「TOCKLE」日立市×日立製作所が描く2035年のスマート交通|地方都市の交通課題に挑む

[更新]2025年10月9日08:42

「TOCKLE」日立市×日立製作所が描く2035年のスマート交通|地方都市の交通課題に挑む - innovaTopia - (イノベトピア)

BRJ株式会社の電動二輪・三輪モビリティシェアリングサービス『TOCKLE』が、日立市と日立製作所の共創プロジェクトに採用された。

2025年10月7日から12月25日まで実証実験を実施し、日立駅および常陸多賀駅周辺に電動キックボードのシェアリングポートを設置する。ポート設置場所は日立駅、ヒタチエ、日立市役所、池の川さくらアリーナ、常陸多賀駅、多賀市民プラザの6カ所である。貸出時間は6時から22時まで、利用料金は10分ごとに100円で、16歳以上であれば運転免許不要で利用できる。

安全対策として深夜営業停止と交通ルールテストの導入を実施する。BRJ株式会社は東京都港区に本社を置き、代表取締役社長は宮内秀明である。

From: 文献リンク『TOCKLE』が日立市と日立製作所の共創プロジェクトに採用

【編集部解説】

地方都市の交通課題に、マイクロモビリティが一つの解を示そうとしています。

日立市は1983年に約20万6,000人だった人口が現在約16万3,000人まで減少し、毎年2,000人以上が減り続けている状況です。こうした人口減少と高齢化の進展により、バス路線の維持が困難になり、地域住民の「足」が失われつつあります。今回の実証実験は、日立市と日立製作所が2023年12月に締結した包括連携協定に基づく共創プロジェクトの一環であり、2035年の公共交通の将来像を描くグランドデザインの実現に向けた第一歩となります。

特筆すべきは、TOCKLEが採用する徹底した安全対策です。警察庁の統計によれば、2024年の特定小型原付事故338件のうち飲酒運転が51件(15.1%)を占め、自転車(0.6%)や一般原付(0.5%)と比較して圧倒的に高い割合となっています。さらに2025年上半期の事故119件のうち、深夜・早朝(0~5時台)の発生が約7割を占めるなど、夜間のリスクが指摘されています。

こうした業界全体の課題に対し、TOCKLEは22時から6時の深夜営業を全面停止し、利用前に交通ルールテストの合格を義務付けています。多くの事業者が「夜間こそ稼ぎ時」とする業界常識に反する選択ですが、収益性よりも安全性を優先する姿勢は、地方自治体との信頼関係構築において重要な要素となっています。

日立駅と常陸多賀駅周辺という限定的なエリアでの展開も、リスク管理の観点から合理的です。地方都市は都市部と比較して交通量が少なく道幅に余裕があるため、新しいモビリティの導入に適した環境といえます。今回の実証では平日の通勤利用の有用性検証を主眼としており、観光需要ではなく日常的な移動手段としての可能性を探ります。

一方で、利用料金10分100円という価格設定は、既存の公共交通と比較した際の競争力が課題となる可能性があります。また、16歳以上が免許不要で利用できる仕組みは利便性を高めますが、若年層の安全意識の醸成が今後の普及において鍵を握ります。

この実証実験の成否は、地方都市における交通空白地域の解消モデルとして、全国の自治体に影響を与える可能性があります。

【用語解説】

特定小型原動機付自転車
2023年7月の道路交通法改正により新設された車両区分で、電動キックボードなどを指す。最高速度20km/h以下、定格出力0.6kW以下、車体サイズが長さ1.9m以下・幅0.6m以下という要件を満たす電動モビリティが該当する。16歳以上であれば運転免許不要で利用できるが、原動機付自転車の一種として扱われる。略称は「特定原付」である。

ジオフェンシング
GPS等の位置情報技術を利用して、物理空間に仮想的な境界線(フェンス)を設定する技術である。対象デバイスがその境界に出入りした際に特定の動作を自動実行する仕組みで、TOCKLEでは危険エリアに侵入すると車両を停止させる安全システムとして実装されている。

共創プロジェクト
日立市と日立製作所が2023年12月に締結した「デジタルを活用した次世代未来都市(スマートシティ)計画に向けた包括連携協定」に基づく取り組みである。「グリーン産業都市の構築」「デジタル健康・医療・介護の推進」「公共交通のスマート化」の3つのテーマを中心に、デジタル技術の活用と共創活動を通じて地域課題の解決をめざしている。

【参考リンク】

TOCKLE公式サイト(外部)
BRJ株式会社が展開する小型モビリティのシェアリング・レンタルサービス。電動二輪・三輪モビリティを全国の地方都市で展開している

BRJ株式会社(外部)
「人と街に感謝される未来の公共交通を創る」をビジョンに掲げる小型モビリティカンパニー。地方の交通空白解消に取り組む

日立市×HITACHI 次世代未来都市共創プロジェクト(外部)
日立市と日立製作所による包括連携協定に基づく共創プロジェクトの公式サイト。公共交通のスマート化などの取り組みを発信

警視庁:特定小型原動機付自転車に関する交通ルール等(外部)
特定小型原動機付自転車の定義、交通ルール、安全な利用方法について警視庁が公式に解説しているページ

【参考記事】

電動キックボードの法改正から2年、交通違反や事故の現状は?(外部)
2024年の特定小型原付事故338件のうち飲酒運転が51件(15.1%)を占めるなど、詳細な統計データを報告している

異常なほどの”飲酒事故率”=電動キックボード等「特定小型原付」の高すぎる「飲酒運転率」(外部)
2025年上半期の事故統計から深夜0時から2時の時間帯に17件の事故が発生していることを報告し、夜間営業の危険性を指摘

日立市×日立 次世代未来都市共創プロジェクト【第1回】(外部)
日立市の人口が1983年の約20万6,000人から現在約16万3,000人まで減少している状況と、公共交通のスマート化の重要性を解説

スマートシティー実現に向け、日立市の公共交通のグランドデザイン(外部)
日立市と日立製作所の共創プロジェクトにおける公共交通のグランドデザインを詳述し、地方都市の交通課題解決モデルとして位置づけ

【編集部後記】

マイクロモビリティが地方都市の「足」を変えていく可能性を、皆さんはどう考えるでしょうか。バス路線の減便や鉄道の廃止など、地方の交通課題はますます深刻化しています。電動キックボードのような新しいモビリティは、単なる移動手段の選択肢ではなく、地域コミュニティを維持するためのインフラとして機能し得るのではないでしょうか。

一方で安全性への懸念も残ります。今回の日立市のように、自治体と企業が連携しながら慎重に実証を重ねていく姿勢が、技術の社会実装において重要だと感じています。皆さんの地域でも、こうした新しいモビリティが導入されたら利用してみたいと思いますか。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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