オーストラリアのSkyborne Technologies社が開発した軍用ロボット犬「CODiAQ」(Controller-Operated Direct-Action Quadruped)が2025年10月にワシントンで開催された米国陸軍協会年次エキスポで公開された。
CODiAQは40mm手榴弾ランチャーHAVOCまたは12ゲージショットガンモジュールCHAOSを搭載し、AI支援による標的認識システムTargeting Electronics Optical Boxを備える。高さは1メートル未満で、IP-67等級の防塵防水性能を持ち、10分以内に展開可能である。兵士は数日間の訓練で操作できる。
現在、米国防総省の特殊作戦・低強度紛争担当国防次官補室の支援を受け、特殊作戦部隊を含む米軍パートナーとテスト段階にある。都市環境や密林を含む複数の地形で評価が進められている。
From: Meet “CODiAQ”, the U.S. Grenade-Firing Robot Dog Built for Combat—And It’s Headed to the Battlefield
【編集部解説】
このニュースが持つ意味を、技術的・社会的両面から考えてみたいと思います。
CODiAQの最も注目すべき点は、「致死的自律性」と「実戦投入の現実味」の組み合わせです。これまでも米軍はBoston DynamicsのSpotなど四足歩行ロボットを偵察や物資運搬に活用してきましたが、CODiAQは明確に「殺傷能力」を前提に設計された点で一線を画しています。
技術面では、Targeting Electronics Optical Box(TEOB)というAI支援標的認識システムが鍵となります。このシステムは光量、距離、動きをリアルタイムで調整し、昼夜を問わず脅威を識別・追跡・優先順位付けします。つまり、ロボット自身が操作者に「攻撃対象を提案する」能力を持つということです。
この技術によって実現するのは「非対称な戦闘」の新しい形です。一人の兵士がタブレット操作だけで、建物への突入前に室内の脅威を排除したり、危険な市街地を事前偵察したりできます。人的損失を最小化しながら作戦効率を高める—これは都市戦において革命的な変化をもたらす可能性があります。
しかし、ポジティブな側面と同時に深刻な懸念も存在します。最大の問題は「誤認のリスク」です。AIが民間人を脅威と誤判定した場合、誰が責任を負うのか。操作者か、開発者か、それとも導入を決定した軍の上層部か。国連特定通常兵器使用禁止制限条約は、AI誘導による殺傷能力に関する明確な国際基準をまだ確立していません。
記事中で言及されている韓国、イスラエル、ウクライナの事例は、この技術が決して米国だけの話ではないことを示しています。2024年に韓国が四足歩行ロボットをテストし、イスラエルが都市監視にロボット犬を投入している事実は、各国が独自に同様の技術開発を進めていることを意味します。
Skyborne Technologiesの最高事業責任者Adrian Dudokは「致死的で、信頼性が高く、使いやすいツールを提供する」と述べていますが、この「使いやすさ」こそが両刃の剣となり得ます。わずか数日の訓練で操作可能ということは、技術の拡散速度が速いということでもあります。
長期的な視点で見ると、CODiAQは軍事ロボットの「量産化時代」の幕開けを告げているのかもしれません。プロトタイプではなく実戦配備が前提となっている点、IP-67等級の耐久性や10分以内の展開速度など、実用性に徹底的にこだわった設計は、大規模な導入を見据えたものです。
この技術が戦場に与える影響は計り知れませんが、同時に私たちは「人間の判断をどこまで機械に委ねるべきか」という根本的な問いに向き合う必要があります。
【用語解説】
AUSA(Association of the United States Army、米国陸軍協会)
米国陸軍の専門家、産業界、政府機関が集まる非営利組織。毎年ワシントンで年次エキスポを開催し、最新の軍事技術や装備が展示される。
IP-67等級
国際電気標準会議が定める防塵・防水性能の規格。IP-67は「完全な防塵性能」と「水深1メートルで30分間の浸水に耐える」ことを示す。
DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency、国防高等研究計画局)
米国防総省の研究開発機関。インターネットやGPSなど、後に民生技術となった革新的技術を多数開発してきた。
IED(Improvised Explosive Device、即席爆発装置)
軍事用ではない材料を使って製造された爆発物。イラクやアフガニスタンで米軍が直面した主要な脅威の一つ。
国連特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)
1980年に採択された国際条約。民間人に過度の傷害を与える兵器の使用を制限する。自律型致死兵器システム(LAWS)についての議論が続いている。
非対称戦争
軍事力や戦略において著しく異なる勢力間で行われる戦争形態。ゲリラ戦やテロリズムなど、従来の正規軍同士の戦闘とは異なる戦術が用いられる。
【参考リンク】
Skyborne Technologies公式サイト(外部)
オーストラリアを拠点とする防衛技術企業。CODiAQロボット犬やCerberus MI戦闘ドローンなどの自律型軍事システムを開発している。
Interesting Engineering – CODiAQ記事(外部)
CODiAQの技術仕様や米軍との試験状況について詳細に報じている工学系ニュースサイト。
Boston Dynamics(外部)
四足歩行ロボット「Spot」を開発した米国のロボティクス企業。軍事・民生両面でロボット犬技術のパイオニア的存在である。
AUSA(米国陸軍協会)(外部)
米国陸軍の専門家や産業界が集まる非営利組織。年次エキスポで最新の軍事技術が公開される場を提供している。
【参考記事】
Skyborne Technologies Announces CODiAQ(外部)
Skyborne Technologies社の公式発表。CODiAQの技術仕様、展開能力、米国防総省との協力関係について詳述している。
Grenade-Launching Robot Dog Heads to US Military(外部)
CODiAQが特殊作戦部隊を含む米軍パートナーとのテスト段階に入っていることを報じている。
South Korea’s Air Force Explores Replacing Patrol Dogs with Robot Dogs(外部)
2023年に韓国国防省が地下作戦で四足歩行ロボットをテストした事例を紹介している。
【編集部後記】
致死的な自律ロボットが実戦配備される時代が、思っていたよりも早く訪れようとしています。SFの世界だけの話ではなくなった今、私たちはどう向き合うべきでしょうか。
人的被害を減らせる技術として歓迎すべきなのか、それとも機械による判断の危うさを懸念すべきなのか。答えは簡単には出ません。みなさんは、AIが標的を識別し攻撃するロボット兵器について、どう感じますか?技術の進化と倫理のバランスをどこに置くべきか、一緒に考えていけたらと思います。この技術が私たちの未来にどんな影響を与えるのか、注視していきましょう。