英国環境庁とtechUKがイングランド周辺の73のデータセンターを調査した結果、51%が水を使わない冷却システムを使用し、64%が年間10,000㎥未満の水を使用していることが判明した。これは平均的なレクリエーションセンターよりも少ない水使用量である。89%のデータセンターが水の使用量を監視している。
英国環境庁水資源担当副局長リチャード・トンプソン氏は、英国のデータセンターがさまざまな冷却技術を利用し水を意識するようになっていると述べた。一方で電力消費の問題は残っている。ChatGPTのサム・アルトマン氏によると、平均的なクエリは約0.34ワット時のエネルギーを使用する。GoogleのGeminiはクエリあたり平均0.24ワット時のエネルギーと0.26mLの水を使用している。Grokは1〜2ワット時のエネルギーを使用する可能性がある。Googleは最近の12ヶ月間でGemini Appsのテキストプロンプトのエネルギーとカーボンフットプリントがそれぞれ33倍、44倍減少したと報告した。2023年の研究では、アメリカ人の約30%が人工知能を日常的に使用し、ロイター/イプソス世論調査では61%がエネルギーコストを懸念していることが示された。
From: GPT-5 drives AI resource surge, but data centers show surprising efficiency
【編集部解説】
今回のニュースは、AI業界におけるエネルギー問題の重要な転換点を示しています。GPT-5のような大規模言語モデルが登場する一方で、データセンターの水使用効率化が進んでいるという対照的な側面を浮き彫りにしています。
まず、GPT-5のエネルギー消費について最新情報を確認すると、ロードアイランド大学の研究によると1回のクエリで約18.35ワット時を消費し、これはGPT-4の約8.6倍に相当します。中程度の応答生成(約1,000トークン)では最大40ワット時を消費する可能性があります。ChatGPTが日々25億件のリクエストを処理していることを考えると、その総エネルギー消費量は米国の150万世帯の日次電力需要に匹敵する規模です。
一方で、英国環境庁とtechUKの調査結果は、従来の予想を覆すものでした。データセンターの51%が水を使わない冷却システムを採用し、64%が年間10,000㎥未満の水使用に抑えている点は注目に値します。これは国際エネルギー機関(IEA)の報告とは対照的で、同機関は100MWのデータセンターが年間約25億リットルの水を消費すると推計していました。
このギャップは、データセンター業界における冷却技術の多様化を示しています。従来の蒸発冷却システムでは使用水の約80%が蒸発により失われていましたが、英国のデータセンターでは空冷システムや液冷システムなど、より効率的な冷却技術の導入が進んでいることが判明しました。
しかし、水使用量の改善は電力問題を解決するものではありません。AIモデルの性能向上に伴い、GPT-5は「思考モード」処理時に標準的な応答の5〜10倍の電力を消費します。これは単なる技術的制約ではなく、AI産業全体が直面する根本的な課題です。
興味深いことに、Googleは異なるアプローチを示しています。同社のGeminiは1クエリあたり0.24ワット時のエネルギーと0.26mLの水を使用し、この数値は過去12ヶ月でエネルギー消費が33倍、カーボンフットプリントが44倍改善されたと報告しています。これは最適化技術と再生可能エネルギーの活用によるものです。
将来への影響を考えると、この技術格差は業界の二極化を示唆しています。効率化に成功した企業とそうでない企業の間で、持続可能性とコストの両面で大きな差が生まれる可能性があります。特に、2030年までにデータセンターの水消費量が1兆2000億リットルに達するという予測を考慮すると、効率的な冷却技術の採用は企業戦略上の必須事項となるでしょう。
規制面では、英国環境庁の積極的な調査姿勢が他国の規制当局にも影響を与える可能性があります。水資源の持続可能な利用に関する基準設定や、AI企業に対するエネルギー効率の開示義務化などが議論される土台が整いつつあります。
このニュースが示すのは、AI技術の進歩と環境負荷の低減が両立可能であるという希望的な側面と、それには相当な技術的努力と戦略的投資が必要だという現実です。業界全体として、持続可能なAI開発への転換点に立っていることは間違いありません。
【用語解説】
GPT-5: OpenAIが2025年8月7日に発表した最新の大規模言語モデルで、「通常モード」「深い推論」「プロモード」の3つの動作モードを持つ。コーディング、数学、視覚認識などで最先端の性能を誇り、クエリ当たり約18.35ワット時の電力を消費する。
蒸発冷却システム: データセンターで使用される冷却方式の一つで、水の蒸発を利用してサーバーを冷却する。使用水の約80%が蒸発により失われるため、水消費量が大きいとされている。
空冷システム: 水を使わずに空気の流れによってサーバーを冷却する方式。従来の水冷システムと比較して水資源への依存を大幅に削減できる。
液冷システム: サーバーに直接液体(水以外の冷却液も含む)を循環させて冷却する方式。空冷よりも効率的で、データセンターの省スペース化も実現できる。
【参考リンク】
OpenAI(外部)
ChatGPTやGPT-5を開発するアメリカの人工知能企業。非営利組織として設立され、現在は複合的な企業構造を持つ。
Google Gemini(外部)
Googleが開発したAIアシスタント。多言語対応で創造性と生産性を高める機能を提供する。クエリあたり0.24ワット時の電力消費。
techUK(外部)
英国のテクノロジー業界を代表する会員組織。1000以上の企業が加盟し、政策提言やイノベーション促進を行う。
英国環境庁 公式サイト(外部)
英国の環境保護を担当する政府機関。水資源管理や環境規制の策定・実施を行う。今回の調査に協力した。
GPT-5 公式紹介ページ(外部)
GPT-5の詳細な機能や性能、使用方法について解説している公式ページ。コーディングや健康関連での活用事例も紹介。
【参考動画】
【参考記事】
In a first, Google has released data on how much energy Gemini uses(外部)
Google公式発表によるGeminiの正確なエネルギー消費データ。1クエリあたり0.24ワット時のエネルギーと0.26mLの水を使用し、12ヶ月間で33倍の効率改善を達成。
Google reveals how much energy a Gemini query uses(外部)
業界初となるGoogleのAIエネルギー使用量公開について詳細に報告。Geminiの環境フットプリントが大幅に改善されたことを確認。
OpenAI’s GPT-5 consumes over eight times the power of GPT-4(外部)
ロードアイランド大学の研究を基に、GPT-5がGPT-4の約8.6倍の電力(18.35ワット時/クエリ)を消費することを報告。思考モードでは標準応答の5-10倍の電力を使用する。
ChatGPT 5 power consumption could be as much as eight times higher than GPT-4(外部)
GPT-5の電力消費が最大40ワット時に達する可能性があり、これは平均的な家庭が1日使用する電力の約0.04%に相当することを分析。
How AI Demand Is Draining Local Water Supplies(外部)
AI需要の増加により2030年までにデータセンターの水消費量が1兆2000億リットルに達する可能性を報告。地域の水供給への影響を詳細に分析。
Report: Water use in AI and Data Centres Executive summary(外部)
英国環境庁とtechUKが実施した73のデータセンター調査の公式報告書。51%が無水冷却システム、64%が年間10,000㎥未満の水使用という具体的データを提供。
【編集部後記】
私も、このニュースを読みながら考え込んでしまいました。GPT-5のような革新的なAIを使い続けたい一方で、地球環境への責任も感じるジレンマです。
みなさんはどう思われますか?今回の英国データセンターの水効率化のように、技術の進歩で環境負荷を減らせる可能性に希望を見いだしますか?それとも、根本的にAI利用を見直すべきと考えますか?
私たちの日常でのChatGPTやGemini使用が、想像以上にエネルギーを消費していることを知って驚いています。GPT-5の1クエリがLEDライトバルブ約35分点灯分のエネルギーと聞くと、使い方も変わりそうです。