Northern Lights、世界初のCO2海底貯留施設が稼働開始

[更新]2025年8月27日11:20

Northern Lights、世界初のCO2海底貯留施設が稼働開始 - innovaTopia - (イノベトピア)

世界初のサードパーティCO2輸送・貯留施設「Northern Lights」が稼働を開始し、初回のCO2が海底2,600メートル下の貯留層に注入・貯留された。

CO2はBrevik(ブレヴィク)にあるハイデルベルグマテリアルズのセメント工場から船舶で輸送され、100キロメートルのパイプラインを通じて北海の海底下にあるAurora貯留層に注入される。

CO2注入の開始により、年間150万トンのCO2処理能力を持つフェーズ1が完了した。3月には、輸送・貯留能力を年間最低500万トンまで増強するフェーズ2開発の最終投資決定が行われ、Stockholm Exergiから年間最大90万トンのCO2を輸送・貯留する契約を締結した。

この拡張はConnecting Europe Facility for Energy(CEF Energy)資金調達スキームからの助成金により実現された。Northern Lightsジョイントベンチャーは、Equinor、Shell、TotalEnergiesが等分に所有する。Equinorは2035年までに年間3,000万~5,000万トンのCO2輸送・貯留能力を目指している。

From: 文献リンクFirst CO2 volumes stored at Northern Lights

【編集部解説】

Northern Lightsプロジェクトの稼働開始は、気候変動対策技術において極めて重要な転換点を示しています。これまでCCS(Carbon Capture and Storage)技術は実証段階に留まっていましたが、今回の成功により商業レベルでの実用化が現実のものとなりました。

このプロジェクトの技術的な仕組みを詳しく見てみると、セメント工場で発生したCO2を液体化してタンカー船で輸送し、陸上施設で一時貯蔵した後、100キロメートルのパイプラインを通じて海底2,600メートル下の地層に恒久的に封じ込める複雑なプロセスを構成しています。特に注目すべきは、この深度がCO2の安全な長期貯留に適した地質条件を満たしていることです。

プロジェクトの経済規模から見ると、フェーズ1の年間150万トンは約30万台の自動車排出量に相当し、25年間で合計3,750万トンのCO2を貯留する計画です。フェーズ2では最低年間500万トンまで拡張され、これは現在の3倍以上の規模となります。

このプロジェクトはノルウェー政府主導の「Longship」プロジェクトの一環として位置づけられており、総額NOK 340億の国家的気候変動対策事業の中核を成しています。政府の強力な支援により、世界初の本格的CCSバリューチェーンが実現しました。

しかし、この技術には潜在的なリスクも存在します。CO2は窒息性ガスであり、大規模な漏洩が発生した場合の安全対策が重要になります。また、海洋に漏出した場合の海洋酸性化への影響も懸念されており、長期的な環境監視が不可欠です。

規制面では、ノルウェー政府の強力な政策支援とEUのConnecting Europe Facility for Energy(CEF Energy)からの助成金が事業実現の鍵となりました。これは他国でのCCSプロジェクト展開における政策枠組みの重要性を示す事例でもあります。

将来的な影響を考えると、このプロジェクトは欧州全体のCCS産業構築の起点となる可能性があります。Equinorは2035年までに年間3,000万〜5,000万トンの処理能力を目指しており、これが実現すれば産業規模でのCO2削減に大きく貢献することになるでしょう。特にセメントや製鉄業といった脱炭素化が困難とされる産業にとって、実用的な解決策を提示した意義は計り知れません。

【用語解説】

CCS(Carbon Capture and Storage)
二酸化炭素回収・貯留技術。工場や発電所などから排出されるCO2を回収し、地下深部の地層に恒久的に貯蔵する技術である。気候変動対策の重要な手段として注目されている。

Longship
ノルウェー政府が主導する世界初の本格的CCSバリューチェーン実証プロジェクト。Brevik CCS(炭素回収)、Northern Lights(輸送・貯留)、Oslo CCS(計画中)で構成される総額NOK 340億の国家的気候変動対策事業である。

サードパーティ
第三者という意味で、CO2を排出する企業とは異なる独立した事業者がCO2の輸送・貯留サービスを提供することを指す。複数の企業からのCO2を一括して処理できるため、効率的な運用が可能になる。

【参考リンク】

Northern Lights(外部)
世界初のサードパーティCO2輸送・貯留施設を運営する企業公式サイト

Equinor(外部)
ノルウェーの国際的エネルギー企業、2050年ネットゼロ目標の統合型企業

TotalEnergies(外部)
フランス本社の世界最大級統合型エネルギー企業、130カ国以上で事業展開

Stockholm Exergi(外部)
ストックホルム市のエネルギー供給会社、循環型エネルギーシステム運営

【参考記事】

Norway’s Northern Lights CCS project starts operations with first CO2 injected(外部)
ロイターによる報道、年間150万トン処理能力と500万トン拡張計画を詳述

Norway: First CO2 storage in Northern Lights(外部)
TotalEnergies公式発表、5つの産業顧客確保と2028年拡張計画を発表

Longship goes into operation – A Global Breakthrough for Carbon Capture and Storage(外部)
ノルウェー政府公式発表、総額NOK340億の国家的CCSバリューチェーン

World’s first commercial carbon storage facility begins operations in Norway(外部)
CBS News報道、年間170万トン貯留能力と年末550万トン拡張計画

【編集部後記】

今回のNorthern Lightsプロジェクトの成功は、私たちの日常生活にどのような変化をもたらすでしょうか。

セメント工場や製鉄所、火力発電所など、私たちの社会インフラを支える産業から排出されるCO2が、実際に地下深くに安全に貯蔵できることが証明されました。皆さんがお住まいの地域でも、将来的にはこのような技術が導入される可能性があります。

日本でも苫小牧で実証実験が行われていますが、この技術が普及すれば、私たちの生活や働く環境はどう変わると思いますか?また、CO2を「排出すべき廃棄物」から「管理可能な物質」へと捉える発想の転換について、どのような可能性を感じられるでしょうか。

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TaTsu
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