): NASAが1994年から主催する学生向けエンジニアリング設計競技。学生チームが9ヶ月かけて月面地形を走破するローバーを設計・製造し、最終的に実地テストを行う教育プログラムである。
アルテミス計画: NASAが主導する月面有人着陸・長期滞在を目指すプログラム。2025年に予定されるアルテミス2号(有人月周回飛行)、2027年中頃予定のアルテミス3号(有人月面着陸)を経て、将来的な火星有人ミッションの基盤構築を目標とする。
STEM: Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとった教育分野の総称。アメリカにおける理系人材育成の重要概念である。
【参考リンク】
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【編集部後記】
宇宙探査の最前線で活躍する人材がどのように育成されているか、ご存知でしょうか。このローバーチャレンジは31年の歴史を持ち、参加した学生の多くが実際にNASAや航空宇宙産業で働いています。
そして実は、この競技は日本からも参加可能なのです。9月15日の応募締切まで、まだ3週間以上あります。もちろん簡単ではありませんが、東京大学のKARURAチームが火星探査の世界大会で決勝進出を果たしたように、日本の学生にも十分にチャンスがあるはずです。
もしかすると、将来の月面基地建設や火星探査を担うエンジニアが、今まさにこの記事を読んでいるかもしれません。宇宙開発における人材育成の仕組みや、私たちが宇宙に進出する未来について一緒に考えてみませんか。