LOCL-TL技術でミトコンドリアタンパク質合成を可視化、MITが画期的ツール開発

LOCL-TL技術でミトコンドリアタンパク質合成を可視化、MITが画期的ツール開発 - innovaTopia - (イノベトピア)

MIT生物学教授でホワイトヘッド生物医学研究所メンバーのジョナサン・ワイスマンと研究室のポストドクであるジンチュアン・ルオが、ミトコンドリアにおける局所翻訳を研究する新しいツール「LOCL-TL」を開発した。

研究チームは既存の酵素BirAを改良し、バイオチンではなく青色光に反応するLOV-BirAを開発した。このツールはミトコンドリアの外膜に融合され、青色光によって活性化されてリボソームにタグを付ける。

研究により、主要細胞ゲノムに位置するミトコンドリアで必要な遺伝子の約20パーセントがミトコンドリアで局所翻訳されることが判明した。局所翻訳されるタンパク質は2つのグループに分類される。第1グループは400個以上のアミノ酸を含む長いタンパク質で、細菌起源であり哺乳動物と酵母細胞の両方で局所翻訳される。第2グループは200個未満のアミノ酸を含む短いタンパク質で、RNA結合タンパク質AKAP1によってミトコンドリアに誘導される。

From: 文献リンクLocally produced proteins help mitochondria function

【編集部解説】

MITの研究は、従来の細胞生物学の教科書を書き換える可能性を秘めた画期的な発見です。これまで細胞内でのタンパク質合成は核から離れた場所でランダムに行われると考えられてきましたが、実際には極めて精密に制御された局所的システムが存在することが明らかになりました。

特に注目すべきは、研究チームが開発したLOCL-TLという新技術の革新性です。青色光を使ってリボソームを瞬時にタグ付けする手法は、従来のバイオチン依存システムが哺乳動物細胞では使用できなかった技術的制約を見事に解決しています。この手法により、わずか数分という短時間でミトコンドリア近傍で働くリボソームを正確に捕捉することが可能になったのです。

研究で明らかになった2つのタンパク質群の存在は、生命進化の複雑さを物語っています。400個以上のアミノ酸を含む長いタンパク質群は細菌起源であり、ミトコンドリアが元々独立した細菌だったという内部共生説を裏付ける証拠となります。一方、200個未満のアミノ酸からなる短いタンパク質群は進化的により新しく、AKAP1という分子によって制御されています。

この発見が医療分野に与える影響は計り知れません。ミトコンドリア機能不全は神経変性疾患、心血管疾患、がんといった多くの疾患の根本原因とされており、局所翻訳の制御メカニズムを理解することで、これらの疾患に対する全く新しい治療アプローチが開発される可能性があります。

ただし、この技術にはリスクも存在します。もしも局所翻訳を人工的に操作した場合、細胞のエネルギー代謝バランスが崩れる可能性や、予期しない副作用が生じる恐れもあるでしょう。また、現時点では基礎研究段階であり、実際の治療応用までには長期間を要することが予想されます。

長期的な視点では、この研究は再生医療や老化研究にも大きな影響を与える可能性があります。細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの機能を精密に制御できれば、組織の再生能力向上や老化プロセスの遅延といった応用も夢ではありません。

【用語解説】

局所翻訳(Local Translation)
細胞内の特定の場所でタンパク質が合成されるプロセスで、タンパク質の機能や配置を正確に調整する役割がある。

リボソーム
RNAの情報を読み取り、タンパク質を合成する細胞内の分子機械。

RNA結合タンパク質AKAP1
ミトコンドリアに局在し、特定のRNAをミトコンドリアへ誘導する役割を持つタンパク質。

【参考リンク】

ホワイトヘッド生物医学研究所(外部)
MITにある生物医学研究所であり、ジョナサン・ワイスマン教授も所属している研究機関

ホワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)(外部)
基礎医学研究を推進する非営利の研究機関で、ワイスマン教授はここでも研究を行っている

MIT生物学部(外部)
MITの生物学部であり、ワイスマン教授の所属部門

【参考記事】

Proximity-specific ribosome profiling reveals the logic of localized translation(外部)
局所的なリボソームプロファイリングにより、細胞内局所翻訳の仕組みが明らかになった研究

AKAP1 contributes to impaired mtDNA replication and mitochondrial dysfunction(外部)
RNA結合タンパク質AKAP1がミトコンドリアのDNA複製と機能に関わることを示す研究

Local mitochondrial replication in the periphery of neurons requires specialized ribosomes(外部)
神経細胞の末端でのミトコンドリア複製に関わる局所的なメカニズムについての論文

【編集部後記】

細胞の中でタンパク質がどのように作られるか、私たちは学校で基本的な流れを学びましたが、実際にはもっと精密で美しいシステムが働いているのですね。今回のLOCL-TLという新技術は、その複雑なメカニズムを詳細に観察できるツールですが、皆さんはご自身の細胞がどのように効率的に「必要な場所で必要なタンパク質を作る」仕組みについて、どう感じられますか?

また、このような基礎研究の成果が将来的に神経変性疾患やがんの治療に応用される可能性があることを考えると、科学の探求がどれほど私たちの未来に影響を与えるのか、改めて興味深く考えさせられますね。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

読み込み中…
advertisements
読み込み中…