NEC×カンボジア地雷対策センター、AIで地雷埋設エリアを正確に予測|2030年の完全除去を加速

[更新]2025年11月4日08:32

NEC×カンボジア地雷対策センター、AIで地雷埋設エリアを正確に予測|2030年の完全除去を加速 - innovaTopia - (イノベトピア)

NECとカンボジア地雷対策センター(CMAC)は、JICAの協力のもと、AIを活用してカンボジアの紛争地に残存する地雷埋設エリアを予測する実証を行いました。

実証の結果、実際に埋設されていた位置との合致率が90%を超える高精度な予測を実現しました。本取り組みは、ジュネーブ人道的地雷除去国際センター(GICHD)主催の「The GICHD Innovation Award 2025」の「Improving the accuracy of estimating explosive ordinance hazardous areas」分野において1位を獲得し、2025年10月28日にルクセンブルクで実施された表彰式で受賞しました。

今回の実証は、カンボジアの地雷原のうち約100万平方メートルを対象とし、CMACが保有する既に発見された地雷埋設位置の情報や住民からの提供情報、河川・山岳地帯や工場・重要建物の位置などのオープンデータをもとに、NECのAIで有効な情報の選択と分析を行いました。カンボジア政府は、1997年に署名したオタワ条約に基づき、2030年までにカンボジア国内における地雷除去完了を目標に掲げています。

From: 文献リンクAIを活用しカンボジアの紛争地に残存する地雷埋設エリアの予測に成功

【編集部解説】

テクノロジーが人道的な課題をどのように解決していくのかを考えるとき、NECとカンボジア地雷対策センター(CMAC)による今回のプロジェクトは、非常に示唆に富んだ事例といえます。AIが90%超の精度で地雷埋設エリアを予測するというこの成果は、単なる技術的な進歩に留まりません。

地雷問題の深刻さを改めて認識することが重要です。世界で推定約1億人が地雷の脅威にさらされており、90分に1人が命を奪われている現状があります。カンボジアでは、1970年代から1990年代にかけての内戦により、各地に地雷が埋設されたままになっており、30年以上経過した現在でも農地や住宅地の利用を阻害しています。2030年までにカンボジア国内の地雷除去を完了させるという政府目標の達成には、従来の人海戦術では間に合わないという背景があります。

AIがもたらす効率化の意味は、単に作業時間の短縮ではありません。地雷除去は極めて危険な作業です。作業員の身を置く危険をできるだけ減らしながら、限られたリソースで最大の効果を得ることができるようになります。従来は膨大かつ未整理のデータから、人手で地雷が埋設されている可能性のあるエリアを特定していました。NECのAIは、CMACが保有する既発見地雷の位置情報、住民からの提供情報、河川・山岳地帯や建物の位置などのオープンデータを組み合わせ、有効な情報を自動選別・分析することで、精度の高い予測を実現させました。

このアプローチは、「データがあっても活用しきれていない」という多くの開発途上国が直面する課題に対する一つの解法を示しています。既存データの有効活用とAIの組み合わせにより、新たなインフラ投資なしに既存リソースから価値を引き出すことが可能であることの証明です。

GICHD(ジュネーブ人道的地雷除去国際センター)による「The GICHD Innovation Award 2025」での第1位獲得という結果は、国際的な地雷対策コミュニティからの高い評価を意味します。これはNECの技術が単に日本国内に留まるのではなく、他の地雷被害国への展開可能性を示唆しています。

一方で、潜在的なリスクも検討する必要があります。AIモデルの学習データはカンボジア固有の環境や紛争履歴に基づいています。他国への適用には、地理的条件、気候、過去の戦闘パターンの違いに対応したカスタマイズが必要になるでしょう。また、予測精度が90%を超えるとはいえ、完全ではありません。AIの推奨エリアから漏れた地雷の存在リスクをどう管理するかは、今後の実装運用で重要な課題となります。

こうした課題を乗り越えることができれば、本技術は地雷被害国の復興と経済開発を大きく加速させる可能性を持っています。また、AIを活用した人道的課題の解決というアプローチは、防災、感染症対策、難民支援といった他の人道的課題への応用可能性も示唆しており、テクノロジーが人間の進化にいかに貢献できるかの具体例として注視する価値があります。

【用語解説】

CMAC(カンボジア地雷対策センター)
カンボジアにおける地雷除去活動を担う公的機関。プノンペン所在で、長官はヘン・ラタナ。カンボジア国内の地雷除去事業の中核を担っています。

JICA(国際協力機構)
日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う独立行政法人。開発途上国への技術協力、有償資金協力、無償資金協力などを実施しています。

オタワ条約(対人地雷全面禁止条約)
1997年に採択された国際条約。対人地雷の製造、備蓄、移譲及び使用の禁止と廃棄を規定しています。カンボジアはこの条約に1997年に署名しました。

GICHD(ジュネーブ人道的地雷除去国際センター)
スイス・ジュネーブに所在する国際機関。地雷対策に関わる新技術の研究開発支援や評価、人道的地雷除去の国際的な調整を行っています。長官はトビアス・プリヴィテッリ。

【参考リンク】

日本電気株式会社(NEC)公式サイト(外部)
日本を代表するICT企業。AI、クラウド、セキュリティなど幅広い技術ソリューションを提供。

GICHD公式サイト(外部)
地雷対策における国際的中核機関。技術評価、人材育成、国際調整を実施。

JICA公式サイト(外部)
日本の政府開発援助機関。途上国との共同で、貧困削減と技術移転に取り組み。

【参考記事】

NEC、AIを活用し紛争地に残された地雷埋設エリアを予測(外部)
国内テック系メディアでの報道。プロジェクト概要と技術アプローチを日本語で解説。

AIでカンボジアの地雷埋設エリアを予測、除去作業の効率が向上へ(外部)
国内テックメディアでの報道。AIによる効率化の実務的インパクトに焦点。

NEC×カンボジア地雷対策センター、AI活用でカンボジアの紛争地に残存する地雷の予測(外部)
国内テック情報サイトでの詳細報道。技術解説と社会的意義を記載。

【編集部後記】

AI技術と人道的課題の接点について、みなさんはどう考えていますか。地雷除去という現場では、テクノロジーが確実に人命を守り、地域社会の復興を加速させています。

一方で、こうした技術が本当に公平に世界に広がっていくのか、あるいはどのような課題があるのかといった点も気になるところです。テクノロジーが「人間の進化」につながるためには、何が必要なのか。このプロジェクトから、そのヒントを探ってみませんか。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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