あなたのポータブル電源は大丈夫? EcoFlowリコールが示すソフトウェアの脆弱性

EcoFlow Delta Max 2000、火災リスクで2.5万台リコール—ファームウェア更新で対応可能 - innovaTopia - (イノベトピア)

最近、モバイルバッテリーの発火事故のニュースを目にする機会が増えました。カバンの中に入れていた製品が突然発煙したり、充電中に火災が発生したりと、私たちの生活に欠かせない便利なアイテムが、一瞬にして凶器に変わりうる危険性を浮き彫りにしています。その原因の多くは、落下などの物理的な衝撃や経年劣化によるもの。しかし、もしその原因が「目に見えないソフトウェアの不具合」だとしたら? 


EcoFlowは2025年10月8日、ポータブル電源Delta Max 2000(モデルEFD310)約25,030台について、米国消費者製品安全委員会(CPSC)と協力して自主リコールを発表した。

対象製品は過熱して発火する可能性があり、重度の火傷と火災の危険性がある。同社は6件の発火報告を受けており、財産被害は総額85万ドル以上に達している。対象製品は2022年7月から2025年5月まで、Costco.com、Amazon.com、Ecoflow.comで約1,600ドルで販売された。

ユーザーは直ちに使用を中止し、公式EcoFlowアプリを通じて無線ファームウェアアップデート(バージョン1.6.2.81)を実施する必要がある。アップデートは約5分で完了し、製品の返却は不要である。他のモデルはリコールの影響を受けない。

From: 文献リンクEcoFlow Recalls 25,000 Delta Max 2000 Power Stations Over Fire and Burn Hazard — Here’s How to Fix Yours

【編集部解説】

今回のEcoFlow Delta Max 2000のリコールは、ポータブル電源市場における安全性の課題を改めて浮き彫りにしました。注目すべきは、物理的な製品回収ではなく、ファームウェアアップデートによる対応が可能だという点です。これは現代のIoT機器ならではの利点であり、ユーザーの負担を最小限に抑えながら安全性を確保できる手法として評価できます。

ただし、85万ドルを超える財産被害が発生している事実は看過できません。ポータブル電源は災害時の備えや、キャンプなどのアウトドア活動で使用されることが多く、密閉された空間や可燃物の近くで使用される可能性があります。発火リスクは単なる製品の故障を超え、人命に関わる重大な問題です。

バッテリーマネジメントシステム(BMS)の制御不良が原因と推測されますが、ソフトウェアアップデートで解決できるということは、ハードウェア自体に致命的な欠陥はなく、制御ロジックの問題だったと考えられます。大容量リチウムイオンバッテリーを搭載する製品において、充放電の制御や温度管理は極めて重要な要素です。

約3年間にわたって販売された製品が対象となっており、すでに多くのユーザーが長期間使用していることを考えると、早期の対応が求められます。EcoFlowは日本市場でも展開しているブランドであり、日本国内でも同様の対応が必要になる可能性があります。

【用語解説】

CPSC(米国消費者製品安全委員会)
Consumer Product Safety Commissionの略称で、米国における消費者製品の安全性を監督する独立した連邦政府機関である。製品に関する安全基準の策定やリコールの監督を行い、消費者の安全を守る役割を担っている。

ファームウェア
機器に組み込まれた制御用ソフトウェアのことで、ハードウェアの動作を管理する。ポータブル電源の場合、充電や放電、温度管理などの制御を行う重要なプログラムである。

BMS(バッテリーマネジメントシステム)
リチウムイオンバッテリーなどの充電池を安全に管理するシステムで、過充電や過放電、過熱を防ぐ役割を持つ。電圧や温度を監視し、異常時には充放電を停止する安全機構である。

OTA(Over-The-Air)アップデート
インターネット経由で無線通信を使ってソフトウェアやファームウェアを更新する技術。物理的な接続や製品の返送が不要で、ユーザーが自宅で簡単にアップデートできる。

【参考リンク】

EcoFlow公式サイト(米国)(外部)
ポータブル電源やソーラーパネルを製造する企業の公式サイト。製品情報、サポート情報、リコール情報などが掲載されている

EcoFlow Delta Max 2000リコール専用ページ(外部)
今回のリコールに関する詳細情報とファームウェアアップデート手順が記載された公式ページ。ユーザー向けの対応方法が段階的に説明されている

米国消費者製品安全委員会(CPSC)リコール情報(外部)
CPSCが公式に発表したリコール通知。対象製品、危険性、報告された事故件数などの公的情報が掲載されている

EcoFlow公式アプリ(外部)
ファームウェアアップデートに必要なEcoFlow公式アプリのダウンロードページ。iOS版とAndroid版が提供されている

【参考記事】

EcoFlow Technology Recalls Delta Max 2000 Power Stations Due to Risk of Serious Burn Injury and Fire Hazard(外部)
米国消費者製品安全委員会(CPSC)による公式リコール通知。約25,030台が対象で、6件の火災報告で85万ドル以上の財産被害が発生

EcoFlow DELTA Max 2000 (Model EFD310) Recall(外部)
EcoFlow公式によるリコール情報ページ。ファームウェアバージョン1.6.2.81へのアップデート手順が詳細に説明されている

This EcoFlow Power Station Could ‘Overheat and Ignite’ Without a Firmware Update(外部)
2022年7月から2025年5月まで約1,600ドルで販売されていた製品が対象。ファームウェアアップデートによる解決方法を解説

【編集部後記】

最近のアサヒビールホールディングスが受けたサイバー攻撃のように、あらゆる企業がその標的となりうる時代になりました。今回のEcoFlowのリコールは、幸いにもメーカー側の管理下で「ファームウェアアップデート」という形で安全を確保する道筋が示されました。しかし、少し視点を変えてみると、新たなリスクの可能性も見えてきます。

もし悪意ある第三者が、インターネットに接続されたポータブル電源やEV(電気自動車)のバッテリーマネジメントシステム(BMS)に侵入し、制御を乗っ取ってしまったら…?意図的に過充電を引き起こし、強制的に熱暴走させて発火させる、いわば「バッテリーを武器化する」ようなシナリオ。これはもはや、SF映画やスパイ小説の中だけの話だと言い切れるでしょうか。

私たちの生活を豊かにする「つながる」技術は、同時にこれまで想定されていなかった脆弱性を生み出します。物理的な安全設計はもちろんのこと、目に見えないソフトウェアのセキュリティがいかに重要か。この問題は、私たちの手元にあるデバイス一つひとつに関わる、すぐそこにある未来の課題なのだと、改めて考えさせられる一件でした。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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