イラストレーター500人が答えた「生成AIイラストの不安」 – 著作権・モラル・創作の未来を考える

[更新]2025年8月26日17:34

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(画像提供:アタムアカデミー)

急速に普及する生成AIイラスト。しかし実際に筆を執るクリエイターたちは、その光と影をどう感じているのか。今回の調査では、利便性の裏に隠された不安や懸念が浮き彫りとなり、創作の現場から見た“リアルな声”が明らかになった。

株式会社アタムが運営する、オンラインイラスト教室「アタムアカデミー」は、趣味や仕事でイラストを描いている500人に対して、画像生成AIに関するアンケート調査を実施し、その結果を、株式会社スネイル代表の浦野周平氏の考察とともに公表した。

アタムアカデミー(https://atam-academy.com/)は、株式会社アタムが運営するオンラインイラスト教室。子どもから大人まで幅広い世代を対象に、デジタルイラストやアナログ表現を学べるカリキュラムを展開。2020年にサービス開始し、全国各地の受講者に向けて「描く楽しさ」と「表現力の育成」を提供してきた。

株式会社スネイル(http://www.snail-inc.com/)は、グラフィックデザインやイラストレーション制作、Webサイト企画・制作・管理をはじめ、キャラクター商品の企画開発や雑貨・ペット用品の企画・販売まで幅広く手がける企業。また、インターネットを利用した情報提供サービスや広告業務にも取り組み、多様な分野でデザインとビジネスを結びつけている。

代表の浦野周平氏は、デザイン・イラスト業界に長年携わり、クリエイティブ領域の経験を背景に、今回の「生成AIイラストに関する調査」に対しても専門的かつ冷静な視点から考察を提供している。

From: 文献リンクhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000039.000038075.html

【編集部解説】

今回公表された、アンケート調査の結果を順番に確認していきましょう。

設問は4つあり、それぞれの上位5位が公表されています。

  • 生成AIイラストに問題を感じたことがあるか
  • 生成AIイラストに感じた問題
  • 生成AIイラストで実際に困ったこと・感じた違和感
  • 生成AIイラストとの向き合い方

生成AIイラストに問題を感じたことがあるか

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「よくある・時々ある」という回答の合計が86.6%にもおよび、非常に多くの人が生成AIイラストに対してなにかしらの問題意識を抱えていることがわかります。

ではいったい、どういったことに問題を抱えているのでしょうか。

生成AIイラストに感じた問題

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圧倒的1位には、やはり著作権の問題が挙げられました。半数以上の方が、問題意識を抱えており、使うことで加害者になるのでは、自分が知らないうちに被害者になっているのではないかという不安を抱えていることになります。

また、粗製濫造なイラストがあふれかえることや、イラストレーターの仕事や立場が失われるのではという不安も大きいことがわかります。

まずは、著作権やその他の法的問題について整理しましょう。

無断学習は合法と明言されている

文化庁は、AIの学習は著作権法30条の4に基づく「解析利用」に当たり、権利者の許可を得ずとも合法であると整理しています。つまり、学習行為そのものは違法ではありません。問題とされるのは、その後に生成した画像の使い方になります。

絵柄は著作権保護の対象外

作風やタッチ、色使いといった「絵柄」そのものは著作権法の保護対象にはなりません。したがって「○○風」といったスタイルを真似ただけでは侵害にはなりません。

ただし、その結果として元の作者の市場を奪い、経済的利益を損なったり、不適切な内容のイラストを生成し、作者のイメージを損なうような利用は違法とされる可能性が高くなります。

あるいは、無許可で「○○風」と明言したりすれば名誉棄損罪、著作者人格権の侵害、不正競争防止法、景品表示法などの罪に問われる可能性があります。

これらの問題は生成AIに限った話ではありませんが、特に、利用者の認識や技術が足りないまま生成AIを利用する際によく起こりがちな問題と言えるでしょう。

最も注意が必要な点

例えば、特定のキャラクターなどの、既存の著作物と酷似した特徴を持つ生成AIイラストが出力された場合、

  • 利用者の意図によるものなのか
  • 学習データに特定キャラが含まれていたのか
  • 偶然の一致なのか

という要素が複雑に絡み合い、不用意に公開すれば、著作権だけでなく商標権、不正競争防止法、肖像権といった複数の法的リスクに発展します。ここが最も注意を要するポイントです。

個人利用のためならば、著作権等の問題が起こることはありません。利用しようとしている生成AIが、個人で楽しむことを趣旨としているのか、あるいはビジネスシーンなどでの活用を前提としているのかで学習内容や出力結果に差が出てくることが今後増えると予想されます。自分がどういった用途で利用するのか、ということを強く意識する必要があるでしょう。

過度に不安になる必要はない

こうした不安が根強くある一方で、日本政府は 「AIを活用し、社会に取り入れていくこと」 を基本方針に据えています。2025年6月に公布された「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(通称:AI推進法)」は、AIを全面的に禁止したり厳格に制限するのではなく、研究開発や実用化を後押ししつつ、リスクには適切に対応するという姿勢を示しました。

つまり日本は、「まずは使ってみて、問題があればその都度対応する」という柔軟な方針を取っています。これはEUのように規制を先行させる立場とは対照的です。

このことは、クリエイターやユーザーにとって「過度に不安になる必要はない」ことを意味します。もちろん、生成AIがもたらすリスクを無視してよいわけではありませんが、利用を前提とした制度設計が進んでいるという事実は安心材料となるでしょう。

AI推進法はまだ成立から日が浅く、判例やユースケースがほぼないため、「絶対に大丈夫なライン」が不明瞭であり、不安に感じるのは当然です。ですが、今後は、判例の蓄積や業界ガイドラインの整備を通じて、より具体的な運用が固まっていくはずです。その過渡期にいる私たちは、リスクを正しく理解しながら積極的に技術を活用する姿勢が求められています。

あふれかえる生成AIイラスト

絵を描くという行為は、言ってしまえば、才能や努力が求められる特別な技能です。自分を表現したくても思うようにできない人は数え切れないほどいます。

しかし、この数年で急速に進化した生成AIは、その創作のハードルを一気に下げました。これは喜ばしい事実であり、創作の「入口」が広がったことの価値は計り知れません。大切なのは、その入口をどう活かすかです。

そして、AI技術や利用者のスキルが成熟していけば、現在あふれている粗悪なイラストは自然と淘汰されていくでしょう。

イラストレーターの在り方が急激に変化している

生成AIは、従来の常識を覆す存在です。描くこと自体の価値が揺らぎ、不安を抱くクリエイターが多いのも当然でしょう。

しかし、努力が実を結ぶという本質は変わりません。1から描ける力は今も尊いスキルですし、それにAIを組み合わせることで、より速く、高品質で、安定した成果を出すことが可能になります。

いま問われているのは「イラストレーターという職業の在り方」です。描く力に加え、技術の活用力や自己発信力を備えた人が新しい時代のプロとして生き残っていくでしょう。

忘れてはならないのは、生成AIも既存のイラストに支えられているということです。使う側はそこに敬意を払うべきであり、逆に、使われる側の立場をビジネスチャンスへと変える可能性もあります。

特にビジネスとして絵を描く人は、「AIで十分」と言われない価値とは何かを改めて考え直さなければなりません。知らなければならないことを学び、やるべきことをやらなければ、そもそも土俵にすら立てない。それが現実です。

趣味で描く人たちも、「なぜ描いているのか」という原点を振り返ることが必要です。自分のためなのか、誰かのためなのか。最初に筆を手にしたときの気持ちを忘れてはいけません。

技術革新は止まらない

一度生まれた技術は、どれほど危険であっても消えることはありません。どれだけ多くの命を奪っても兵器がなくならないように、生成AIもなくなることはないのです。

であれば、私たちに求められるのは、それをどう使いこなし、どう向き合うかを考え続ける姿勢です。それこそが、いまの時代を生きる私たちに課せられた責任なのではないでしょうか。

生成AIイラストで実際に困ったこと・感じた違和感

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ここでもやはり、著作権侵害という点が上位にあがっています。

そのほか「生成AIに騙された」「手描きだと嘘をつく人がいる」といった、生成AIを使う人のモラルや法的な意識の欠如が問題視されています。

当然、著作権侵害などの違法行為は取り締まりの対象であり、今後も事例の蓄積によって線引きが明確化されていくでしょう。もし「これは違法ではないか?」と感じる場面があれば、安易に自己判断せず、専門家に相談することが業界の健全化にもつながります。

一方で、「生成AIを使ったのに申告しない」「生成物を自作と主張する」といった行為は、趣味の範囲であれば違法とまでは言えませんが、コミュニティや業界内での信頼を損なう原因となります。こうした部分は法律で細かく規定することが難しく、最終的には利用者一人ひとりのモラルと透明性に委ねられる領域です。

問題は生成AIそのものなのか?

ここで考えるべきは、「本当にAIが問題の元凶なのか?」という視点です。承認欲求を満たすための虚偽や、違法すれすれの商売は、いつの時代にも存在してきました。つまり、生成AIによって新たに人間のモラル問題が生まれたわけではなく、時代に合わせて形を変え続けているだけなのです。

だからといって許容してよいわけではありません。社会と向き合う責任を持つことは、生成AIを使うかどうかに関わらず、すべての創作者に課された姿勢です。不適切な行為に流されず、誠実な発信を続けることこそが、クリエイターにとって最も重要な信頼資産になるでしょう。

生成AIイラストとの向き合い方

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今回のアンケート調査の結果では、「使いたい」という旨の意見が「できるだけ使わない」を上回る結果になりました。

あいまいな脳内イメージをスケッチしたものが生成AIの力でデッサンになり、それをベースに肉付けしていきイラストを描く。あるいは、線画に簡単にベタ塗りしたものを、重厚な厚塗り風に仕立て上げる。短時間で大量に生成できることから、それを眺めながらインスピレーションを得る。

使い方によって、生成AIはイラストレーターの弱点や苦手を補う強力なツールとなります。こういった使い方ならば、人の創作的寄与が大きく認められ、著作物として保護される対象となる可能性も十分に高いでしょう。

すでに、生成AIをツールとして、リスクに配慮しながら利用している・しようとしている人が多くいる一方で、法的課題や透明性などの懸念点が解決するまでは使わないという判断をする人も多くいることがうかがえます。

大切なのは、どちらの選択肢も間違いではないということです。生成AIはお手軽に「完成品」を作るだけでなく、発想の補助や表現の拡張など多様な使い道を持ちます。だからこそ、知識や理解を深め、自分はどの立場を取るのかを意識的に選ぶことが重要です。

技術は止まりません。であれば、その技術とどう向き合うかを選び続けることこそが、クリエイターにもユーザーにも求められる態度なのです。

【編集部後記】

今回のアンケート調査で意外だったことは、「生成AIイラストに問題を感じたことがあるか」という質問に対して、「よくある・時々ある」という回答の合計が86.6%という高い結果になり、全体の半数以上の人が著作権侵害など、具体的な問題意識を抱えているうえで、「できる限り使いたくない」という意見が21.8%にとどまっているという点です。

これは、実際に仕事・趣味に関わらず、イラストという創作活動に関わっている人たちが、モラルのない人たちによる生成AIの悪用や、それを含めたAI全般に対する批判的な意見が飛び交う中で、正しい使い方を模索しようとしている人が多いことを表していると言えるでしょう。

この先の時代において、創作とは何か、「良いイラスト」とは何か、既存の手法や価値観は急速に変化していきます。

それでも、人が描くことの意味は決してなくなりません。

イラストとは、魂の表現であり、イラストレーターがどう世界を見ているのかというのを感じることができます。

仮に生成AIがどんなに便利なツールになっても、塗りが好きな人が塗りをAIに任せるでしょうか?どうしても描きたい一瞬のデッサンをAIに丸投げするでしょうか?

ビジネスにおいては必ずしもそうとは限らないかもしれません。ですが、作品を見て、人の心を動かしたからこそ、商談が発生し、契約が成立するはずです。

自分が真に表現したいものは何なのか?絵を描いているときどんな気持ちになるのか?これらは、決してAIに奪われるものではありません。

イラストを見る人々も、そのイラストに込められた想いや意図、趣向、主張、そういったものに意識を向けてみてはいかがでしょうか。

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りょうとく
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