KDDIは2025年10月27日、グーグル・クラウド・ジャパンと戦略的協業契約を締結し、AIサービスの本格展開を発表した。本協業ではGoogleの生成AIモデル「Gemini」やAIアシスタントツール「NotebookLM」を活用し、コンテンツプロバイダーの権利を保護しながら高信頼情報を提供するサービスを2026年春に開始する。
近年、AIによる情報の無断利用がジャーナリズムやクリエイティブ産業の持続可能性を脅かす社会課題となっており、本サービスはコンテンツプロバイダーから許諾を得た信頼性の高い情報をAIが読み込み、ユーザーの興味関心に合わせて最適に情報をまとめる仕組みだ。参画企業にはユーザベース、ナターシャ、カカクコム、晋遊舎、レンガ、コネヒトが名を連ね、今後もパートナーシップを拡大していく予定である。
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Google Cloud と戦略的提携、信頼性の高いAIサービスを本格展開 | KDDI News Room
【編集部解説】
今回の提携で注目すべきは、KDDIが通信キャリアとしてAI活用の新たなビジネスモデルを構築しようとしている点です。同社は2025年4月にもGoogle Cloudとの協業を発表していましたが、今回の発表はインフラ提供にとどまらず、コンテンツエコシステム全体を巻き込んだサービスレイヤーでの展開となります。
このサービスの技術的な核心は、NotebookLMの活用にあります。NotebookLMはGoogleが提供するAI研究支援ツールで、ユーザーが指定した文書を学習ソースとして利用できる点が特徴です。従来の大規模言語モデルが膨大なインターネット上のデータを無差別に学習していたのに対し、このアプローチでは許諾を得た特定のコンテンツのみを学習対象とすることで、著作権問題を回避しながら高品質な情報提供を実現します。
ビジネスモデルの観点では、コンテンツプロバイダーに新たな収益機会を提供する可能性があります。NewsPicksやナタリー、価格.comといった各分野の専門メディアが参画することで、ユーザーは信頼性の高い情報源から効率的に情報を収集でき、メディア側は自社コンテンツの価値を損なうことなくAI時代の新しい配信チャネルを獲得できるでしょう。
一方で、情報の選別プロセスに関する透明性や、参画メディアの選定基準については注視が必要です。特定のメディアのみが情報源となることで、情報の多様性が損なわれる懸念も存在します。また、日本の著作権法第30条の4では、AI学習目的の複製は原則認められていますが、今回のような商用サービスにおける権利処理の枠組みが、今後の業界標準となる可能性があります。
長期的には、この取り組みが日本独自の「責任あるAI」のエコシステム形成につながる可能性があります。欧米ではAI企業とメディアの対立が顕在化していますが、KDDIのモデルが成功すれば、コンテンツ産業とAI産業の共存共栄の新しい形として国際的な注目を集めることになるでしょう。
【用語解説】
Gemini
Googleが開発した最新の大規模言語モデル。マルチモーダル機能を持ち、テキスト、画像、音声などを統合的に処理できる高性能な生成AIシステムである。
NotebookLM
Googleが提供するAI研究支援ツール。ユーザーが指定した文書やデータソースのみを学習対象とし、そこから情報を抽出・要約・分析する機能を持つ。
責任あるAI
AIを倫理的、法的、社会的に適切な方法で開発・利用する取り組み。透明性、公平性、説明可能性、プライバシー保護などの原則を重視する概念だ。
【参考リンク】
KDDI株式会社 公式サイト(外部)
日本の大手通信事業者KDDIの公式サイト。企業情報、サービス紹介、IR情報、最新ニュースリリースなどを掲載している。
Google Cloud 公式サイト(外部)
Googleのクラウドサービスの公式サイト。AI、機械学習、データ分析などの製品情報、技術ドキュメント、導入事例を提供している。
NotebookLM 公式サイト(外部)
GoogleのAI研究支援ツールNotebookLMの公式サイト。製品の機能紹介、使い方、プラン情報などが掲載されている。
ユーザベース NewsPicks(外部)
経済ニュースプラットフォームNewsPicksの公式サイト。ビジネスニュース、専門家コメント、オリジナル記事を提供している。
ナタリー 公式サイト(外部)
エンターテインメント特化型ニュースサイト。音楽ナタリー、お笑いナタリー、コミックナタリーなど複数のジャンルを展開している。
価格.com 公式サイト(外部)
日本最大級の購買支援サイト。家電、パソコン、カメラなど幅広い製品の価格比較とレビュー情報を提供している。
【参考記事】
KDDI, Google Cloud Bring Gemini AI to Japan’s Infrastructure(外部)
KDDIとGoogle Cloudは2025年4月にも協業を発表しており、GeminiをKDDIのインフラストラクチャに統合する取り組みを進めている。今回の発表はその延長線上にある。
Japan passes innovation-focused AI governance bill(外部)
日本は2025年6月にイノベーション重視のAIガバナンス法案を可決。責任あるAI開発を促進しながら、産業の成長を妨げない柔軟な規制枠組みを構築している。
Japan’s Agile AI Governance in Action: Fostering a Global Nexus(外部)
日本は欧米の厳格な規制とは異なるアジャイルなAIガバナンスアプローチを採用。多元的な視点から責任あるAI利用を推進し、国際的な協調を目指している。
Gemini AI lands on Google Distributed Cloud for secure on-premises adoption(外部)
GoogleはGemini AIをDistributed Cloud上で提供開始。企業が自社のデータセンター内でセキュアにAIを利用できる環境を整備している。
Understanding AI Regulations in Japan – Current Status and Future Prospects(外部)
日本のAI規制の現状と将来展望を解説。著作権法とAI学習の関係、データ保護、責任あるAI開発に関する法的枠組みが詳述されている。
【編集部後記】
コンテンツ権利保護とAI活用の両立は、欧米で激しい対立が続く中、KDDIのアプローチは興味深い試みです。通信キャリアがプラットフォーマーとして媒介者の役割を担う形は、日本特有の協調型ビジネス文化を反映しています。
一方で参画メディアの選定基準や、情報源の偏りによるフィルターバブルの可能性、さらには収益配分モデルの詳細など、気になる点は多くあります。果たしてこのモデルは持続可能なのでしょうか。そして、世界的なAI規制の潮流の中で、日本発のスタンダードになり得るのでしょうか。
※アイキャッチ画像はKDDI ニュースリリースより引用























