Environmental Working Group(EWG)の研究チームは、ACS ES&T Water誌にPFAS除去技術に関する新研究を木曜日に発表した。
この研究では、2018年から2022年の間にPFAS処理システムを設置した19の水道システムを対象に分析を実施した。研究結果によると、PFAS除去技術がトリハロメタンのレベルを平均42%、ハロ酢酸レベルを平均50%削減することが判明した。これらの物質は塩素消毒の副生成物で、特定のがんとの関連が指摘されている。
トランプ政権は5月、環境保護庁(EPA)がPFAS規制の6種類の化学物質のうち4種類について再検討し、期限を2年延長すると発表した。バイデン政権は昨年、飲料水中のPFAS濃度に初の法的制限を設け、水道事業者に2029年までの浄化を義務付けていた。
EPAの報道官ブリジット・ハーシュは、4種類の化学物質の基準再検討について「その結果、より厳しい要件となる可能性がある」と述べた。
研究では、500人未満にサービスを提供する水道システムの7%のみが高度水ろ過システムを有する一方、10万人以上のシステムでは30%近くが導入していることも明らかになった。
デューク大学土木環境工学部のP. リー・ファーガソン教授は、この研究がPFAS除去技術の付随的利益を実証する興味深い試みだと評価した。
From: It’s Possible to Remove the Forever Chemicals in Drinking Water. Will It Happen?
【編集部解説】
2025年9月4日にEnvironmental Working Group(EWG)がACS ES&T Water誌で発表した研究は、PFAS除去技術に隠された「一石二鳥効果」を科学的に実証した点で重要です。この発見は、水処理技術の費用対効果を再評価する契機となるでしょう。
従来のPFAS除去技術は、単にPFAS(永続化学物質)を取り除くことのみが注目されてきました。しかし、今回の研究により、これらのシステムが塩素消毒プロセスで発生する副生成物も同時に除去していることが明らかになりました。特にトリハロメタンとハロ酢酸という2つの重要な副生成物の大幅な削減効果は、水道システムの費用対効果を大きく押し上げる要素となります。
技術格差の問題は深刻です。研究によると、大規模水道システム(10万人以上)では30%近くが高度浄水技術を導入している一方、小規模システム(500人未満)では7%にとどまっています。この格差は、農村部や資源不足地域の住民が健康リスクに晒される可能性を示唆しています。
注目すべきは、トランプ政権のPFAS規制方針変更です。5月の発表では、6種類のPFAS化学物質のうち4種類について規制を再検討し、期限を2年延長するとしています。EPA報道官ブリジット・ハーシュは、4種類の化学物質の基準再検討について「その結果、より厳しい要件となる可能性がある」と述べていますが、業界からの圧力を受けた後退と見る向きもあります。
技術面では、超臨界水酸化(SCWO)のような新技術も注目されています。実験室レベルでは99.999%という極めて高いPFAS除去効果を示していますが、実用化にはコストと技術的課題が残っています。
2018年から2022年の間にPFAS処理システムを設置した19の水道システムという比較的小規模なサンプルサイズの研究であり、一部のシステムでは副生成物が増加するという予期せぬ結果も見られました。これは、季節変動や新たな汚染源など、複雑な要因が関与していることを示しています。
長期的視点では、この研究は水処理の統合的アプローチの重要性を示しています。単一の汚染物質を対象とした従来の規制枠組みから、複数の汚染物質を同時に考慮する包括的な規制への転換が求められるでしょう。これは、限られた予算の中で最大限の公衆衛生効果を得るという現実的な課題解決にも繋がります。
【用語解説】
PFAS(パー・アンド・ポリフルオロアルキル物質)
環境中で分解されない数千の人工化学物質の総称。「永続化学物質(forever chemicals)」とも呼ばれる。フッ素系界面活性剤の一種で、撥水性・耐熱性に優れるため様々な製品に使用されているが、環境や人体に蓄積し、がんやホルモン障害などの健康リスクが指摘される。
トリハロメタン
塩素による水道水の消毒過程で発生する副生成物の一種。高濃度で人間のがんリスクを増加させることが知られている。クロロホルム、ジブロモクロロメタンなどが代表的な化合物である。
ハロ酢酸
塩素消毒によって生じるもう一つの重要な副生成物。一部のハロ酢酸は発がん性の疑いがあるとされている。モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸などが含まれる。
高度浄水処理
従来の塩素消毒に加えて、活性炭吸着、イオン交換樹脂、高圧膜システム(逆浸透膜、ナノフィルトレーション)などの技術を組み合わせた水処理システム。PFAS除去に効果的とされる。
【参考リンク】
Environmental Working Group (EWG)(外部)
今回の研究を発表した非営利団体。化学物質の安全性や飲料水汚染に関する研究機関
EPA PFAS規制情報(外部)
米国環境保護庁によるPFAS飲料水規制の実施に関する公式情報を提供
ACS ES&T Water Journal(外部)
今回の研究論文が掲載された水質専門の国際査読付き学術誌
【参考動画】
【参考記事】
EWG Study Reveals PFAS Water Treatment Effectively Reduces Toxic PFAS and Carcinogens(外部)
今回のEWG研究について詳細な科学解説。トリハロメタン42%減の数値を含む
PFAS water treatment has double benefits(外部)
Environmental Working Groupの公式発表に基づく報道記事
Small communities left behind as advanced water treatment for PFAS spreads(外部)
小規模コミュニティにおけるPFAS処理技術導入の遅れに関する調査報道
Technology status to treat PFAS-contaminated water(外部)
Nature Water誌のPFAS汚染水処理技術の現状に関する包括的レビュー
【編集部後記】
今回のアメリカでのPFAS除去技術の研究は、日本の水道事情を考えると複雑な思いがします。アメリカでは小規模水道(500人未満)の高度浄水技術導入率が7%という格差が問題視されていますが、日本の状況はさらに深刻かもしれません。
日本では全国1,304の上水道事業のうち、実に68%が給水人口5万人未満の中小規模事業者です。これらの事業者の多くが人的体制や財政基盤の脆弱性に直面しており、水道管の老朽化対応や職員確保すら困難な状況にあります。特に給水人口1.5万人未満の地域では、人口減少率が全国平均の2倍以上という現実もあります。
このような状況で、PFAS除去のような高度浄水技術を導入するのは、アメリカ以上に困難でしょう。しかし、だからこそ今回の研究で示された「一石二鳥効果」は注目に値します。高額な設備投資が発がん性物質の除去という付加価値も生み出すなら、限られた予算の中でも導入の意義が高まります。
みなさんのお住まいの地域の水道事業者はどのような規模でしょうか。そして、安全な水を全国どこでも平等に確保するために、どのような社会的仕組みが必要だと思われますか。