ノーベル研究所は、2025年ノーベル平和賞受賞者としてベネズエラの野党指導者マリア・コリーナ・マチャドが選ばれたことが公式発表の数時間前に漏洩した件について、スパイ活動が背後にあると疑っている。
ノルウェーの日刊紙アフテンポステンによると、予測市場ポリマーケットでマチャドの当選確率が発表直前の一晩で3.75%から73%近くまで急騰した。フィナンスアビゼンは、複数のユーザーが67,820ドルの賭けを含む大規模な賭けを行い、3つのアカウントが約30万クローネ(約30,000ドル)を稼いだと報じた。
ノーベル研究所所長のクリスチャン・ベルグ・ハルピケンは「スパイ活動の可能性が極めて高い」と述べ、セキュリティ強化を表明した。
マチャドはベネズエラ人として初めて、南米人として4人目の平和賞受賞者となった。この決定に対し、ホワイトハウスの一部からは『平和より政治』との批判的な声も上がったが、トランプ米大統領自身はマチャド氏に祝意を伝えたと報じられている。
From: Nobel Institute suspects espionage behind leak of Maria Corina Machado’s Peace Prize win
【編集部解説】
今回の事件は、デジタル時代における情報漏洩の新しい形を示しています。注目すべきは、漏洩の痕跡が予測市場プラットフォーム「ポリマーケット」の異常なベッティングパターンとして可視化された点です。発表直前の一晩で当選確率が3.75%から73%へと約20倍に跳ね上がるという動きは、統計的に自然発生とは考えにくく、内部情報へのアクセスを強く示唆します。
ポリマーケットは暗号資産を用いた分散型予測市場で、匿名性が高い一方、すべての取引がブロックチェーン上に記録されます。この透明性が皮肉にも今回、情報漏洩の証拠として機能しました。67,820ドルという高額ベットや、当日作成されたアカウントによる取引など、デジタルフットプリントが漏洩を裏付ける形となっています。
ノーベル研究所所長ハルピケンが「何十年も続いている」と証言するように、ノーベル賞に関する諜報活動は新しい現象ではありません。しかし、従来は発表後に情報価値を持つものでしたが、予測市場の登場により、事前情報が即座に金銭的利益へ転換可能となりました。この構造変化が、スパイ活動の動機を経済的側面から強化しています。
セキュリティの観点では、ノーベル研究所のような伝統的機関が、国家レベルのサイバー攻撃や高度な諜報活動の標的となっている現実が浮き彫りになりました。情報の機密性を守るには、物理的セキュリティだけでなく、デジタルインフラ全体の防御強化が不可欠です。
予測市場という金融テクノロジーが、意図せず情報漏洩の検知システムとして機能したことは興味深い副産物といえるでしょう。今後、同様のパターン分析が他の機密情報保護にも応用される可能性があります。
【用語解説】
ポリマーケット(Polymarket)
ブロックチェーン技術を基盤とした分散型予測市場プラットフォーム。ユーザーは政治、経済、スポーツなどの未来の出来事に対して暗号資産で賭けを行い、その集合知によって確率を算出する。すべての取引が透明に記録される特性を持つ。
ノーベル研究所(Nobel Institute)
ノルウェー・オスロに拠点を置く、ノーベル平和賞の選考と管理を行う機関。ノルウェー・ノーベル委員会の事務局として機能し、候補者の調査や選考プロセスを支援する。
マリア・コリーナ・マチャド(María Corina Machado)
ベネズエラの野党指導者で、マドゥロ政権に対する民主化運動の中心人物。2024年の大統領選挙への出馬を政権によって禁じられた。2025年ノーベル平和賞を受賞し、ベネズエラ人として初の同賞受賞者となった。
【参考リンク】
Polymarket(外部)
暗号資産を用いた世界最大級の分散型予測市場プラットフォーム。政治、経済、スポーツなど多様なイベントの結果に対してユーザーが賭けを行い、リアルタイムで確率が更新される。
Nobel Prize(外部)
ノーベル賞の公式ウェブサイト。物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、経済学の各賞に関する情報、受賞者のプロフィール、授賞式の詳細などを提供する。
Anadolu Agency(外部)
トルコの国営通信社で、1920年に設立。世界各地に支局を持ち、多言語でニュースを配信。中東、アジア、アフリカを中心に国際ニュースを幅広くカバーする。
【参考記事】
Nobel Institute suspects espionage behind leak of Maria Corina Machado’s Peace Prize win(外部)
ノーベル研究所がマチャドの平和賞受賞情報の漏洩について、スパイ活動が原因である可能性が極めて高いと発表。研究所が何十年もスパイ活動の標的となってきたことを認め、セキュリティ強化の必要性を表明した。
【編集部後記】
予測市場が図らずも情報漏洩の検知ツールとして機能したこの事例、興味深いと思いませんか。ブロックチェーンの透明性が、本来の目的とは異なる形でセキュリティの可視化に貢献しています。
今後、伝統的な機関や企業が機密情報を守るために、どのようなデジタルセキュリティ戦略を構築していくのか、注目していきたいところです。また、予測市場というテクノロジーが持つ「集合知の可視化」という特性が、他にどんな領域で応用されていくのか。みなさんはこの技術の可能性、どう感じられますか。