株式会社キンシュウは一般社団法人日本ドローンビジネスサポート協会と共同で、ドローンの自動飛行における通信品質を事前に検証する「上空電波測定サービス」を2025年11月1日に提供開始した。
本サービスは実際にドローンを飛行させて上空のLTE電波強度を測定し、取得したデータを基に最適な自動飛行ルートの設計を支援する。
対応キャリアはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社である。測定項目は基本計測がRSSI、オプション計測としてTAC、Cell ID、EARFCN、周波数帯、帯域幅、RSRP、RSRQ、SINRを提供する。
測定結果は2Dマップ、3Dマップ、統合マップ、統合レポートの形式で可視化される。サービス料金は別途見積りで、対象エリアは全国である。今後は5G通信への対応やAIを活用した飛行ルート自動最適化機能の追加を計画している。
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ドローンの安全な自動飛行を実現する「上空電波測定サービス」を提供開始
【編集部解説】
ドローンの自動飛行において、通信環境の確保は生命線とも言える重要な要素です。今回、株式会社キンシュウと日本ドローンビジネスサポート協会が提供を開始した「上空電波測定サービス」は、この課題に正面から取り組む画期的なソリューションといえます。
2023年12月に新設されたレベル3.5飛行は、ドローンの目視外飛行における規制を大幅に緩和するものでした。機上カメラによる監視があれば、補助者の配置や看板の設置といった立入管理措置が不要になり、道路や鉄道の上空を横断することも容易になりました。この規制緩和により、ドローン配送や広域インフラ点検といった事業化への期待が一気に高まっています。
しかし、規制が緩和されても、技術的な課題が解決されたわけではありません。レベル3以上の長距離自動飛行では、従来の送信機による直接通信ではなく、LTE通信が不可欠となります。ところが、携帯電話のLTE基地局は地上での利用を前提に設計されており、上空では予測困難な挙動を示すことがあります。
地上では建物や地形によって電波が遮蔽されますが、上空は見通しが良いため、複数の基地局からの電波が干渉し合う可能性があります。また、基地局のアンテナは主に地上に向けて設置されているため、高度によって電波強度が大きく変化します。さらに、地上から距離が離れるほど、遠方の基地局からの電波も届くようになり、通信品質が不安定になりがちです。
こうした課題に対して、NTTドコモやKDDIスマートドローンなどの通信事業者は、上空利用専用のLTEプランを提供しています。しかし、これらのサービスでは事前の電波環境調査が推奨されるものの、実際の測定サービスは別途有償オプションとなっており、コストや工数の面でハードルがありました。
今回のサービスの特徴は、実際にドローンを飛行させて上空のLTE電波強度を測定し、その結果を2Dマップ、3Dマップ、統合マップ、統合レポートという4つの形式で可視化する点です。これにより、飛行ルート全体の電波環境を立体的に把握でき、通信途絶のリスクが高いエリアを事前に特定できます。
測定項目も充実しており、基本計測のRSSI(受信信号強度)に加えて、オプションとしてRSRP(参照信号受信電力)、RSRQ(参照信号受信品質)、SINR(信号対干渉雑音比)など、通信品質を詳細に評価できる指標が用意されています。これらの情報があれば、単に「電波が届く」だけでなく、「安定した通信が維持できる」ルートの設計が可能になります。
また、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3大キャリアすべてに対応している点も実用的です。事業者によって基地局の配置や電波の届き方は異なるため、複数キャリアのデータを比較することで、最適な通信環境を選択できます。
国内のドローン市場は急速に拡大しており、インプレス総合研究所の調査によれば、2023年度の市場規模は3,854億円、2025年度には4,987億円に達する見込みです。特にサービス市場の成長が著しく、物流、インフラ点検、災害対応などの分野での活用が期待されています。
レベル3.5飛行の新設により、ドローン配送の事業化が現実味を帯びてきました。北海道上士幌町では、すでにNEXT DELIVERYがレベル3.5飛行による配送サービスを開始しており、高齢化が進む地域における配送効率の向上に貢献しています。こうした取り組みが全国に広がるためには、安全で信頼性の高い通信環境の確保が不可欠です。
今後は5G通信への対応やAIを活用した飛行ルート自動最適化機能の追加も計画されており、サービスのさらなる進化が期待されます。5Gは4G LTEに比べて高速大容量・低遅延・多数同時接続という特性を持ちますが、高周波数帯を使用するため、上空での通信品質の検証がより重要になります。
電波測定サービスは、ドローンの社会実装を加速させる重要なインフラとして、今後ますます需要が高まるでしょう。目に見えない電波環境を可視化することで、ドローンビジネスの安全性と信頼性が大きく向上します。
【用語解説】
レベル3飛行
ドローンの飛行形態を示す区分のひとつで、無人地帯における目視外飛行を指す。2019年に制度化され、山林、河川、海上など第三者が存在する可能性の低い場所での自律飛行が可能となった。
レベル3.5飛行
2023年12月に新設されたドローンの飛行区分。レベル3飛行の要件を緩和したもので、技能証明の保有、保険加入、機上カメラによる監視という3つの条件を満たせば、補助者や看板の配置といった立入管理措置が不要になる。
LTE通信
Long Term Evolutionの略で、4世代移動通信システム(4G)の通信規格。ドローンの長距離自動飛行では、従来の送信機による直接通信に代わり、LTEを利用した遠隔制御や映像伝送が主流となっている。
RSSI(Received Signal Strength Indicator)
受信信号強度を示す指標。電波の強さを測定する基本的な指標で、値が大きいほど電波状況が良好である。
RSRP(Reference Signal Received Power)
参照信号受信電力。LTE通信における電波強度をより正確に測定する指標。基地局からの電波がどれだけの強さで届いているかを示す。
RSRQ(Reference Signal Received Quality)
参照信号受信品質。電波の品質を示す指標で、干渉や雑音の影響を含めた通信品質を評価する。
SINR(Signal to Interference plus Noise Ratio)
信号対干渉雑音比。希望する信号と干渉・雑音の比率を示す指標で、実際の通信品質を判断する上で重要な数値となる。
3Dマップ
三次元地図。本サービスでは、高度情報を含む立体的な電波強度分布を可視化したマップを指し、飛行ルート全体の電波環境を立体的に把握できる。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
ドローンが空を飛ぶ光景は日常化しつつありますが、その背後にある「見えないインフラ」について考えたことはありますか。今回ご紹介した電波測定サービスは、まさにその見えない電波環境を可視化し、安全な飛行を支える技術です。レベル3.5飛行の規制緩和によって、ドローン配送や広域点検といった未来のサービスが現実味を帯びてきました。みなさんの地域でも、近い将来、ドローンが日常的に荷物を運んだり、インフラを守ったりする日が来るかもしれません。そんな未来を支える技術の一端を、今回の記事で感じていただけたなら嬉しいです。
























