AndurilとRivet、米陸軍にAR ヘッドセット数百台納入—EagleEyeとHard Specが3億5400万ドル契約で実戦テスト開始

 - innovaTopia - (イノベトピア)

アメリカ陸軍は、IVASプログラムの後継となるSBMC(Soldier-Borne Mission Command)プログラムの一環として、AndurilとMetaのチーム、およびPalantir支援のスタートアップRivetにARヘッドセットの納入契約を授与した。Andurilは1億5900万ドル、Rivetは1億9500万ドルの契約を獲得し、それぞれ数百台のプロトタイプをフィールドテスト用に納入する。

Rivetは470台の「production representative」デバイスを納入予定で、Andurilの正確な台数は未公開だが「数百台」とされる。AndurilのEagleEyeは統合弾道シェル型のヘルメットで、RivetのHard Specは厚いメガネ型デザインとなっている。SBMCプログラムは中隊レベル以下の全兵士の感覚と認知能力拡張を目指し、最終的に数十億ドル規模になる可能性がある。Palmer Luckeyによると、Andurilの大規模納入は2027年に開始予定である。

From: 文献リンクThe US Army Will Test Hundreds Of Anduril & Rivet AR Headsets In …

【編集部解説】

今回の契約発表は、軍事用AR技術の実用化において重要な転換点を示しています。特に注目すべきは、MicrosoftのHoloLensベースのIVASプログラムが直面した技術的課題を受けて、全く異なるアプローチを採用している点です。

Andurilが開発するEagleEyeは、ヘルメットにARシステムを「追加」するのではなく、防弾シェルに電子機器を完全に統合した設計となっています。これにより、従来の問題だった装着時の違和感や重量バランスの問題を根本的に解決しようとしています。一方で、RivetのHard Specは厚いメガネ型のアプローチを採用し、既存ヘルメットとの組み合わせで使用する設計です。

技術面では、EagleEyeがシリコンカーバイドベースの光学システムを採用し、wide 広視野角と高い色精度を実現している点が革新的です。また、MetaのLlamaアイモデルとAndurilのLatticeプラットフォームを組み合わせることで、様々なセンサー、衛星、ドローン、地上システムからのデータを統合処理し、リアルタイムの状況認識能力を提供します。

従来のIVASシステムが抱えていた「頭痛、眼精疲労、吐き気」といった身体的不快感の問題に対し、両社とも異なる解決策を提示しています。RivetはAndroidベースのシステムを採用し、運用部隊が現場のニーズに合わせて機能を調整できる柔軟性を重視しています。

この技術の軍事的影響は計り知れません。兵士は、ドローン検知、レーザー署名なしでのターゲット標示、敵位置の自動共有などの機能により、「超人的感覚」を獲得することになります。Palmer Luckeyは、これにより兵士が攻撃用ドローンを事前に察知し、安全な場所への誘導を受けられると説明しています。

しかし、この技術には潜在的なリスクも存在します。AR表示への過度の依存は、システム障害時の判断力低下を招く可能性があります。また、顔認識機能は、プライバシーや誤認による民間人犠牲者の懸念を生じさせます。

長期的視点では、この軍事用AR技術の発展は民間分野への技術転用を促進する可能性があります。Palmer Luckeyも「今後10年間で陸軍に販売されるSBMCハードウェアの大半は、AR・VR機器が普及するにつれて商用デバイスの改良版になるだろう」と予測しています。これは、軍民デュアルユース技術の典型例として、産業界全体のAR技術革新を加速させる可能性があります。

規制面では、敵対的レーザー防護や電子戦耐性など、軍事級の技術基準が確立されることで、民間のAR機器における安全基準の向上にも影響を与える可能性があります。

【用語解説】

Anduril Industries:Palmer Luckeyが2017年に設立したアメリカの防衛テクノロジー企業。自律システムや軍事用AIの開発を専門とする。

SBMC(Soldier-Borne Mission Command):アメリカ陸軍の次世代兵士用状況認識・指揮統制プラットフォーム。IVASプログラムの後継として開発中。

IVAS(Integrated Visual Augmentation System):MicrosoftがHoloLensベースで開発していた統合視覚強化システム。身体的不快感が問題となり中止された。

EagleEye:Andurilが開発する統合弾道シェル型ARヘルメット。すべての電子機器を防弾ヘルメットに一体化した設計が特徴。

Rivet Industries:元Microsoft HoloLensの主要スタッフが設立し、Palantirが支援するスタートアップ。軍事用ARグラス開発を専門とする。

Hard Spec:Rivet Industriesが開発する軍事・産業用途向けの厚いメガネ型ARデバイス。既存ヘルメットとの組み合わせで使用する。

防弾シェル:弾丸や爆発の衝撃から頭部を守るための防護用シェル構造。EagleEyeの基本設計思想。

Latticeプラットフォーム:Andurilが開発する統合指揮統制システム。複数のセンサーやシステムからのデータを統合処理する。

【参考リンク】

Anduril Industries公式サイト(外部)
Palmer Luckey創設の防衛テクノロジー企業。自律システム、AI、ロボティクスを活用した軍事製品を開発。

Meta公式サイト(外部)
Reality Labsを通じてAR/VR技術の開発を行う。Andurilとの軍事用XR製品開発パートナーシップに関する情報を掲載。

【参考動画】

【参考記事】

EXCLUSIVE: Army taps Anduril-Meta team, plus new entrant Rivet(外部)
Breaking Defense誌による独占記事。アメリカ陸軍がAnduril-Metaチームと新興企業Rivetを選定した経緯と契約詳細を詳述。

Army awards more than $350M in contracts for Soldier Borne Mission Command(外部)
Defense Scoop誌の報道。総額3億5400万ドル以上のSBMC契約について、両社への具体的な契約金額と納入台数の詳細を報告。

Anduril and Palantir-backed startup Rivet go head-to-head in soldier virtual display competition(外部)
Defense One誌による競合分析。AndurilとRivetの技術的アプローチの違いと軍事用AR市場における競争構造を解説。

Rivet Industries announces Hard Spec smart glasses in emerging tech pitch(外部)
Defence Connect誌の記事。Rivet IndustriesのHard Specスマートグラス発表時の詳細と軍事・産業用途での特徴を紹介。

Army picks startup Rivet to build AI-enabled soldier glasses(外部)
Defense One誌の報道。Rivetの技術的優位性とAI機能を活用した兵士用グラスの開発背景を詳述。

【編集部後記】

戦場での「人間強化」技術がついに実用段階に入りましたが、これは本当に兵士にとって福音なのでしょうか?MicrosoftのIVAS失敗から学んだ教訓がAndurilとRivetの設計にどう活かされているのか、そして470台という数は本格配備への布石なのか単なるテストなのか興味深いところです。さらに気になるのは、軍事技術としてのデータ蓄積が民間AR市場にどのような影響をもたらすかという点です。総額3億5000万ドルという投資規模を見ると、アメリカが次世代戦争の主導権確保に本気で取り組んでいることが伝わってきます。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。 デジタルエンターテインメントの未来形がいかに人間の認知と感情に働きかけるかを分析し、テクノロジーが創造する新しい未来の可能性を追求しています。

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