画像生成AIを使ってみたことはありますか?
DALL·EやStable Diffusionといったサービスを使えば、数秒で見栄えのするイラストやアートが出来上がります。とても便利で楽しいのですが、「とりあえず好きなキャラクターや綺麗な景色を作らせて終わり」ということも多いのではないでしょうか。
もちろん、それでも十分楽しめます。でも実はAIには「得意なこと」「苦手なこと」がはっきりあります。漠然と使っているだけでは、その違いを意識することなく、「なんとなく面白い」で終わってしまいがちです。
せっかくならもう一歩踏み込んで、AIがどこまでできて、どこから苦手になるのかを探ってみたい。そこでおすすめなのが、毎年10月に開催される世界的な創作イベント 「Inktober(インクトーバー)」 をきっかけにしてみることです。
Inktoberとは?
毎年10月になると、世界中のアーティストやイラスト好きが集まって創作を楽しむイベントがあります。その名も 「Inktober(インクトーバー)」。2009年にアーティストのジェイク・パーカーによって始められたこのチャレンジは、「1日1枚、インクで描いた絵を投稿する」というシンプルなルールから広がっていきました。
特徴的なのは、運営が公開する 日替わりのお題リスト(プロンプト)。
例えば、2024年では「バックパック」「双眼鏡」「太陽」などの具体的な名詞もあれば、「エキゾチック」「巨大な」「ハイキング」といった抽象的な概念などといったテーマが並びます。これがちょっとした挑戦になり、自分の引き出しを増やしたり、得意不得意に気づいたりするきっかけになるのです。
今ではInstagramやX(旧Twitter)などSNSを中心に、世界中で数百万もの作品がシェアされる一大イベントに成長しました。参加の仕方はとても簡単。お題に沿って作品をつくり、ハッシュタグ #inktober を付けて好きなSNSに投稿するだけです。公式サイトや公式SNSでもお題が公開されているので、まずは覗いてみるだけでも楽しいはずです。
Inktober×株式会社呉竹 特設サイト
スポンサーである株式会社呉竹によるキャンペーン特設サイト。皆勤賞チャレンジなどに応募すれば、抽選で同社の画材などが当たるキャンペーンを行っている。
AIにお題を投げてみる
Inktoberの魅力は、日替わりのお題によって普段は挑戦しないテーマに取り組めることです。これは人間だけでなく、画像生成AIにとっても同じこと。お題をそのままAIに入力してみると、その得意不得意がよく見えてきます。
「カメラ」を描くとき、人間であれば細部まで見て正確に模写できても、AIは細部に破綻があったりすることもあります。逆に、「未踏の地」といわれて、何を描けばいいのか迷っている間に、AIは雰囲気溢れる雄大な自然風景を描くこともできるかもしれません
“上手くいったり、いかなかったり”がポイントです。何気なく使っているだけでは気づかないAIの特徴が、お題を通して浮かび上がってきます。そこに思わぬ発見や学びがあり、AIの新しい使い方を考えるきっかけにもなるのです。
画像生成AIツールの紹介
画像生成AIと一口に言っても、それぞれのサービスで特徴や得意分野は大きく異なります。ここでは代表的な5つを軽くご紹介します。
- DALL·E(OpenAI)
安定感があり、短い指示でもそれらしい仕上がりになるのが特徴です。初心者でも扱いやすく、まず試してみるにはうってつけ。 - Grok(xAI)
予想外の表現やユニークな解釈が飛び出すことがあり、発想を刺激するタイプ。必ずしも安定はしませんが、アイデアの種を探すには面白い存在です。 - ImageFX(Google)
フォトリアルな出力に強みがあり、現実感のあるイラストや写真風のビジュアルを作りやすいのが特徴。特に細部描写の正確さに優れており、リアル寄りの絵を試したいときに活躍します。 - NanoBanana(Google)
生成だけでなく、生成後の編集やキャラクターの一貫性保持に強みがあります。複数画像を組み合わせたり、部分的な修正を自然言語で指示できるなど、実用的な機能も充実しています。 - Stable Diffusion(Stability AI)
オープンソースとして公開されているため、ローカル環境で利用できる点と、カスタマイズ性が非常に高いのが強み。追加のモデルや設定を工夫することで、作風を自在にコントロールできます。
その他「Midjourney」「Adobe Firefly」「Leonardo.Ai」「Canva AI」など、様々なツールが存在します。
同じお題を与えても、どのサービスを使うかで出力結果はまったく異なります。比較しながら試すだけでも、それぞれの個性が見えてきて面白いはずです。
Stable Diffusionをもっと深く試してみたい人へ
ここまで紹介したサービスの中でも、特に自由度が高いのが Stable Diffusion です。カスタマイズできる範囲が広く、モデルや追加機能を導入することで、思い描いたイメージに近い表現を細かくコントロールできます。
そのぶん最初は設定や操作に戸惑うかもしれませんが、慣れると「AIでここまでできるのか」という驚きが味わえるはずです。
当メディアでは、Stable Diffusionの導入方法や基本的な使い方を解説したガイド記事も公開しています。もし「AIをもっと本格的に触ってみたい」と思った方は、そちらもぜひ参考にしてみてください。


InktoberとAIの関係
Inktoberの公式ルールには、AIの利用を明確に禁止する記載はありません。デジタルでの参加も認められているため、形式的にはAIを使った作品を投稿することも可能です。
ただし、このイベントの根本にあるのは「毎日手を動かし、画力を鍛える」という精神です。AIにすべてを任せて作品を出力し、それをそのまま投稿するのは、本来の趣旨から外れてしまうでしょう。
しかし、「AIをどう使うか」を工夫することもまた、創作のクオリティを上げる試みのひとつといえます。たとえば、プロンプトの言葉選びを磨いたり、自分の表現に合うツールを選び取ったりすることも、立派なスキルアップにつながります。
今後、創作にAIが関わる場面はますます増えていくはずです。重要なのは「何を表現したいのか」「どんな工夫をしたのか」という意識を持つことです。AIを使ったからといって創作の価値が下がるわけではなく、むしろ自分の狙いや工夫を伴った活用なら、それも一つのクリエイティブな挑戦になります。
Inktober公式サイトのFAQでも、次のように語られています。
Q: What if I see someone doing Inktober wrong?
A: There is no right or wrong way to Inktober, its origin is and will always be self improvement. Art and technology has evolved over the years, self improvement is not just about becoming a better artist, it’s also about developing good habits and respecting all styles, mediums, expressions or creative visions. Drown out the negativity and celebrate the beauty of art and the spirit of community with art. We hope you find inspiration and make a few friends along the way.
(公式サイトより引用。以下日本語訳)
Q: Inktoberを間違ったやり方でやっている人を見かけたらどうすればいいですか?
A:Inktoberに正解も不正解もありません。その起源は、そしてこれからもずっと自己啓発です。アートとテクノロジーは長年にわたり進化してきました。自己啓発とは、単に優れたアーティストになることだけではありません。良い習慣を身につけ、あらゆるスタイル、媒体、表現、そして創造的なビジョンを尊重することでもあります。ネガティブな感情は忘れ、アートの美しさと、アートを通して共有するコミュニティの精神を称えましょう。この旅を通して、インスピレーションを見つけ、たくさんの仲間に出会えることを願っています。
つまり、Inktoberは「こうでなければならない」というものではなく、自分なりの挑戦を通じて成長することを大切にするイベントです。その精神を忘れずに、AIを含めたさまざまな形の表現を楽しんでいきたいですね。
画像生成に忌避感を感じる人は多くいます。対立を生むのではなく、お互いに1つの創作の形として受け入れられる未来が来ることを願っています。
AIは便利ではありますが、諸刃の剣でもあります。「創作者」としての心を見失わないようにしましょう。
おまけ
最後に、いろいろなAIを使って「インク画風のヴァイオリン」の画像を出力してみました。プロンプトは極力シンプルに「白黒 インク画風 ヴァイオリン」だけです。
・DALL・E(ChatGPT)

・Grok

・Image FX

・Nano Banana

こうして見比べてみるとかなり特徴が違うのがわかると思います。
DALL・Eは手書き風の雰囲気はあるのですが、インク画っぽさはあまりないですし、弦の本数がおかしかったりしますね。DALL・E特有の茶色がかった色合いも目立ちます。
Grokもあまりインク画風には出力できず、結構実写風から離れられないようです。弦の本数も明らかに少ないです。
Image FXはとてもよくできていますが、弦の太さの違いまで表現するのはできないようです。
Nano Bananaはどちらかというと水彩のような塗り方が見受けられますね。「インク画風」というプロンプトが飛び散ったインクとして反映されたのでしょうか。
このほかにも、いろいろなAIを使って、いろいろな画像を出力させてみると多くの発見があると思います。
特に抽象的な概念を指示すると「あ、このツールはこの概念をこういう風に理解してるんだ」というのが見えてきてとても面白いですよ。