MIT発「Refashion」─新品から再構成できる服。ファッション設計が循環を生む

Refashion:MITとAdobeが開発した「変身する服」のデザインシステム、ファッション廃棄物削減へ - innovaTopia - (イノベトピア)

MITのコンピュータサイエンス・人工知能研究所(CSAIL)とAdobeの研究チームが、再構成可能な衣服をデザインするソフトウェアシステム「Refashion」を開発している。

このシステムは、ファッションデザインをモジュール化し、ユーザーが衣服の各要素を描画・視覚化できる。パンツをドレスに変身させるなど、衣服を異なる形態に再構成することが可能である。

年間約9,200万トンの繊維廃棄物が生産される中、このツールは廃棄物削減を目指す。予備的なユーザー研究では、デザイナーと初心者が30分以内に衣服のプロトタイプを作成できた。

研究はMIT Morningside Academy for Design、MIT MAKE Design-2-Making Mini-Grant、カナダ自然科学工学研究評議会の支援を受け、ACM Symposium on User Interface Software and Technologyで2025年10月に発表された。

From: 文献リンクNew software designs eco-friendly clothing that can reassemble into new items

【編集部解説】

このRefashionというシステムが注目に値するのは、単なる「服のリメイク支援ツール」ではなく、ファッション産業の根本的な構造を問い直す試みだからです。従来のファッションデザインソフトウェアは「完成形」を前提としていましたが、Refashionは「変化し続けること」を前提に設計されています。

技術的な革新性は、モジュラーデザインの思想をファッションに持ち込んだ点にあります。プリーツ、ギャザー、ダーツといった伝統的な縫製技術をデジタル上でパラメータ化し、金属スナップやベルクロといった着脱可能な接続方法と組み合わせることで、一着の服が複数の用途を持つ設計を可能にしました。

特筆すべきは、このシステムが専門家だけでなく初心者でも30分程度でプロトタイプを作成できる点です。これはファッションデザインの民主化を意味します。現在、多くの人が体型変化や流行の変化によって服を廃棄していますが、Refashionは「所有する服を編集する」という新しい消費行動を提案しています。

環境面への影響も無視できません。年間9,200万トンという膨大な繊維廃棄物の多くは、サイズが合わなくなった、流行遅れになったという理由で生まれています。ファッション業界は世界の水質汚染の約20%を占めているという指摘もあり、加えて、綿花の栽培から始まる製造のプロセスにも大量の水が必要とされている点も見逃せません。

こういった環境負荷を下げる一方で、課題も存在します。現段階では標準的なプロトタイピング生地での使用が中心であり、耐久性のある素材への対応はこれからです。また、金属スナップやベルクロでの接続は、従来の縫製に比べて異なる特性を持ちます。これは再構成可能性を実現するための設計上の選択であり、用途に応じた適切な評価が必要でしょう。

産業への影響としては、ファストファッションモデルへの挑戦となるでしょう。服が長く使えるようになれば販売数は減少しますが、カスタマイズやアップグレード用のモジュール販売という新しいビジネスモデルが生まれる可能性もあります。

MITとAdobeという組み合わせも興味深い点です。Adobeが持つクリエイティブツールの知見と、MITの計算工学の強みが融合することで、将来的にはAdobeのデザインツール群に統合される可能性も考えられます。

【用語解説】

モジュラーデザイン
製品を独立した部品(モジュール)の組み合わせとして設計する手法。各モジュールが交換・再配置可能なため、柔軟性と拡張性が高まる。ソフトウェアやハードウェア設計で広く用いられてきたが、Refashionはこの概念をファッションデザインに応用している。

プリーツ(Pleat)
布を規則的に折り畳んで固定する縫製技術。アコーディオンのような立体的な襞を作り出し、デザイン性と動きやすさを両立させる。スカートやドレスで多用される。

ギャザー(Gather)
布を寄せ集めてふんわりとした立体感を出す技法。糸で引き絞ることで生地にボリュームを持たせ、袖口やウエスト、スカート部分などに用いられる。

ダーツ(Dart)
布から三角形の部分を取り除いて縫い合わせることで、平面の生地を立体的に仕立てる技術。体のカーブに沿ったフィット感を出すために使用される。

ACM Symposium on User Interface Software and Technology (UIST)
ユーザーインターフェース研究における最高峰の国際会議の一つ。ACM(Association for Computing Machinery)が主催し、革新的なインタラクション技術やソフトウェアシステムの研究成果が発表される。

【参考リンク】

Refashion Project Page(外部)
MIT CSAILとAdobeが開発したRefashionの公式ページ。技術詳細やデモ動画、研究論文へのリンクを掲載。モジュラーデザインによる再構成可能な衣服の設計プロセスを視覚的に確認できる

MIT Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory (CSAIL)(外部)
マサチューセッツ工科大学の最大規模の研究所。人工知能、ロボティクス、コンピュータサイエンスの幅広い分野で先端研究を行い、Refashionプロジェクトもここから生まれた

Adobe Research(外部)
Adobeの研究開発部門。クリエイティブツール、デジタルメディア、機械学習分野で革新技術を開発。本プロジェクトではMIT CSAILと共同でファッション分野への応用研究に取り組む

arXiv – Refashion論文(外部)
Refashionシステムの技術詳細を記した学術論文。”Refashion — Reconfigurable Garments via Modular Design”として公開され、アルゴリズムや実装方法を詳しく解説。
DOI:https://doi.org/10.1145/3746059.3747632

【参考記事】

Reconfigurable Garments via Modular Design – Moonlight(外部)
Refashionの学術的アプローチを解説したレビュー記事。モジュールを「foundation」「pleat」「dart」の3種類に分類し、整数線形計画法を使って最小限の構成要素に分解する手法を解説。接続にはスナップやファスナーを活用して再構成を可能にするなど、アルゴリズム的・設計的な観点を中心に分析している。

Refashion: Reconfigurable Garments via Modular Design – arXiv(外部)
Rebecca Linらが執筆した原論文。モジュラーガーメント設計手法を提案し、リサイズ・リスタイル・リユースを衣服設計初期から組み込むことを目的とする。線形最適化を用いた分解手法、デジタル設計ツール、ユーザーテストに関する詳細データを掲載。MIT News記事の技術的裏付けとして活用。

Refashion: Reconfigurable Garments via Modular Design (Project Page)(外部)
Refashion研究チームによる公式プロジェクトサイト。論文やデモ映像、UI画像が掲載されており、システムの動作イメージや研究協力者・使用データセットなども公開。研究がUIST 2025で発表されたこと、MITとAdobeの協働体制が明記されている。

New Software Designs Eco-friendly Clothing That Can Reassemble – Mirage News(外部)
MIT Newsの内容を要約した配信記事。Refashionの機能説明(衣服の描画・配置・再構成)を簡潔にまとめ、環境負荷削減と服の再利用可能性を強調。一般向けに視覚的理解を補助する目的で参照した。

10 Concerning Fast Fashion Waste Statistics
繊維廃棄物が年間約9,200万トン排出されており、それらがもたらす深刻な環境への負荷についてまとめている。

【編集部後記】

クローゼットの中に、サイズが合わなくなった服や、着る機会がなくなった服はありませんか?私たちは「もったいない」と思いながらも、結局新しい服を買ってしまうことが多いですよね。

Refashionが提案するのは、所有する服を「編集する」という新しい関係性です。もし一着の服が、あなたのライフステージや気分に合わせて変化し続けられるとしたら、ファッションとの付き合い方はどう変わるでしょうか。デザインツールが進化することで、私たち自身がクリエイターになれる未来が見えてきました。みなさんなら、どんな「変身する服」を作ってみたいですか?

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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