一般社団法人日本ドローンビジネスサポート協会は、ドローン物流の実用化を加速させるため、空輸ノウハウに特化した新資格制度「ドローンビジネスマスター『空輸』コース」を創設し、2025年12月より全国で順次開講する。
同協会は国内最大級となる250kgペイロード機(EH216L)の飛行経験をもとに、現場で培った実践的なノウハウを標準化する。コースはペイロード10kg前後の小中型、30-50kgの大型、100kg以上の超大型という3つのカテゴリーで構成される。
受講料は220,000円(税込)から、2日間集中コースとして提供される。2022年のレベル4飛行解禁以降、ドローン物流は実用化フェーズへ移行しているが、実際の空輸業務に必要な専門知識を体系的に学べる場が不足していた。
From:
国内初、250kg級大型ドローン飛行の成功から空輸特化型ライセンス制度を創設
【編集部解説】
日本のドローン産業が新たな転換点を迎えています。一般社団法人日本ドローンビジネスサポート協会が発表した空輸特化型ライセンス制度は、単なる資格制度の創設にとどまらず、ドローン物流の実用化を加速させる重要な触媒となる可能性を秘めています。
2022年12月のレベル4飛行解禁は、ドローン業界にとって歴史的な転換点でした。有人地帯での目視外飛行が可能になったことで、都市部でのドローン配送という夢が現実味を帯び始めました。しかし、実際には機体認証や操縦ライセンスの取得ハードルが高く、事業化に踏み出せない事業者が多数存在していました。
そこで2023年12月に新設されたのが「レベル3.5飛行」制度です。これは無人地帯での目視外飛行において、機上カメラを活用することで補助者の配置や看板の設置といった立入管理措置を簡略化できる制度です。国家資格保有と第三者賠償責任保険加入を条件に、道路や鉄道の横断が容易になりました。この規制緩和により、ドローン配送の事業化コストが大幅に削減され、実用化への道が開かれつつあります。
今回の新資格制度が注目に値するのは、同協会が国内最大級となる250kgペイロード機(EH216L)の飛行実績を持つ点です。EH216Lは中国EHang社製のeVTOL(電動垂直離着陸機)で、最大積載量250kg、最大飛行距離35km、最大速度130km/hという性能を誇ります。2025年8月に石川県珠洲市で日本初の試験飛行が実施され、能登半島地震の被災地復興支援と次世代モビリティ実用化を目的とした取り組みとして注目を集めました。
この250kg級という数字は、ドローン物流の未来を考える上で極めて重要です。現在、日本で実用化が進むドローンの多くはペイロード数kgから数十kg程度ですが、250kgという積載能力があれば、災害時の大量物資輸送や医療機器の緊急搬送、さらには建設資材の運搬など、適用範囲が飛躍的に拡大します。
新資格制度の構成も実務を見据えた設計となっています。ペイロード10kg前後の小中型コース、30-50kgの大型コース、100kg以上の超大型コースという3段階の区分は、現在のドローン物流の発展段階と将来展望を的確に捉えています。小中型コースは農薬散布や医薬品配送といった既存の実用化分野、大型コースは現在の主力機体クラス、超大型コースは空飛ぶクルマを見据えた次世代モビリティと、それぞれが明確な役割を持っています。
市場環境も追い風となっています。インプレス総合研究所の調査によれば、2023年度の国内ドローンビジネス市場規模は前年比23.9%増の3,854億円に達し、2028年度には9,054億円に達すると予測されています。特に物流分野では、矢野経済研究所が2025年度に23.2億円、2030年度には198.3億円の市場規模を予測しており、年率50%を超える急成長が見込まれています。
しかし、課題も残されています。最大の課題は人材育成です。高度な空輸業務を安全に遂行できる専門人材の不足は深刻で、今回の資格制度はこの課題に正面から取り組む試みといえます。受講料220,000円という価格設定は決して安くありませんが、実務に直結する知識とスキルを2日間で習得できることを考えれば、事業者にとって投資価値は高いでしょう。
また、レベル3.5飛行の実績蓄積と申請ノウハウの共有も重要です。2023年12月に株式会社NEXT DELIVERYが日本初のレベル3.5飛行承認を取得して以降、日本郵便やKDDIなど大手企業も相次いで参入していますが、中小事業者にとっては申請手続きの複雑さがハードルとなっています。今回の資格制度が、こうしたノウハウを標準化して広く提供することで、業界全体の底上げが期待できます。
国際競争の視点も見逃せません。世界的にドローン物流市場は急拡大しており、2025年に19億ドル、2037年には2,758億ドルに達するとの予測もあります。中国やアメリカでは既に商用化が進んでおり、日本が後れを取らないためには、人材育成と実績蓄積を急ぐ必要があります。
今回の資格制度創設は、日本のドローン物流が「実証実験フェーズ」から「実用化・事業化フェーズ」へと移行する象徴的な動きといえるでしょう。技術革新、規制緩和、人材育成という3つの要素が揃いつつある今、ドローン物流の本格的な社会実装が現実のものとなる日は、そう遠くないかもしれません。
【用語解説】
レベル4飛行
有人地帯における目視外飛行を指すドローンの飛行区分。2022年12月の改正航空法施行により解禁された。市街地や住宅街など人がいる場所の上空を、操縦者が直接目視できない範囲で飛行させることが可能となり、都市部でのドローン配送や災害支援などへの活用が期待される。実施には第一種機体認証と一等無人航空機操縦士の資格が必要。
レベル3.5飛行
2023年12月に新設されたドローン飛行区分で、無人地帯での目視外飛行の要件を一部緩和したもの。機上カメラによる安全確認、国家資格保有、第三者賠償責任保険加入の3条件を満たすことで、補助者の配置や看板の設置といった立入管理措置を簡略化できる。道路や鉄道の横断が容易になり、ドローン配送の事業化コストが大幅に削減される。
eVTOL
Electric Vertical Take-Off and Landing(電動垂直離着陸機)の略称。電動モーターで垂直に離着陸でき、滑走路を必要としない次世代航空機。「空飛ぶクルマ」とも呼ばれる。人の輸送用と物資輸送用があり、既存の交通インフラに依存しない革新的な移動・輸送手段として注目される。
ペイロード
ドローンが搭載できる最大の荷物重量。機体本体やバッテリーを除いた純粋な積載能力を示す。一般的な配送用ドローンは数kg程度だが、産業用では数十kgから100kg以上のものも開発されている。ペイロードが大きいほど用途が広がる。
機体認証
ドローンの設計や製造過程、現状が安全基準に適合しているか検査する制度。運航形態のリスクに応じて第一種と第二種があり、レベル4飛行には第一種機体認証が必要。型式認証を受けた機体は検査の一部が省略される。
技能証明(操縦ライセンス)
2022年12月に創設されたドローンの国家資格制度。一等と二等があり、一等はレベル4飛行、二等はそれ以外の特定飛行に対応。試験には学科と実地があり、目視内飛行の限定解除などの区分が存在する。
立入管理措置
ドローン飛行時に第三者が飛行経路下に立ち入らないよう管理する措置。従来のレベル3飛行では補助者の配置や看板の設置が必要だったが、レベル3.5飛行では機上カメラによる確認で代替可能となった。
型式認証
特定のドローンの設計が安全基準に適合していることを認証する制度。メーカー側が申請し、認証を受けると同型機の機体認証時に検査が一部免除される。レベル4飛行を見据えた第一種型式認証は取得ハードルが高い。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
ドローンが空を飛び交う未来は、もはやSFの世界ではなく、目の前まで来ています。今回ご紹介した空輸特化型ライセンス制度は、その未来を具現化するための重要な一歩です。私たち編集部も、この分野の急速な発展に驚きと期待を感じています。みなさんの住む地域でも、数年後にはドローンが日用品や医薬品を運ぶ光景が当たり前になっているかもしれません。テクノロジーの進化は、地方の過疎化や物流業界の人手不足といった社会課題の解決策となり得ます。この新しい産業の扉は、技術者だけでなく、物流やサービス業に携わる多くの方々に開かれています。変化の最前線を、ぜひ一緒に見守っていきましょう。
























