ヒュンダイ自動車とPlusAIの自律走行水素燃料電池トラック「XCIENT Fuel Cell」がTIME誌の「Best Inventions of 2025」に選出された。
2025年10月10日にソウルとカリフォルニア州サンタクララから発表されたこのトラックは、ヒュンダイ自動車のClass 8大型トラックプラットフォームにPlusAIのLevel 4自律運転システム「SuperDrive」を統合したものである。
XCIENT Fuel Cellは2020年のグローバルローンチ以来、韓国、米国、スイス、ドイツ、ニュージーランド、イスラエルを含む10カ国で展開され、累計走行距離は1,000万マイル(約1,600万km)近くに達している。
米国では、NorCAL ZEROプロジェクトでオークランド港とリッチモンド港で30台が稼働し、ジョージア州のヒュンダイ自動車グループメタプラントアメリカでは21台が物流をサポートしているという。
【編集部解説】
ヒュンダイ自動車のXCIENT Fuel Cellは、商用車分野における水素技術の実用化において最も先行している事例の一つです。2020年の量産開始から5年が経過し、累計1,000万マイルという実走行データは、水素燃料電池トラックが実験段階を脱し、商業運用のフェーズに入ったことを示しています。
今回のTIME誌による評価で注目すべきは、水素技術と自律運転という2つの先端技術の統合です。PlusAIのLevel 4自律運転システムは、限定された条件下でドライバーの介入なしに走行できる高度なもので、ハブ間の長距離輸送という特定用途に最適化されています。これにより、24時間稼働が可能となり、ドライバー不足という物流業界が抱える構造的課題への解決策を提示しています。
水素トラックの強みは、EVトラックと比較して航続距離の長さと給油時間の短さにあります。大型トラックの長距離輸送では、バッテリーEVでは重量と充電時間が課題となりますが、水素燃料電池はこれらの制約を回避できます。
米国での展開も戦略的です。カリフォルニア州のNorCAL ZEROプロジェクトでは港湾という高稼働率の環境で30台を運用し、ジョージア州ではヒュンダイ自動車自身の工場物流で21台を活用することで、実証データを蓄積しながら水素インフラの整備を進めています。
ただし課題も残されています。水素ステーションのインフラ整備コスト、水素製造時のカーボンニュートラリティ確保、車両価格の高さなど、普及に向けたハードルは依然として存在します。今回の受賞は技術的可能性を示すものですが、経済的実行可能性の確立にはまだ時間を要するでしょう。
【用語解説】
Level 4自律運転
SAE(米国自動車技術者協会)が定義する自動運転の6段階のうち、上から2番目のレベル。特定の条件下(限定領域)であれば、システムが全ての運転タスクを実行し、ドライバーの介入が不要となる。緊急時のみシステムが安全に停止する。Level 5は全ての条件下で完全自動運転が可能だが、Level 4は特定のルートや環境に限定される。
Class 8トラック
米国における大型商用車の分類で、車両総重量が33,001ポンド(約15トン)以上の最も重量級のトラックカテゴリー。長距離輸送用のセミトレーラーや大型ダンプトラックなどが該当する。
水素コリドー
水素燃料電池車が長距離を移動できるよう、幹線道路沿いに水素ステーションを配置したネットワーク。電気自動車における充電ステーションネットワークに相当する概念で、水素モビリティの普及に不可欠なインフラである。
ゼロテールパイプエミッション
車両の排気管から排出される有害物質がゼロであることを意味する。水素燃料電池車は水素と酸素の化学反応で電気を生成し、排出されるのは水蒸気のみであるため、走行時の環境負荷が極めて低い。
【参考リンク】
PlusAI(外部)
商用トラック向けLevel 4自律運転システムSuperDriveを開発する米国AI企業の公式サイト。
NorCAL ZERO Project(外部)
カリフォルニア州北部のゼロエミッション商用車導入プロジェクト。30台のXCIENTが稼働中。
TIME Best Inventions of 2025(外部)
TIME誌の2025年ベストインベンション特集記事。300の革新的製品の選出基準と社会への影響を解説。
【参考記事】
Hyundai XCIENT Fuel Cell reaches 10 million miles globally(外部)
XCIENT Fuel Cellの累計走行距離1,000万マイル達成記事。10カ国での展開と運用データを詳述。
【編集部後記】
水素と自律運転という2つの先端技術が融合したトラックが、実験ではなく実際の物流現場で稼働している事実に、未来の輪郭が見えてきたように感じています。
EVトラックと水素トラック、それぞれに長所と短所がありますが、用途や距離によって使い分ける未来が訪れるのかもしれません。1,000万マイルという実走行データが積み重なる中で、この技術がどう進化していくのか、一緒に見届けていきたいと思います。