ブリストル大学の研究者らとNDB Inc.などのスタートアップ企業が、5,700年間充電不要で動作するカーボン14ダイヤモンドバッテリーを開発している。
この技術は核反応炉のグラファイトブロックで生成される放射性同位体カーボン14を人工ダイヤモンド内部に封じ込め、崩壊時に放出されるエネルギーを電気に変換する仕組みである。カーボン14の半減期は約5,730年で、ダイヤモンドが放射線の漏出を防ぐ保護シールドとして機能する。
ブリストル大学のトム・スコット博士は可動部分がなく排出物もないメンテナンス不要の電源だと説明している。宇宙探査では従来のプルトニウム238を使用するRTGの代替として期待されており、NASAも代替長期電力供給への関心を示している。地球上では心臓ペースメーカーや環境センサーへの応用が考えられている。
カリフォルニア州のNDB Inc.はスマートフォンやラップトップへの応用可能性を主張しているが、独立したテストや査読済みデータは限定的である。
【編集部解説】
今回紹介したカーボン14ダイヤモンドバッテリーは、単なる実験室の成果ではありません。ブリストル大学とUKAEAによる2024年12月の実証実験成功は、バッテリー業界に革命的な変化をもたらす可能性を秘めています。
この技術の核心は、従来のベータボルタイク技術の限界を突破した点にあります。従来のベータボルタイク装置では放射線源と電力変換部分が物理的に分離されているため、エネルギー変換効率が限定的でした。カーボン14を直接ダイヤモンド構造内に組み込むことで、より効率的なエネルギー変換を実現しています。
特筆すべきは、この技術が核廃棄物の再利用という社会的課題にも貢献していることでしょう。英国には現在95,000トンのグラファイトブロックが核廃棄物として保管されており、これらからカーボン14を抽出することで廃棄物の放射能レベルを下げつつ、有用なエネルギー源として活用できます。
ただし、現実的な応用には限界があることも理解しておく必要があります。1gのカーボン14を含むバッテリーの出力は1日あたり15ジュールで、これは通常のAA電池(700J/g)と比較すると極めて微小です。スマートフォンや電気自動車への応用については、技術的な課題が大きく残されています。
実用化への道筋では、医療機器分野が最も有望視されています。心臓ペースメーカーは通常7-10年で交換が必要ですが、ダイヤモンドバッテリーを使用すれば数十年間動作し続けることが可能になります。また、深海センサーや宇宙探査機など、メンテナンスが困難な環境での応用も期待されています。
規制面では、放射性物質を含む製品の商業化には厳格な安全基準をクリアする必要があります。ダイヤモンドによる完全な遮蔽が可能とはいえ、消費者の受容性や輸送・廃棄時の規制対応など、技術以外の課題も多く残されています。
長期的には、この技術がIoTデバイスの普及を加速させる可能性があります。充電やバッテリー交換が不要になることで、これまで設置が困難だった場所にも常時稼働するセンサーネットワークを構築でき、スマートシティや環境モニタリングの新たな可能性を切り開くかもしれません。
【用語解説】
カーボン14
核反応炉のグラファイトブロックで生成される放射性同位体で、半減期が約5,730年である。通常は放射性年代測定に使用されるが、崩壊時に放出されるベータ線をエネルギー源として活用できる。
ベータボルタイク技術
放射性同位体の崩壊により放出されるベータ線を直接電気エネルギーに変換する技術。従来の電磁誘導とは異なり、可動部分を必要としない。
放射性同位体熱電発電機(RTG)
放射性物質の崩壊熱を熱電変換素子によって電気に変換する装置。宇宙探査機ボイジャーや火星探査車キュリオシティなどで使用されている。
半減期
放射性物質が元の量の半分まで減少するのに要する時間。カーボン14の場合は約5,730年で、人類文明の歴史とほぼ同じ期間である。
【参考リンク】
NASA放射性同位体電力システムプログラム(外部)
宇宙探査における代替電力システムへの関心と24のNASAミッションでの成功事例を紹介
UK原子力公社(UKAEA)(外部)
2024年12月に世界初のカーボン14ダイヤモンドバッテリー製造成功を発表した公式ページ
【参考記事】
事実上”半永久的”な電源「炭素14ダイヤモンド電池」の開発に成功!(外部)
2024年12月の開発成功について、ベータボルタイク技術の仕組みを詳細に解説した日本語記事
数千年間デバイスに電力を供給できる「炭素14ダイヤモンド電池」が開発成功(外部)
ブリストル大学とUKAEAの2024年12月4日発表について、マイクロワットレベルの出力を具体的に報告
【編集部後記】
5,700年という時間軸で考えると、人類の歴史がまるごと入ってしまうほどの長さです。この技術が本当に実用化されたとき、私たちの生活はどう変わるでしょうか?
医療機器への応用では確実に患者の負担が減りそうですが、一方で「ポケットに核物質を入れて持ち歩く」ことへの心理的抵抗はどうでしょう。技術的には安全でも、社会全体の受容性という別の課題が待っています。
また、製造コストの高さや規制面での課題も残されており、実際に市場に出るまでには相当な時間がかかりそうです。みなさんなら、どの分野での実用化に最も期待されますか?宇宙探査、医療機器、それとも災害時の非常用電源でしょうか。ぜひSNSで教えてください。