VMware「クリティカル」ライセンス導入、軍事から製造業まで特殊環境対応強化

VMware「クリティカル」ライセンス導入、軍事から製造業まで特殊環境対応強化 - innovaTopia - (イノベトピア)

VMwareが潜水艦向けにソフトウェアライセンスを調整した。VMwareがサブスクリプションモデルに移行したことで、システムは180日ごとにライセンス活動レポートをVMwareに自動アップロードする「接続モード」か、顧客が手動でライセンス情報をアップロードする「非接続モード」での運用が求められる。

軍事潜水艦はステルス性と通信遮断が重要であるため、ライセンス更新のために通信することができない。VMwareは一部ユーザーに対してライセンスを「クリティカル」に指定することを許可し、適切なタイミングまでライセンス報告を不要とした。

BroadcomのCloud Foundation Division担当副社長Paul Turnerによると、これらのライセンスは戦車やその他の機密性の高いシナリオでも使用されている。製造業の顧客が工場フロアのサーバーにCloud Foundationを採用することが増加している。

自動車メーカーAudiは機械を制御するサーバーにVMを送信する方法を採用している。韓国と台湾の製造業者も同様の取り組みを行っている。インドの第二層銀行がインフラ近代化でVCFに契約している。

欧米の銀行は500万のコンピュートコアにまたがるプライベートクラウドを運営し、一部は2〜3週間ごとにクラウドを完全削除して再構築している。

From: 文献リンクVMware tweaked software licenses to suit submarines – The Register

【編集部解説】

このニュースは一見すると特殊用途向けのライセンス調整に思えますが、実際にはBroadcom買収後のVMwareが直面している現実的な課題とその解決策を示しています。

まず注目すべきは、潜水艦という特殊環境への対応が必要になった背景です。VMwareはサブスクリプションモデル移行により、180日ごとのライセンス報告を義務付けていますが、軍事潜水艦は通信を行うことで位置が露呈するリスクがあります。この矛盾を「クリティカル」ライセンスで解決したことは、企業のライセンス戦略が単なる収益モデルではなく、実用性を重視したものであることを物語っています。

しかし、この調整の真の意義は別の場所にあります。製造業での大規模な採用が進んでいる点です。Audiの事例では、工場フロアにVMware Cloud Foundation Edgeを導入し、個別の産業用コンピュータ(IPC)を統合された仮想化プラットフォームに置き換えました。この変革により、製造実行システム(MES)から車両診断まで、工場の重要なワークロードを一元管理できるようになっています。

特に興味深いのは、Audiが7ヶ月でプロダクションワークロードを稼働させ、1年以内に第2工場も同様のブループリントで立ち上げた速度感です。これは、従来のIT導入サイクルと比較して格段に短期間での実装を実現しており、ソフトウェア定義型製造の実用性を実証しています。

一方で、金融業界での展開も注目に値します。インドの第二層銀行がVCFを採用し、インフラ近代化を進めている点、そして欧米の銀行が500万コアに及ぶプライベートクラウドを運営している規模感は、VMwareのエンタープライズ市場における地位を示しています。

特に興味深いのは、一部の銀行が2〜3週間ごとにプライベートクラウド全体を完全削除・再構築している点です。これは「イミュータブル・インフラストラクチャ」と呼ばれるセキュリティ手法で、潜伏する脅威を物理的に排除する最も確実な方法です。従来は技術的・コスト的に困難でしたが、仮想化技術の成熟により実現可能になりました。

このような多様な業界での採用は、Broadcomの統合効果が表れていることを示唆しています。Fortune 500企業の上位10社中9社がVCFにコミットし、全世界で1億コアを超えるライセンスを獲得した実績は、同社の戦略が奏功していることを物語っています。

ただし、リスクも存在します。2025年4月のライセンス最低要件の72コアへの引き上げや、8月のパートナープログラム変更など、Broadcomの積極的な変更は一部の企業に負担増をもたらしています。しかし、これらの変更は同時に、より統合された高機能なプラットフォームの提供を目指すものでもあります。

今回の潜水艦向けライセンス調整は、VMwareが単なるサーバー仮想化からインフラストラクチャ全体の抽象化プラットフォームへと進化していることを象徴的に示しています。軍事、製造、金融という異なる業界の特殊要求に柔軟に対応できる技術的基盤が、次世代のデジタルトランスフォーメーションを支える重要な要素となっているのです。

【用語解説】

サブスクリプションモデル
従来の永続ライセンスから、定期契約による利用料金支払い方式への転換。VMwareは2024年からこのモデルに完全移行し、定期的なライセンス報告が必要になった。

ライセンス報告
ソフトウェアの使用状況を定期的にベンダーに報告する仕組み。VMwareでは180日ごとに自動または手動でライセンス情報をアップロードする必要がある。

クリティカルライセンス
特殊な環境での使用を想定したライセンス形態。通常の報告義務を一時的に免除し、適切なタイミングでの報告を可能にする。

イミュータブル・インフラストラクチャ
システム全体を定期的に完全削除・再構築することで、潜伏する脅威を物理的に排除するセキュリティ手法。仮想化技術により実現可能になった。

ソフトウェア定義型製造
製造設備をソフトウェアで制御し、プログラム変更により異なる生産タスクに対応できる製造システム。従来の固定的な産業用コンピュータを仮想化で統合する。

【参考リンク】

VMware Cloud Foundation(外部)
パブリッククラウドの拡張性・俊敏性とプライベートクラウドのセキュリティ・パフォーマンスを融合した統合プラットフォーム

Broadcom Inc.(外部)
2018年にVMwareを690億ドルで買収した半導体・ソフトウェア企業。ライセンス体系を大幅に変更し、サブスクリプションモデルへの完全移行を推進

Broadcom サポートポータル(外部)
VMware製品を含むBroadcom製品の技術サポート、ドキュメント、ダウンロードを提供するポータルサイト

【参考記事】

Audi Introduces Smart Manufacturing with VMware Cloud Foundation Edge(外部)
Audiが工場フロアにVMware Cloud Foundation Edgeを導入し、従来の産業用コンピュータを統合仮想化プラットフォームに置き換えた事例を詳細に解説

Audi and VCF Professional Services Collaborate to Pioneer Smart Manufacturing(外部)
Audiが7ヶ月でプロダクションワークロードを稼働させ、1年以内に第2工場も同様のブループリントで立ち上げた詳細な実装プロセスを紹介

Broadcom Makes VMware Cloud Foundation an AI Native Platform(外部)
2025年8月のVMware ExploreでのVCFのAIネイティブ化と、Fortune 500企業上位10社中9社のVCFコミット、全世界で1億コア超のライセンス獲得実績を報告

Broadcom’s VMware 2025 focus is on acceleration, adoption(外部)
Broadcom統合後のVMware戦略について詳細分析。2025年4月のライセンス最低要件の72コア引き上げなど、積極的な変更による市場への影響を解説

【編集部後記】

今回のVMware事例を見ていると、仮想化技術が従来のIT分野を超えて、製造現場や軍事分野まで浸透していることに驚かされます。皆さんの身近な業界でも、きっと似たような「現場のニーズと新技術の間の溝」が存在しているのではないでしょうか。

特に興味深いのは、潜水艦という極限環境でのライセンス調整と、Audiのような製造現場での活用が、実は同じ技術基盤で解決されているという点です。これは、「Tech for Human Evolution」というコンセプトそのものですね。

皆さんが関わる業界では、どのようなデジタル変革の波が押し寄せているでしょうか。また、現場の制約と新技術の間で、どのような創造的な解決策が生まれているか、ぜひ教えていただけると嬉しいです。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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