婦人科手術後の長期リスク|子宮摘出術が心血管系に与える影響を解明

[更新]2025年9月17日08:07

婦人科手術後の長期リスク|子宮摘出術が心血管系に与える影響を解明 - innovaTopia - (イノベトピア)

中国の研究者らが主導した国際的な研究チームが200万人以上のデータを用いたメタ分析を実施し、子宮摘出術と脳卒中リスクの関連性を調査した。その結果、子宮と子宮頸部を摘出する子宮摘出術は脳卒中リスクを5%高め、両卵巣摘出を伴う場合は18%高めることが判明した。

研究では1999年から2018年の間に収集された21,000人以上の米国女性の国民健康データを分析し、他の15の研究と統計比較を行った。2009年の大規模研究では、良性疾患で両卵巣摘出を受けた女性の脳卒中リスクが14%高いことが示されていた。

更年期学会の医学ディレクターであるステファニー・フォービオン氏は、これらの手術が長期的リスクを伴うことを強調し、心血管リスク評価の重要性を指摘した。現在、子宮摘出術と卵巣摘出術は米国で女性が受ける最も一般的な外科手術の一部である。研究結果はMenopause誌に掲載された。

From: 文献リンクHysterectomy Significantly Raises Risk of Stroke, New Evidence Suggests

【編集部解説】

まず解説に際し、元記事を含む一部の報道やプレスリリースでは子宮摘出術単体のリスク上昇を「5%」、両側卵巣摘出術で「18%」と伝えています。しかし、本研究の一次論文(学術誌『Menopause』掲載)によれば、メタ分析の結果として子宮摘出術単体でハザード比1.09(9%のリスク上昇)、両側卵巣摘出術を伴う場合でハザード比1.13(13%のリスク上昇)が報告されています。当解説では、この最も信頼性の高い一次情報源の数値を採用します。

今回の研究結果は、これまで婦人科医療において必要とされてきた手術が持つ長期的な健康リスクについて、改めて重要な問題を提起しています。特に注目すべきは、従来の認識を大きく覆すデータが示されたことです。

この研究の意義は、単一の研究機関ではなく200万人という膨大なデータプールから得られた知見である点にあります。メタ分析では、米国の国民健康データ(NHANES)1999-2018年分と15の他研究を統合し、これほど大規模な母集団で子宮摘出術の長期リスクを評価した点が画期的といえるでしょう。

特に興味深いのは、研究結果に見られる矛盾です。単独の国民健康データ分析では子宮摘出術単体の脳卒中リスク上昇は統計的に有意ではありませんでした。しかし、メタ分析では明確にリスク上昇が確認されています。これは個別研究では検出力が不十分である可能性を示唆しており、医療研究における大規模データの重要性を物語っています。

ホルモン環境の変化が鍵となるメカニズムも注目に値します。卵巣は女性ホルモンの主要な産生器官であり、その摘出により急激なホルモン低下が起こります。この早期閉経状態が心血管系に与える影響は、自然閉経とは質的に異なる可能性があります。2025年に発表された別の研究でも、閉経前年齢での両側卵巣摘出は心不全リスクを2.25倍に高めることが報告されており、今回の脳卒中リスクと合わせて包括的な心血管系への影響が明らかになりつつあります。

この知見が医療現場に与える影響は計り知れません。現在、米国では子宮摘出術と卵巣摘出術は女性が受ける最も一般的な手術の一つとなっています。今後は手術適応の判断において、より慎重なリスク・ベネフィット評価が求められるでしょう。

一方で、この研究結果を過度に悲観視する必要もありません。子宮摘出術9%、両側卵巣摘出術13%のリスク上昇は統計的に有意ですが、絶対的なリスクとしては依然として管理可能な範囲にあります。重要なのは、手術後の患者に対する長期的な心血管モニタリング体制の構築と、予防的介入の充実です。

【用語解説】

メタ分析(Meta-analysis)
複数の独立した研究結果を統計的手法により統合し、より信頼性の高い結論を導く分析手法である。個別研究では検出困難な効果も明らかにできる。

NHANES(National Health and Nutrition Examination Survey)
米国疾病管理予防センター(CDC)が実施する国民健康栄養調査。米国民の健康と栄養状態を継続的に調査している大規模疫学研究である。

【参考リンク】

更年期学会(The Menopause Society)(外部)
女性の更年期と閉経後の健康問題に関する医学研究と教育を推進する国際的な非営利医学組織

Menopause誌(外部)
更年期と閉経後女性の健康に関する査読付き医学雑誌で、今回の研究結果が掲載された学術誌

【参考記事】

Hysterectomy With Bilateral Oophorectomy May Increase Risk of Stroke(外部)
更年期学会公式プレスリリース。子宮摘出術5%、両側卵巣摘出18%の脳卒中リスク上昇を報告

Study links hysterectomy and bilateral oophorectomy to higher stroke risk(外部)
200万人データのメタ分析方法論とNHANESデータ21,000人の分析結果について詳述

Cardiovascular Outcomes of Bilateral Oophorectomy(外部)
閉経前年齢での両側卵巣摘出が心不全リスクを2.25倍に高めることを報告した2025年8月研究

Ovary Removal Increases Heart Failure Risk(外部)
米国心臓病学会による卵巣摘出の心不全リスク上昇に関する2025年3月のプレスリリース

Association between hysterectomy status and stroke risk(外部)
2023年発表の子宮摘出術と脳卒中リスクの関連性研究。今回の大規模メタ分析の基盤研究

【編集部後記】

今回この研究結果を読んで、医療における「リスク」という言葉について改めて考えさせられました。数字で示されるリスクと、実際の生活への影響はどのようにバランスを取るべきでしょうか。また、手術が必要な状況において、こうした長期リスクの情報をどの程度重視するべきなのでしょう。

皆さんは、医師との対話ではどのような質問を投げかけることが大切だと思われますか。医師に尋ねて良かったと感じた経験など何かありますか?ぜひ、医療における意思決定のあり方について一緒に考えてみませんか。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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