Center for New American Securityが発表した報告書によると、米国防総省は過去10年間で対ドローン能力への投資を大幅に拡大したが、その速度と規模は「不十分」である。
報告書の著者ステイシー・ペティジョンとモリー・キャンベルは、人民解放軍が自律システムを開発し大規模に取得することでドローン能力を急速に向上させていると指摘した。
対策として、小型ドローン群撃破用の改良弾薬プラットフォームの拡張、大型ドローン群に対する高出力マイクロ波などの指向性エネルギー解決策の配備、初期脅威検出への機械学習と人工知能の活用を推奨している。
海軍はMK 45 5インチ口径砲を駆逐艦に搭載する実践を行っている。先月末、ペンタゴンは統合対小型無人航空機システムオフィスを解散し、陸軍運営の統合省庁間タスクフォース401に置き換えた。
新組織はピート・ヘグセス国防長官のメモにより設立された。
From: Report: US counter-drone defenses ‘insufficient’ as China scales up unmanned capabilities
【編集部解説】
このCNAS報告書が示す警告は、現代の軍事技術競争における根本的な変化を物語っています。従来の防空システムが前提とする「一対一」の迎撃システムでは、中国が推進する大量のドローン群攻撃に対処できないという現実があります。
注目すべきは、中国政府がPoly Technologiesに対して2024年に約100万機のカミカゼドローン(一方向攻撃ドローン)を発注し、2026年までの納期で契約したという事実です。この数字は単なる軍備増強を超えて、戦争の概念そのものを変える可能性を示唆しています。従来の高価な兵器システムに対して、安価で大量生産可能なドローンが非対称的な優位性を提供する時代に突入したのです。
報告書が提案する三段階の防衛システムは技術的に興味深い構成となっています。まず改良弾薬による初期迎撃、次に高出力マイクロ波による群攻撃への対処、そして機械学習による早期脅威検出です。特に高出力マイクロ波技術は、複数の目標を同時に無力化できる唯一の現実的解決策として位置づけられています。
この技術転換が持つ影響は軍事分野に留まりません。民間分野でのドローン技術の発展と軍事応用の境界線が曖昧になることで、輸出管理や技術移転に関する国際規制の見直しが迫られるでしょう。また、AI支援による自律的な脅威検出システムの導入は、誤認識による民間航空機への影響という新たなリスクも生み出します。
ペンタゴンの組織再編も象徴的です。従来の統合対小型無人航空機システムオフィスから統合省庁間タスクフォース401への移行は、この問題が単純な技術的課題ではなく、省庁横断的な戦略問題であることを示しています。しかし、国内防衛に重点を置く新組織が、太平洋地域での実際の脅威に対応できるかという疑問も残されています。
長期的な視点で見ると、この報告書は軍事技術のパラダイムシフトを予告しています。量的優位性が質的優位性を凌駕する可能性があり、これまでの高価で精密な兵器システムに依存した戦略の見直しが不可避となるでしょう。
【用語解説】
高出力マイクロ波(HPM)
High-Power Microwaveの略で、電磁エネルギーを指向性のあるビームとして放出し、ドローンの電子機器を無力化する技術である。従来の物理的迎撃システムとは異なり、複数の目標を同時に無効化できる特徴を持つ。
C-sUAS(Counter-small Unmanned Aircraft Systems)
小型無人航空機システムに対抗する技術や戦術の総称である。ドローン群攻撃などの新たな脅威に対処するため、米軍が重点的に開発を進めている分野である。
統合省庁間タスクフォース401(JIATF 401)
2025年8月にペンタゴンが設立した新組織で、従来の統合対小型無人航空機システムオフィスに代わって対ドローン防衛を統括する。より強力な権限と調整能力を持つ組織として位置づけられている。
人民解放軍(PLA)
中華人民共和国の軍事組織で、近年ドローン技術の急速な発展と大規模な調達を進めている。2024年には2026年までの納期で100万機の一方向攻撃ドローンを発注したとされる。
【参考リンク】
Center for New American Security (CNAS)(外部)
今回の報告書を発表した独立系の超党派シンクタンク。米国の国家安全保障と防衛政策に関する研究を行っている。
Epirus Inc.(外部)
高出力マイクロ波技術を専門とする防衛技術企業。米陸軍のIFPC-HPMプログラムの下で対ドローン群システムを開発している。
Raytheon – Phaser High-Power Microwave System(外部)
レイセオンが開発する高出力マイクロ波システム「フェーザー」の公式ページ。ドローンの内部システムを破壊する効果的な対無人航空システム防衛。
【参考記事】
China Could Overwhelm US Forces With Drone Swarms(外部)
中国が2024年に2026年までの納期で100万機の一方向攻撃ドローンを発注し、米軍の従来防衛システムでは対処困難な脅威となる可能性を分析した記事。
Pentagon stands up new task force to coordinate anti-drone efforts(外部)
ペンタゴンが統合省庁間タスクフォース401を設立し、従来の統合対小型無人航空機システムオフィスに代わる新組織として対ドローン防衛を統括することを報じた記事。
High-power microwave ‘force field’ knocks drone swarms from sky(外部)
米陸軍がEpirusと6600万ドルの契約でIFPC-HPMプログラムを進め、2024年3月に4つのプロトタイプシステムの納入を完了したことを詳述している。
1 million kamikaze drones: How China outpaced America’s defenses(外部)
中国の100万機ドローン発注の具体的な数値と、米国防衛能力との格差について詳細に分析した記事。
PRC Concepts for UAV Swarms in Future Warfare(外部)
中国人民解放軍のドローン群戦術概念を詳細に分析した報告書。イージスシステム搭載艦に8機のドローンが攻撃した場合、平均2.8機が防衛を突破するという具体的数値を示している。
【編集部後記】
今回のドローン防衛技術をめぐる動向を見て、皆さんはどのようにお感じでしょうか。軍事技術と民間技術の境界線が曖昧になる現代において、私たちが日常的に接しているドローン技術が、実は国際的な軍事バランスを左右する要素になっているという事実に、改めて驚かれた方も多いのではないでしょうか。
一方で、こうした技術進歩は災害救助や物流効率化など、私たちの生活を豊かにする可能性も秘めています。技術の発展と安全保障のバランスについて、皆さんはどのような未来を描いているでしょうか。