SpaceX、Artemis III月面着陸契約を失う可能性 -NASAが他社に契約開放へ

[更新]2025年10月22日07:39

SpaceX、Artemis III月面着陸契約を失う可能性 -NASAが他社に門戸開放へ - innovaTopia - (イノベトピア)

NASAのショーン・ダフィー長官代行(運輸長官を兼任)は2025年10月20日、CNBCの番組「Squawk Box」に出演し、SpaceXがArtemis IIIミッションの開発スケジュールで遅れているため、契約を他社にも開放すると発表した。

SpaceXは4年前に契約を獲得し、Starshipロケットの改良された上段を使用して2名のNASA宇宙飛行士を月面に送る予定だった。Artemis IIIは1972年の最後のアポロミッション以来初の有人月面着陸となる。

ダフィーは中国との競争を理由に、トランプ大統領の任期中に月到達を目指すとし、Blue Originなど他の宇宙企業にも参加を呼びかけた。SpaceXのイーロン・マスク最高経営責任者はXで反論し、Blue Originはペイロードを軌道に届けたことがないと指摘した。

Artemis IIIの目標日は何度も延期されており、2028年がより現実的な打ち上げ日として挙げられた。中国は2030年以前に月への有人飛行を目指している。

From: 文献リンクSpaceX could lose its much-prized contract to return humans to the moon

【編集部解説】

このニュースは、米国の宇宙開発における大きな方向転換を示すものです。SpaceXは2021年に29億ドルという巨額の契約を獲得し、Starship HLS(Human Landing System)と呼ばれる月面着陸システムの開発を進めてきました。しかし、Starshipの開発は想定以上に複雑で、これまで複数回の飛行試験を実施してきたものの、月面ミッションに必要な技術的マイルストーンの達成には至っていません。

特に課題となっているのが、軌道上での燃料補給技術です。Starshipが月まで往復するには、地球軌道上で複数回の燃料補給が必要とされており、この技術は前例のない試みとなります。NASAの上級諮問委員会は先月、この技術開発だけで「数年」の遅延が生じる可能性があると警告しました。

ダフィー長官代行が強調した「中国との競争」という文脈も重要です。中国は独自の有人月面探査計画を進めており、2030年までの実現を目標としています。米国が1972年以来、半世紀以上ぶりに月面に人類を送り込むというArtemis計画において、中国に先を越される事態は政治的にも象徴的にも避けたいというのが米国政府の本音でしょう。

興味深いのは、代替候補として名前が挙がったBlue Originの立ち位置です。同社は2023年に34億ドルのArtemis V用契約を既に獲得しており、Blue Moon着陸船で2030年3月以降の実施が予定されています。しかし、マスク氏が指摘したように、Blue OriginのNew Glennロケットは2025年1月に初飛行を成功させたばかりで、月面着陸システムの開発実績はありません。

この契約再公募の背景には、技術的な遅延だけでなく、政治的な駆け引きも透けて見えます。ロイター通信が報じたように、ベゾス氏は2025年夏にトランプ大統領と会談し、政府契約の獲得を模索していました。これは、マスク氏が大統領の国内政策法案を批判して両者が対立していた時期と重なります。

長期的に見れば、この決定は民間宇宙産業の競争を促進し、技術革新を加速させる可能性があります。一方で、Artemis IIIの実施時期がさらに遅れるリスクも高まっており、2028年という新たな目標日さえも楽観的との見方もあります。月面探査という人類の夢と、地政学的な競争、そして民間企業間の覇権争いが複雑に絡み合った、まさに現代の宇宙開発を象徴する出来事と言えるでしょう。

【用語解説】

Artemis III
NASAが推進するArtemisプログラムの第3ミッションで、1972年のアポロ17号以来、初めて人類を月面に着陸させる計画である。当初の2024年目標から数度の延期を経て、直近では2027年を目標としていたが、技術的な課題により2028年以降に延期される可能性が高まっている。

Starship HLS(Human Landing System)
SpaceXが開発中の月面着陸システムで、Starshipロケットの上段を改良したもの。宇宙飛行士を月軌道から月面まで運び、再び軌道に戻すための再使用可能な宇宙船である。軌道上での燃料補給技術が開発の鍵となっている。

SLSロケット(Space Launch System)
NASAが開発した大型ロケットで、Orion宇宙船を月軌道まで運ぶ役割を担う。Artemisプログラムの中核となる打ち上げシステムである。

Orion宇宙船
NASAが開発した有人宇宙船で、地球から月軌道までの往復を担当する。宇宙飛行士はこの宇宙船で月軌道に到達し、そこで月面着陸船に乗り換える計画となっている。

Blue Moon着陸船
Blue Originが開発中の月面着陸システムで、Artemis Vミッションでの使用が予定されている。

New Glennロケット
Blue Originが開発した大型再使用可能ロケット。2025年1月に初飛行を成功させ、試作機のBlue Ring宇宙船を地球軌道に運ぶことに成功した。

【参考リンク】

NASA Artemis Program(外部)
NASAの公式Artemisプログラムサイト。月探査計画の詳細、ミッションスケジュール、技術開発の進捗状況などを包括的に提供している。

SpaceX Starship(外部)
SpaceXの公式Starshipページ。ロケットの仕様、開発状況、テスト飛行の記録などが掲載されており、月面着陸システムの技術的詳細も確認できる。

Blue Origin(外部)
Jeff Bezosが創設した宇宙企業の公式サイト。New GlennロケットやBlue Moon着陸船などの開発プロジェクト情報を提供している。

【参考記事】

SpaceX could lose launch contract for Artemis 3 astronaut moon mission(外部)
SpaceXの契約が2021年に29億ドルで授与されたこと、Starship開発における具体的な技術課題について詳述している。

NASA opens SpaceX’s moon lander contract to rivals over delays(外部)
NASAが月面着陸船契約を競争入札に開放する決定について詳述。ベゾス氏とトランプ大統領の夏季会談についても触れている。

SpaceX moon landing contract with NASA in jeopardy(外部)
ダフィー長官代行のCNBC番組での発言内容を詳細に報じ、トランプ政権の宇宙政策における優先順位と中国との競争意識について分析。

NASA’s Duffy: Musk’s SpaceX is behind on Artemis moon landing(外部)
CNBC自身による番組内容の記事化。ダフィー長官代行の直接発言を引用し、契約再公募の背景にある政治的・技術的理由を明確にしている。

NASA Acting Admin Duffy Says SpaceX is Delayed on Moon Lander(外部)
SpaceXへの契約総額が2021年と2022年の契約を合わせて約40億ドルであること、2025年のテスト飛行状況について詳述。

【編集部後記】

SpaceXとBlue Originという二大宇宙企業の競争、そしてその背景にある米中の宇宙開発競争。この記事を読んで、みなさんはどう感じられたでしょうか。技術開発のスピードと政治的な思惑、そして人類の夢が複雑に絡み合う現代の宇宙開発には、私たち自身の未来も映し出されているように思います。

日本もArtemisプログラムに参加し、月面探査車の開発などで貢献しています。この壮大な挑戦が、私たちの社会や技術にどんな影響をもたらすのか、一緒に見守っていきませんか。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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