サムスンがGalaxy S26シリーズの発売を2026年3月に延期される可能性をSamMobileが報じた。
通常1月に発売されるGalaxy Sシリーズだが、開発後期段階での製品ラインナップ変更が原因とされる。当初はGalaxy S26 Pro、S26 Edge、S26 Ultraの3機種を計画していたが、Galaxy S25 Edgeの販売状況を受けてS26 Edgeをキャンセルし、S26+に変更した。
S26 Ultraの開発は完了したが、S26とS26+はまだ完了していないため、発売延期を決定したという。最廉価モデルのS26には世界初の2nmモバイルチップであるExynos 2600が搭載され、S26+はSnapdragon 8 Elite Gen 5またはExynos 2600を搭載する見込み。
これらの内容は情報筋によるリークであり、SamMobileの記事は10月18日に公開された。
From: Samsung’s launch plans for Galaxy S26 may face a huge setback
【編集部解説】
この延期報道の背景には、サムスンの半導体戦略が深く関わっています。Exynos 2600は世界初の2nmプロセスを採用したモバイルチップとして注目されており、Samsung Foundryの命運を握る重要なプロジェクトです。同社は3nmプロセスで歩留まり問題に直面し、Galaxy S25シリーズ全機種でQualcommのSnapdragon 8 Eliteを採用せざるを得ませんでした。この判断はコスト増加につながり、自社半導体事業の収益性を悪化させました。
Exynos 2600の開発状況を見ると、2nmプロセスの歩留まりは40%を超えたとされ、TSMCの60%には及びませんが、3nm時代の苦境と比較すれば大きな進歩です。ベンチマークテストでは、初期スコアは芳しくありませんでしたが、その後の改善版ではシングルコアスコア3,309、マルチコアスコア11,256を記録し、AppleのM3に近く、Snapdragon 8 Eliteを上回る結果を示しました。このチップは10コアCPU構成を採用し、最高クロック3.8GHzで動作します。
製品ラインナップの混乱も重要な要素です。当初S26 Proと呼ばれると噂されていた機種が通常のS26に戻り、S25 Edgeの販売実績を受けてS26 Edgeの開発が中止され、代わりにS26+に注力する方向転換が行われたとされています。この戦略変更が開発スケジュールに影響を与えた可能性があります。
技術的観点から見ると、2nmプロセスへの移行は単なる微細化以上の意味を持ちます。サムスンのSF2(2nm GAA)プロセスは、3nm比で性能12%向上、電力効率25%改善、面積5%削減を実現するとされています。これはスマートフォンのAI処理能力向上に直結し、オンデバイスAIの進化を加速させます。Galaxy S26シリーズでは、強化されたNPU(Neural Processing Unit)により、より高度なAI機能がローカルで実行可能になります。
しかし、リスクも存在します。2nm量産が遅れれば、QualcommのSnapdragon 8 Elite Gen 5に全面依存するシナリオが再現され、サムスンの半導体事業の独立性がさらに損なわれます。また、製品発売の遅延は競合他社に市場シェアを奪われる機会を与えます。特にAppleが2026年春に新製品を投入する場合、サムスンの3月発売は競争上不利になる可能性があります。
長期的視点では、この状況はサムスンの垂直統合戦略の試金石となります。自社でチップを設計・製造できる能力は、AppleやHuaweiのような競合との差別化要因となります。Exynos 2600の成功は、テスラ(16.5億ドルの契約)や任天堂(Switch 2チップ)といった外部顧客の獲得にも影響を与えるため、スマートフォン事業を超えた戦略的重要性を持っています。
【用語解説】
Exynos 2600:サムスンが開発中の次世代モバイルプロセッサ。世界初の2nmプロセス技術を採用し、10コアCPU構成で最高クロック3.8GHzで動作。Galaxy S26シリーズに搭載予定。
2nmプロセス:半導体製造における最先端の微細化技術。トランジスタのサイズを2ナノメートル(10億分の2メートル)レベルまで縮小することで、性能向上と消費電力削減を実現する。
GAA(Gate All Around):次世代半導体製造技術。トランジスタのゲートが全周を囲む構造により、電流制御の精度が向上し、性能と電力効率が改善される。
歩留まり:半導体製造において、製造した全チップのうち正常に動作する良品の割合。歩留まりが高いほど製造コストが低減され、量産に適している。
NPU(Neural Processing Unit):AI処理に特化した演算ユニット。機械学習やディープラーニングのタスクを効率的に実行し、オンデバイスAI機能を強化する。
Snapdragon 8 Elite:Qualcommが開発する最上位モバイルプロセッサシリーズ。高性能なCPU、GPU、AIエンジンを統合し、フラッグシップスマートフォンに搭載される。
垂直統合戦略:企業が製品の設計から製造、販売まで自社で一貫して手がける戦略。Appleのように独自チップを開発・製造することで、競合との差別化とコスト最適化を図る。
【参考リンク】
Samsung confirms Exynos 2600 will be the first 2nm chipset on the market(外部)
サムスンが公式にExynos 2600を世界初の2nmチップとして確認したニュース。NPU性能向上とオンデバイスAI機能強化について解説。
Samsung’s Exynos 2600 runs Geekbench again with improved scores(外部)
Exynos 2600の最新ベンチマークスコア(3,309/11,256)を報告。AppleのM3に匹敵し、Snapdragon 8 Eliteを上回る性能を記録。
Samsung is making excellent progress on a 2 nm Exynos 2600 chip for Galaxy S26(外部)
Samsung Foundryの2nmプロセス歩留まりが40%を超え、TSMC追撃の進展を報告。Galaxy S26シリーズへの搭載計画を解説。
Report: Exynos 2600 will be used in the Galaxy S26 Ultra, mass production starts this month(外部)
Exynos 2600の量産開始とGalaxy S26 Ultraへの搭載計画。テスラ、任天堂など外部顧客獲得への影響も分析。
【参考記事】
The Samsung Galaxy S26 chaos continues, with launch delays and renamings rumored(外部)
Galaxy S26シリーズの製品名変更と発売延期の混乱を包括的に報道。S26 Proの名称変更とS26 Edgeキャンセルの経緯を解説。
Galaxy S25 sales impress, even the Galaxy S25 Edge crosses key milestone(外部)
Galaxy S25シリーズが前世代を上回る2,270万台を販売。Galaxy S25 Edgeも100万台を突破した成功事例として報告。
The Samsung Galaxy S25 Edge is not selling well, insiders say(外部)
Galaxy S25 Edgeの売上が予想を下回り、Samsungが生産数を削減したとする初期報道。S26ラインナップへの影響を分析。
Samsung Galaxy S26 launch rumored to be postponed by months due to massive delays(外部)
Galaxy S26の3月延期報道について、情報源Techmaniacsの信頼性に疑問を呈する分析記事。過去の発売パターンとの比較も掲載。
【編集部後記】
サムスンの発売延期が事実なら、2nm半導体の量産立ち上げがいかに困難かを物語っています。3nmで苦戦した記憶が新しい中、今度は成功するのでしょうか。それとも再びQualcomm頼みになるのか。一方で気になるのは、製品ラインナップの迷走です。ProなのかEdgeなのか、Plusは残すのか。市場の反応を見ながら戦略を変えるのは柔軟とも言えますが、開発現場の混乱は想像に難くありません。AppleがM3チップで見せた垂直統合の威力を、サムスンは自社チップで再現できるのか。2026年初頭のスマートフォン市場は、技術と戦略の両面で興味深い展開になりそうです。