NASAが支援する月面ガラスハビタット「LUNGS」──透明ドームで実現する宇宙居住の新時代

NASAが支援する月面ガラスハビタット「LUNGS」──透明ドームで実現する宇宙居住の新時代 - innovaTopia - (イノベトピア)

NASAの先端コンセプト研究所(NIAC)は、Skyeports社のCEOであるマーティン・ベルムデス博士が提案する月面ガラスハビタット計画を支援している。

このプロジェクトは「月面ガラス構造(LUNGS)」と呼ばれ、月のレゴリスから吹きガラス製の球体構造を月面で直接製造する。

この方式は、溶融ガラスが炉から押し出される際、低重力と真空に近い環境下で表面張力によって自然に球形を形成する性質を利用する。ガラス吹きにはアルゴンガスを使用し、複数のガラス球体を入れ子状にした構造が特徴だ。

球体の間には断熱材としてアルゴンを充填し、さらに一部の球体間に月のレゴリスを詰めることで、放射線や微小隕石からの物理的な保護層とする

Skyeportsチームは2025年1月に17万5,000ドルのNIACフェーズIグラントを受けており、NASAのアルテミス計画の進行に合わせてコンセプトの洗練とリスク軽減を進めている。

ベルムデス博士は将来的に月だけでなく火星や小惑星、軌道上にもガラス球体の都市を建設する構想を描いている。

From: 文献リンクNASA Plans Massive Glass Pods on the Moon — And They Look Straight out of a Sci-Fi Movie!

【編集部解説】

月面基地といえば、これまで金属製のモジュールや地下シェルターが主流でした。しかし今回NASAが支援するSkyeports社の提案は、まるで発想が逆転しています。透明なガラスドームという、一見脆弱に思える素材で宇宙飛行士を守ろうというのです。

この技術の核心は「その場製造」にあります。地球から重い建材を運ぶのではなく、月面のレゴリス(月の土)を溶かしてガラスを作る。微小隕石の衝突で月の土にはすでにガラス状物質が含まれているため、これを高温に加熱して溶融させます。低重力環境では、溶けたガラスが自然と球形を形成する性質を利用する点が画期的です。

ガラス吹きに必要な気体として選ばれたのがアルゴンです。化学的に安定した希ガスで、高温のガラスと反応しません。入れ子状になったガラス構造において、内側の球体間にアルゴン層を設けることで、地球の複層ガラス窓のように高い断熱効果を発揮する。そして、一部の球体間には現地のレゴリスを充填し、これが宇宙放射線や微小隕石の衝撃を吸収する分厚い物理シールドとして機能する。地球の技術と現地の資源を組み合わせた、巧みな設計です。

アルテミス計画が2020年代後半の有人月面着陸を目指す中、居住施設の確保は喫緊の課題となっています。従来の金属製モジュールは輸送コストが膨大で、拡張性にも限界がありました。一方、現地資源を使ったガラス構造なら、理論上は必要な分だけ球体を増やしていけます。

透明なハビタットには心理的な利点もあります。閉鎖空間での長期滞在は精神的ストレスが大きいとされていますが、外の景色が見える環境は宇宙飛行士のメンタルヘルスに好影響を与える可能性があります。もちろん放射線対策として、ガラスに遮蔽材を混ぜ込むなどの工夫は必要でしょう。

現段階ではNIACフェーズIの支援を受けた初期研究の段階です。実際の月面での実証実験までには、炉の設計、ガラスの強度試験、接合部の密閉性確認など、クリアすべき技術課題が山積しています。しかし、月の資源で月の建築物を作るという「月面自給自足」の思想は、火星探査やさらに遠い宇宙での活動にも応用できる重要な概念です。

ベルムデス博士が描くのは、ガラスの橋で結ばれた球体都市という壮大なビジョンです。それは単なる生存のための施設ではなく、人類が地球外で本当に「暮らす」ための空間デザインといえます。美しさと機能性を両立させた宇宙建築が、2030年代の月面風景を変えるかもしれません。

【用語解説】

NIAC(NASA Institute for Advanced Concepts)
NASAの先端コンセプト研究所。革新的で長期的な宇宙技術のアイデアを支援する機関である。フェーズIからIIIまでの段階的な研究助成を通じて、従来の発想を超えた技術コンセプトの実現可能性を検証する。

レゴリス
月や惑星の表面を覆う細かい砂や岩石の層。月のレゴリスは数十億年にわたる微小隕石の衝突で形成され、すでにガラス状物質を含んでいる。建設資材としての活用が期待されている。

アルテミス計画
NASAが主導する有人月面探査プログラム。2020年代後半に宇宙飛行士を月面に送り、持続可能な月面基地の建設を目指す。アポロ計画以来の有人月面着陸となる。

インサイチュ(in situ)
「その場で」という意味のラテン語由来の用語。宇宙開発では現地の資源を利用して製造や建設を行うことを指す。輸送コストを大幅に削減できる。

微小隕石(マイクロメテオロイド)
宇宙空間を漂う微細な岩石や金属の粒子。大気のない月面では、これらが高速で地表に衝突し続けるため、構造物の耐久性が重要となる。

【参考リンク】

NASA NIAC(NASA Institute for Advanced Concepts)(外部)
NASAの先端技術研究プログラムの公式サイト。革新的な宇宙技術コンセプトへの助成情報や採択プロジェクトの詳細を掲載。

Skyeports(外部)
月面ガラスハビタットを提案する宇宙インフラ企業の公式サイト。美しさと機能性を兼ね備えた宇宙建築のビジョンを紹介。

NASA Artemis Program(外部)
NASAのアルテミス計画公式サイト。月面探査のミッション詳細やスケジュール、人類の月面長期滞在実現への取り組みを解説。

【参考動画】

【参考記事】

Lunar Glass Structure (LUNGS) – NASA NIAC(外部)
NIAC公式プロジェクトページ。低重力環境で現地資源を活用した耐久性のあるハビタット製造技術の詳細を解説。

NASA’s Artemis Program Overview(外部)
アルテミス計画の全体像と月面基地建設戦略を説明。長期的な月面プレゼンス確立のインフラ要件を詳述。

【編集部後記】

透明なガラスドームで月面を眺めながら暮らす未来。SFの世界だと思っていた光景が、現実味を帯びてきました。私たちが子どもの頃に夢見た宇宙生活は、金属の箱の中ではなく、自然光が差し込む開放的な空間なのかもしれません。

月の土から建材を作り、その場で家を建てる。この「現地調達」の発想は、火星探査やさらに遠い宇宙への扉を開く鍵になりそうです。みなさんは、もし月面基地で暮らすとしたら、窓のない金属モジュールと透明なガラスドーム、どちらを選びますか?宇宙建築の未来について、一緒に想像してみませんか。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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