カルディオインテリジェンスのAIが心房細動診断に貢献 – 24時間の検査時間を3分に短縮

[更新]2025年9月29日19:16

 - innovaTopia - (イノベトピア)

画像提供:株式会社カルディオインテリジェンス

心臓に潜む見えない脅威

厚生労働省の令和5年患者調査によると、脳梗塞で入院している患者は全国で約12万人に上ります。同年の人口動態統計によれば、脳梗塞を含む、脳血管疾患で約10万5千人が命を落としました。生き延びた場合でも、多くの患者が麻痺や言語障害などの後遺症を抱え、発症後に死亡または要介護状態となる人が全体の半数前後に上るとされます。

脳梗塞の原因のひとつが「心房細動」という不整脈です。血液の流れが滞ると、そこで赤血球などが集まって固まり、血栓となることがあります。

これがごく小さな血栓だとしても、髪の毛よりも細い毛細血管が張り巡らされている脳にとっては致命的です。血管が詰まり、血液の供給が途絶えると、数分以内に神経細胞は酸素を失い壊死を始めます。

その結果、突然亡くなってしまう。仮に命が助かったとしても、手足が動かない、言葉が出ない、そんな悲劇は、実は誰の日常にも潜んでいます。

厄介なことに、心房細動は常に起きているわけではなく発作的に現れては消える病気です。短時間の検査では、その「たまたま出ていない瞬間」を記録してしまえば見逃されてしまいます。

この心房細動の検査には、24時間以上にわたって心臓のリズムを観察するホルター心電図検査が必要です。日常生活の中で突然現れる発作を捉えるためには、こうした長時間にわたる検査とデータが必要不可欠なのです。

しかし、医療現場では、24時間以上に及ぶ心電図検査を解析する負担が大きく、見逃される患者も少なくありません。「早期に見逃しなく、効率的に発作を捉える」ことが社会的に急務となっています。

医師とAIのタッグによる新しい診断

心臓は24時間におよそ10万回も拍動します。患者が24時間モニタリングを受け、その結果を人間がすべて目で追うとどうなるでしょうか。医師や臨床検査技師は、ただ1人の解析に数時間から半日を費やし、その間にも新たな患者が検査を終えて待っています。

「効率を上げたい。でも、見落としは許されない。」
――これが医療現場のジレンマでした。

AIが変えた流れ

株式会社カルディオインテリジェンスが開発した 「SmartRobin AI シリーズ」1) が、その状況を変えようとしています。

従来は数時間かかっていた解析も、AIなら24時間分をわずか3分で完了。1週間分の膨大なデータも20分足らずで解析します。つまり患者は、検査を受けたその日に結果を知ることができるのです。

SmartRobin AIは、医療機器プログラムとして薬事認証を取得し、保険診療の中で正式に利用できる製品として提供されています。つまり、「実際の臨床現場で安心して使える」ことが制度的にも保証されているのです。

医師の知見をAIに宿す

SmartRobin AIの強みは、循環器専門医による精緻なアノテーション(注釈)から生まれた1億心拍に及ぶデータセットを学習の基盤にし、医療現場の知見をそのままAIに宿している点です。

さらに、どのメーカーの心電計で得られたデータでも解析できるよう、国際標準フォーマット「MFER」に対応し、幅広い施設での活用が期待できます。

そしてAIは解析結果を「異常あり」と提示するだけではなく、「どの波形に着目し、なぜ異常と判断したのか」を根拠とともに示します。こうした説明可能性によって、医師はAIの結果をただ受け入れるのではなく、自ら確認し判断できるのです。

少しずつ電子化が進んでいるとはいえ、今でも多くの現場では紙に印刷された波形データを採用しています。SmartRobin AIでは解析結果だけでなく、計測した波形も、パソコン上でそのまま確認することもできます。

信頼性を裏付けるデータ

臨床試験では、心房細動の検出で感度100%・特異度68.9%(※2)を実証しました。つまり偽陰性を最小限に抑えた設計です。

この信頼性と実用性が認められ、SmartRobin AIは既に全国150以上の医療機関に導入(2025年9月時点)。解析時間を劇的に短縮し、医師・技師の負担を減らすだけでなく、患者にとっても「診断を待つ時間の短縮」という安心感をもたらしています。


未来を予測するAIが変える予防医療

心房細動の厄介さは、症状が出ないまま進行することにあります。発作が起きていない時には心電図にも異常が現れず、診断がつかない。国内だけでも推定100万人もの未診断患者が存在すると言われています。
多くの人が、「気づかないまま脳梗塞のリスクを抱え続ける」状態にあるのです。

「発作がない時」でも兆候を掴む

同社は、「非発作時の心電図から発作性心房細動の兆候を検出するAI、SmartPAFin(※3)」で薬事承認を取得しました。これは従来の「発作を検出する」技術を超え、「これから起こる発作の兆候を検出(リスクを予測)する」未来型医療の実現を意味します。欧州心臓学会(ESC)でも成果が発表され、国際的に注目を集めています。

つまり、病気の早期発見に貢献する技術。これまで見逃されてきた「隠れ心房細動」を暴き出し、脳梗塞の予防につなげます。


『心臓病診断を受けられない患者さんを世界からなくす!』

カルディオインテリジェンスの原点は、代表取締役CEOで循環器専門医の田村雄一氏が診療の現場で感じた「届かない医療」への強い問題意識にあります。

田村氏は難病・肺高血圧症の診療に携わる中で、日本のみならず世界中に「専門医の診断を受けられない患者」が数多く存在する現実を目の当たりにしました。そこで2015年には遠隔診療システムを立ち上げ、専門医療の地域格差を埋めようと試みました。しかし、それだけでは世界中の課題を解決するには不十分だと痛感します。

「患者を救うためには、専門医の手を直接届けるだけでなく、診断を自動化し、医療を誰にでも届くものにする必要がある。」

この思いが「AI」というテクノロジーとの出会いにつながりました。

中学時代の友人との再会から始まった挑戦

田村氏は、中学時代の友人であり、当時立命館大学教授だった谷口忠大氏に相談します。谷口氏はAIや機械学習の専門家であり、「心電図」という古典的かつ普遍的な検査をAIで自動化できないか、という挑戦が始まりました。

さらにAI研究の専門家である高田智広氏が加わり、約1年半の研究で心電図解析の基本的なAIアルゴリズムが完成します。
人間の目には見えない微細な兆候をAIが見つける「未病診断」へ踏み出すこの瞬間が、後の「SmartRobin AI シリーズ」の核となりました。

会社設立と製品化へ

2019年10月、田村氏は自ら会社を立ち上げる決断を下します。
『心臓病診断を受けられない患者さんを世界からなくす!』という理念を胸に、カルディオインテリジェンスが誕生しました。

2022年には「SmartRobin AI シリーズ」を発売し、全国の医療現場に広がっていきます。
その後も「発作がない時でも兆候を見つけるSmartPAFin」の開発へと続けています。

田村氏が描く未来像はシンプルです。
AIは人を代替するためではなく、人と共に命を守るためにある。
その信念が、同社のすべての技術と取り組みの根幹に流れています。


AIが医療を支える

カルディオインテリジェンスの挑戦は、単なる技術開発ではありません。
その根底にあるのは、「命を救いたい」「医療をすべての人に届けたい」という強い意志です。

AIが数分の心電図から見抜く発作の兆候。そこに必要なのは、特別な装置や大掛かりな検査ではありません。
短時間の検査を受けること、誰もが気軽にできる行為が、命を救うきっかけになるのです。

同社は、医師とAIが手を取り合う新しい医療のかたちを創り出しました。
それは、見えない脅威に立ち向かい、病気を未然に防ぎ、誰もが安心して暮らせる社会を実現するための一歩なのです。


※1:医療機器認証番号:302AHBZX00026Z00 販売名:長時間心電図解析ソフトウェア SmartRobin AIシリーズ

※2:心電図 2024; 44(4): 252-259 DOI:https://doi.org/10.5105/jse.44.252

※3:医療機器承認番号:30600BZX00277000、販売名:発作性心房細動兆候検出ソフトウェア SmartPAFin シリーズ

【用語解説】

ホルター心電図検査
持ち運び可能な機器で、日常生活を送りながら計測できる方法。

感度
この場合、病気の人を病気と判断できる割合。

特異度
病気じゃない人を病気じゃないと判断できる割合。

【参考リンク】

株式会社カルディオインテリジェンス公式サイト
国際医療福祉大学発のヘルステックベンチャー。循環器専門医とAI研究者により2019年に設立され、心電図データ解析AI「SmartRobin AIシリーズ」や心房細動の発作リスク予測AI「SmartPAFinシリーズ」を開発。

SmartRobin AIシリーズ製品紹介ページ(公式サイト)

SmartPAFinシリーズ製品紹介ページ(公式サイト)

株式会社カルディオインテリジェンス(PR TIMES)

【編集部後記】

心臓と脳、それが人間にとってどれだけ重要な臓器であるかは、語るまでもありません。

心臓が停止してからわずか5分で、脳では不可逆的な神経細胞の壊死が始まり、10分も経てば生存は極めて困難になります。

脳梗塞が起これば直ちに細胞死が進行し、血栓を溶かす治療の有効時間は発症から4時間30分以内とされています。

まさに1分1秒を争う臓器。しかも兆候は乏しく、知らぬ間に進行し、ある日突然襲ってくる。もし走行中の電車で倒れたら?人通りの少ない帰り道で倒れたら?運転中だったら?鍵をかけたトイレの個室だったら?想像するだけで恐ろしくなります。

だからこそ、もし数分の検査で予防できるなら、救われる命は計り知れません。

カルディオインテリジェンスの掲げる心臓病診断を受けられない患者さんを世界からなくす!という理念は決して夢物語ではありません。

病院や医師のいない地域でも、人々が日常的にデータを取り、簡便な設備で数分の検査が可能になる。そんな未来は、すでに現実に近づいています。

(記事監修:株式会社カルディオインテリジェンス)

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りょうとく
趣味でデジタルイラスト、Live2Dモデル、3Dモデル、動画編集などの経験があります。最近は文章生成AIからインスピレーションを得るために毎日のようにネタを投げかけたり、画像生成AIをお絵描きに都合よく利用できないかを模索中。AIがどれだけ人の生活を豊かにするかに期待しながら、その未来のために人が守らなけらばならない法律や倫理、AI時代の創作の在り方に注目しています。

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