中国情報通信研究院(CAICT)が主導する「ブレインコンピュータインターフェース:技術安全性と多様な応用シナリオの標準化」ワークショップが、2025年7月9日にジュネーブで開催される国際電気通信連合(ITU)AI for Good Global Summitで実施される。
ブレインコンピュータインターフェース(BCI)技術は神経電気信号を捕捉・解釈し、脳と外部デバイス間の直接的な相互作用を可能にする技術である。中国では鉱山や建設機械作業における疲労監視システム、自閉症児を含む特別な子どもたち向けの注意力訓練システムが数千人の学生にサービスを提供している。
医療分野では非侵襲的BCI機器が脳卒中患者の麻痺した四肢訓練を支援し、侵襲的BCI技術が対麻痺患者の立位・歩行能力回復を実現している。著者の梁利彦博士は清華大学卒業で中国情報通信研究院研究員、20以上の学術論文を発表し3つの国家発明特許を保有する。
初の民生用BCI標準TCAS 891-2024をリリースし、中国ブレインコンピュータインターフェースコンペティション2セッション、BCI脳制御ロボットコンペティション6セッションの組織に参加した。
【編集部解説】
今回のニュースは、中国情報通信研究院(CAICT)がITUのAI for Good Global Summitでブレインコンピュータインターフェース(BCI)に関するワークショップを開催するという発表です。技術発表に見えますが、実際には中国のBCI技術の国際的な標準化戦略を示す重要な動きといえるでしょう。
BCIは脳の神経信号を直接コンピュータで読み取り、外部デバイスを制御する技術です。SF映画でおなじみの「考えるだけで機械を操作する」技術が現実のものとなりつつあります。特に医療分野では、脳卒中や脊髄損傷により身体機能を失った患者が、思考だけで義手を動かしたり車椅子を操縦したりできるようになっています。
記事で注目すべきは、中国が産業安全や特殊教育といった幅広い分野でBCI技術を実用化している点です。鉱山作業員の疲労監視システムや自閉症児向けの注意力訓練システムなど、欧米では主に医療分野に限定されがちなBCI応用を、社会インフラレベルまで拡張している実態が明らかになっています。
しかし、BCI技術には深刻なプライバシーとセキュリティの課題があります。脳信号は究極の個人情報であり、思考や感情まで読み取られる可能性があるためです。また、BCIデバイスがハッキングされれば、使用者の意図に反して外部から操作される危険性も指摘されています。
ITUという国際機関の場でのワークショップ開催は、中国がBCI分野での国際標準化を主導したい意図を示しています。技術的優位性を背景に、グローバルな規制フレームワーク構築において発言権を確保しようとする戦略的な動きと解釈できるでしょう。
この技術が普及すれば、障害者の社会参加促進や高齢化社会における介護負担軽減など、大きな社会的恩恵をもたらす可能性があります。一方で、人間の思考や感情をデータ化することの倫理的問題や、技術格差による新たな社会階層の生成リスクも懸念されます。
【用語解説】
ブレインコンピュータインターフェース(BCI)
脳の神経活動から発生する電気信号を直接読み取り、外部のコンピュータやデバイスと接続する技術である。侵襲的(脳に電極を埋め込む)と非侵襲的(頭皮上から測定)の方式がある。
非侵襲的BCI
頭皮に電極を装着して脳波を測定する方式で、手術が不要なため安全性が高い。ただし信号の精度は侵襲的方式に比べて劣る。
侵襲的BCI
脳組織に直接電極を埋め込んで神経信号を取得する方式。高精度の信号が得られるが、外科手術が必要でリスクが伴う。
神経可塑性
脳が経験や学習によって構造や機能を変化させる能力。BCIによるリハビリテーションはこの特性を活用している。
AI for Good
人工知能技術を社会課題解決に活用することを目指す国際的な取り組み。ITUが主導している。
【参考リンク】
BCI技術が私たちの日常にもたらす変化を想像してみてください。考えるだけでスマートフォンを操作したり、疲れを感じる前にシステムが休憩を促してくれたりする未来は、もうすぐそこまで来ているかもしれません。
一方で、思考が読み取られることへの不安や、技術格差による新たな課題も生まれそうです。皆さんは、BCIが普及した社会で最も期待することと、最も心配することは何でしょうか。また、このような先端技術の国際標準化において、日本はどのような役割を果たすべきだと思いますか。テクノロジーの進歩と人間らしさの調和について、一緒に考えてみませんか。