BMW・Qualcomm共同開発の自動運転システム、2026年に100カ国展開へ「Snapdragon Ride Pilot」

[更新]2025年9月15日07:49

BMW・Qualcomm共同開発の自動運転システム、2026年に100カ国展開へ「Snapdragon Ride Pilot」 - innovaTopia - (イノベトピア)

BMWグループとクアルコム・テクノロジーズは金曜日、3年間の協力を経て新しい自動運転システム「Snapdragon Ride Pilot」を発表した。

このシステムは両社が共同開発したシステムオンチップとADソフトウェアスタックを使用し、エントリーレベルの新車アセスメントプログラムからレベル2+の高速道路および都市部でのオートパイロット航行機能までのADレベルをサポートする。

Snapdragon Ride Pilotは全く新しいBMW iX3でグローバルデビューを果たし、これはBMWのノイエ・クラッセ初の量産車両である。現在60カ国以上での使用が検証されており、2026年には100カ国以上への拡大が予想される。

ライドパイロットのソフトウェアスタック開発には1,400人以上の専門家が関わり、ドイツ、米国、スウェーデン、ルーマニア、チェコ共和国のBMW ADテストセンターなど様々な拠点で作業した。

システムは360度知覚、高解像度8Mピクセルと3Mピクセルカメラとレーダーセンサーのアレイを含む統合アーキテクチャを使用し、前世代より20倍高い計算力を提供する。

From: 文献リンクBMW Group, Qualcomm Technologies introduce new automated driving system

【編集部解説】

今回のBMWQualcommによる発表は、自動車業界における次世代ADASの実用化において重要な転換点となる可能性があります。特に注目すべきは、この技術がBMW専用ではなく、クアルコム・テクノロジーズを通じて全ての自動車メーカーとTier-1サプライヤーにも提供される点です。

Snapdragon Ride Pilotは、これまでのレベル2システムを超えた「レベル2+」の機能を実現しています。具体的には、高速道路での長時間のハンズフリー運転、微細な運転者の意図を読み取った車線変更AI駆動の駐車支援などが可能となります。

技術的な革新性を理解する上で重要なのは、システムの統合アーキテクチャです。従来のADASが複数のECUに分散していた機能を、単一の「スーパーブレイン」に集約することで、前世代比20倍の処理能力を実現しました。これにより、リアルタイムでの複雑な状況判断と予測が可能になっています。

安全性の観点では、ASIL(自動車安全完全性レベル)とSOTIF(意図された機能の安全性)への準拠が特徴的です。また、V2X通信機能により、見通し外の危険を事前に察知する能力も備えています。これらは従来のカメラ・レーダーベースのシステムの限界を補完する重要な要素となります。

一方で、この技術の普及には課題も存在します。60カ国での検証を経て100カ国への展開を予定していますが、各国の規制環境や道路インフラの違いが実用性に影響を与える可能性があります。また、OTAアップデートによる継続的な改善が前提となっているため、サイバーセキュリティリスクへの対応が継続的な課題となるでしょう。

QualcommのCEOが言及する「ドミノ効果」は、自動車業界の競争構造に大きな変化をもたらす可能性があります。特に中国メーカーとの技術格差に悩む欧州メーカーにとって、この共通プラットフォームは競争力向上の機会となる一方、技術の均質化により差別化が困難になるリスクも孕んでいます。

長期的な視点では、このシステムが蓄積するフリートデータが、AI学習の質を左右する重要な要素となります。データ収集規模が大きいほど学習効果が向上するため、早期の市場投入と普及が技術優位性の確立に直結することになるでしょう。

【用語解説】

レベル2+自動運転
従来のレベル2(部分自動運転)を超えた機能を持つシステム。高速道路での長時間ハンズフリー運転や、運転者の意図を読み取った自動車線変更などが可能である。

システムオンチップ(SoC)
複数の機能を1つのチップに統合した半導体。CPUやGPU、メモリなどを単一チップに搭載することで、処理速度の向上と省電力化を実現する。

ASIL(自動車安全完全性レベル)
ISO 26262で定義される自動車の機能安全規格。AからDまでの4段階があり、最も厳しいASIL-Dでは人命に関わる機能の安全性を保証する。

SOTIF(意図された機能の安全性)
ISO 21448で定義される安全規格。システムが設計通りに動作しても、想定外の状況で危険が生じる可能性を評価・対策する。

V2X通信
Vehicle-to-Everythingの略。車両が他の車両、道路インフラ、歩行者などと直接通信することで、見通し外の危険を察知する技術。

ノイエ・クラッセ
BMWが推進する次世代電動車プラットフォーム。2025年から順次導入される新しい車両アーキテクチャである。

【参考リンク】

BMW Group 公式サイト(外部)
BMWグループの企業情報、最新技術、持続可能性への取り組みなどを紹介するグローバル公式サイト

Qualcomm Technologies 公式サイト(外部)
無線通信技術、半導体、AI技術のグローバルリーダーであるQualcommの公式サイト

Snapdragon Ride プラットフォーム(外部)
Qualcommの自動車向けAIプラットフォームの詳細情報と開発ソリューション

【参考記事】

Qualcomm and BMW Group Unveil Groundbreaking Automated Driving System(外部)
QualcommとBMWが3年間の協力を経て発表した技術詳細と開発体制について説明

BMW iX3’s Qualcomm Ride Pilot Automated Driving Technology(外部)
BMW iX3に搭載された技術的特徴と前世代比20倍の処理能力について詳しく分析

Qualcomm, BMW launch automated driving system to better compete in growing market(外部)
60カ国での検証を経て2026年に100カ国展開予定という具体的な展開計画を報道

BMW iX3 Debuts Snapdragon Ride Pilot: New Automated Driving Technology(外部)
統合アーキテクチャによる「スーパーブレイン」の概念と技術仕様について解説

【編集部後記】

このBMWとQualcommの協業を見ていて思うのは、自動運転技術がいよいよ「実用化フェーズ」に入ったということです。これまで何年も「あと少しで実現する」と言われ続けてきた技術が、ついに日常に入り込み始めています。

でも実際のところ、みなさんは自動運転にどんな期待や不安をお持ちでしょうか?毎日の通勤で「ハンドルから手を離して本を読めたら」と思ったことはありませんか?それとも「本当に機械に命を預けて大丈夫?」という不安の方が大きいでしょうか?

来年にはこのシステムが搭載されたBMW iX3が世界100カ国で展開される予定です。私たちの移動体験がどう変わるのか、一緒に見守っていきたいと思います。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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