9月12日【今日は何の日?】宇宙の日|毛利衛STS-47から見る日本の宇宙技術史33年

[更新]2025年9月12日07:08

9月12日【今日は何の日?】宇宙の日|毛利衛STS-47から見る日本の宇宙技術史33年 - innovaTopia - (イノベトピア)

1992年9月12日、歴史が動いた瞬間

1992年9月12日、午後11時23分(日本時間)。ケネディ宇宙センターから轟音とともに上昇するスペースシャトル「エンデバー」の中に、一人の日本人科学者の姿があった。毛利衛宇宙飛行士である。

STS-47「スペースラブJ」ミッションは、7日22時間30分の飛行で、日本とNASAの共同による宇宙実験プロジェクト「ふわっと’92」を実施。微小重力環境での22件の材料実験、12件の生命科学実験を成功させ、超伝導材料創製や鯉を使った宇宙酔いの実験など、日本の宇宙科学技術の新たな扉を開いた。

このミッションの成功は、戦後の焼け野原から宇宙に到達するまでの日本の技術革新の集大成であり、同時に現在の宇宙強国日本への出発点でもあった。今日9月12日の「宇宙の日」に、毛利衛飛行士の偉業を起点として、日本のスペーステクノロジーの歩みを振り返る。

戦後復興期:廃墟からの宇宙への第一歩(1945-1969年)

ペンシルロケット – すべての始まり

戦後の日本で宇宙開発が始まったのは、皮肉にも航空機研究の禁止がきっかけだった。GHQにより航空機研究を禁じられた東京大学の糸川英夫教授は、1952年の渡米時にアメリカの宇宙ロケット計画を知り、「これからはロケットの時代になる」との確信を抱いた。

1955年4月12日、東京都国分寺市の廃屋工場で歴史的な瞬間が訪れる。長さ23センチ、直径1.8センチ、重さ190グラムの「ペンシルロケット」が水平発射実験に成功。この小さなロケットには、燃料、燃焼室、ノズル、機体、点火装置、安定翼など、ロケットに必要な基本機能がすべて組み込まれていた。emira-t+2

この日、東京大学生産技術研究所AVSA班の総勢23名の実験班が見守る中、日本の宇宙開発の産声が上がった。現在、その場所には「日本の宇宙開発発祥の地」碑が建てられている。

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組織化の時代

1964年、東京大学宇宙航空研究所(現・JAXA宇宙科学研究所)が設立され、宇宙理学と宇宙工学が一体となった科学衛星の研究・開発が本格化した。

1969年10月1日、政府は宇宙開発の中枢機関として**宇宙開発事業団(NASDA)**を設立。「平和の目的に限り、人工衛星及び人工衛星打上げ用ロケットの開発、打上げ及び追跡を総合的、計画的かつ効率的に行う」という明確な使命を掲げた。

宇宙到達時代:技術的自立への挑戦(1970-1991年)

「おおすみ」- 世界4番目の衛星打上げ国へ

1970年2月11日13時25分、鹿児島宇宙空間観測所(内之浦)からL-4Sロケット5号機により、日本初の人工衛星「おおすみ」が打ち上げられた。重さ24キロの小さな衛星だったが、この成功により日本はソ連、アメリカ、フランスに次いで世界で4番目の人工衛星打上げ国となった。

特筆すべきは、多くの国が弾道ミサイル開発の副産物として宇宙技術を習得したのに対し、日本は大学の付属研究所が純粋な民生技術として研究を行い、非軍事目的での人工衛星開発に成功した点である。これは国際的に極めて特異な成果だった。

技術導入と自立への模索

1970年代から1980年代にかけて、日本は宇宙技術の向上を図るため、アメリカとの技術協力を積極的に進めた。1969年の「宇宙開発に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協力に関する交換公文」により、米国技術の導入が決定。note

N-Iロケット(1975年)、N-IIロケットと段階的に発展させ、1994年には純国産の大型液体ロケットH-IIの初飛行に成功した。H-IIは日本のエンジニアが独自技術で一から設計・製造したロケットで、その高性能なメインエンジン「LE-7」は世界から高く評価された。

有人宇宙時代の開幕:STS-47ミッションの意義(1992年)

毛利衛宇宙飛行士の挑戦

毛利衛宇宙飛行士のSTS-47ミッションは、単なる日本人初の宇宙飛行にとどまらない歴史的意義を持っていた。

ミッション概要

  • 期間: 1992年9月12日23:23~9月20日21:53(日本時間)
  • 飛行時間: 190時間30分
  • 搭乗員: 7名(毛利衛を含む)
  • 軌道: 近地点297km、遠地点310km、軌道傾斜角57度

科学的成果

  • 22件の材料実験: 微小重力環境での超伝導材料創製など
  • 12件の生命科学実験: 鯉を使った宇宙酔いの動物実験など
  • 宇宙での日本独自技術の実証: 日本全国の大学・研究所から募集した実験テーマを実施

このミッションにより、日本は宇宙での科学実験能力を世界に示し、国際宇宙コミュニティにおける地位を確立した。

ミッション以降:宇宙技術大国への発展(1993-2025年)

国際宇宙ステーション時代

毛利宇宙飛行士のSTS-47ミッション成功を受け、日本は国際宇宙ステーション(ISS)計画に本格参画。「きぼう」実験棟の建設・運用を通じて、有人宇宙技術のさらなる発展を遂げた。

探査技術の世界的リーダーシップ

  • はやぶさ(2003年打上げ): 小惑星イトカワからのサンプルリターンに成功
  • はやぶさ2(2014年打上げ): 小惑星リュウグウ探査で世界の注目を集める
  • SLIM(2024年着陸成功): 「画像照合航法」を用いた世界初の月面「ピンポイント着陸」に成功

商業宇宙時代への対応

H-IIAロケット(2001年運用開始)は24年間で50機を打ち上げ、高い信頼性を実証。2025年には後継機H3ロケットが本格運用を開始し、コスト競争力と柔軟性を大幅に向上させている。

民間宇宙産業の台頭

毛利飛行士のミッション以降、日本では民間宇宙企業が次々と誕生

  • ispace: 民間月面探査のパイオニア
  • インターステラテクノロジズ: 小型ロケット開発
  • ALE: 人工流れ星技術の開発

現在の日本宇宙技術の世界的地位

2025年現在、日本の宇宙産業市場規模は2,000~3,000億円程度とされ、世界でも有数の宇宙技術保有国として認められている。特に以下の分野で世界をリード

  • 精密着陸技術: SLIM月面探査機による「ピンポイント着陸」
  • サンプルリターン技術: はやぶさシリーズの成功
  • 固体ロケット技術: イプシロンロケットの高い機動性
  • 衛星技術: 地球観測、通信、測位分野での先進技術

日本のロケット技術はオンタイム率(予定通りの時間に打ち上げる確率)で世界をリードしており、H-IIAロケットの成功率は98%に達している。

日本の独自性と世界での位置

平和利用に徹した独自路線

日本は世界で唯一、軍事技術の転用なしに宇宙技術を発展させた国である。アメリカ、ロシア、中国が弾道ミサイル開発の副産物として宇宙技術を習得したのに対し、日本は大学の研究所から純粋に科学技術として開発をスタートした。

技術導入から自立への段階的発展

1970年代のN-Iロケット(米技術導入)から1994年のH-II(純国産技術)まで、約25年をかけて段階的に技術的自立を達成。この慎重なアプローチにより、高い信頼性と独自技術を両立させた。

宇宙科学での世界的貢献

日本の宇宙科学は「宇宙理学・工学の一体運営」や「大学共同利用」という学術研究の競争的環境で、理工両面の様々な世界最先端の成果を創出してきた。

「宇宙の日」が示す未来への道筋

1992年9月12日の毛利衛宇宙飛行士のSTS-47ミッション成功から33年。この日を「宇宙の日」として記念する意味は、単なる過去への感謝ではなく、未来への決意の表明にある。

戦後の焼け野原から23センチのペンシルロケットで始まった日本の宇宙開発は、今や月面着陸、小惑星探査、国際宇宙ステーション運用を成功させる技術大国へと発展した。毛利飛行士が宇宙から見下ろした地球は、今もなお日本の宇宙技術者たちの挑戦を見守り続けている。

宇宙の日2025は、過去の栄光を振り返る日ではなく、次なる宇宙への挑戦—火星探査、月面基地建設、宇宙太陽光発電—へと向かう新たな出発の日なのである。

【Information】

関連機関・団体の公式サイト

JAXA(宇宙航空研究開発機構)(外部)
日本の宇宙開発を担う中核機関。宇宙科学、宇宙利用、宇宙技術の3分野を統合し、ロケット・衛星開発から国際宇宙ステーション運用まで幅広く事業を展開。

JAXA宇宙科学研究所(ISAS)(外部)
1955年のペンシルロケット実験から続く日本の宇宙科学研究の中枢機関。はやぶさシリーズやSLIM等の世界的成果を創出している宇宙理学・工学の研究所。

内閣府宇宙開発戦略推進事務局(外部)
日本の宇宙政策を統括する政府機関。宇宙基本計画の策定・推進、宇宙安全保障政策の立案等を担当。

一般財団法人日本宇宙フォーラム(JSF)(外部)
宇宙開発利用の普及啓発、国際協力推進、宇宙産業振興支援を行う公益財団法人。「宇宙の日」記念行事の主催団体の一つ。

三菱重工業 宇宙事業部(外部)
H-IIA/H3ロケットの製造・打上げサービスを担う日本の宇宙産業の中核企業。商業衛星打上げサービスも提供。

ispace Inc.(外部)
日本発の民間月面探査企業。2022年にHAKUTO-R Mission 1で民間初の月面着陸を目指し、現在は月面資源開発事業を展開中。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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