クボタ×パナソニックHD、土壌微生物制御で化学肥料削減へ

[更新]2025年11月4日08:39

クボタ×パナソニックHD、土壌微生物制御で化学肥料削減へ - innovaTopia - (イノベトピア)

東京大学大学院農学生命科学研究科、株式会社クボタ、パナソニック ホールディングス株式会社は、2025年10月31日、土壌微生物機能制御・利用学に関する共同研究を開始すると発表した。

本研究は東京大学が2025年4月1日に微生物科学イノベーション連携研究機構(CRIIM)内に設立した「土壌微生物機能制御・利用学社会連携研究部門」において実施される。

クボタは水田における窒素・炭素変換機能の制御により水稲生産における窒素肥料低減とメタン削減を目指す。

パナソニックHDはほ場内における野菜生育差異の原因となる土壌微生物群の生態系機能の解明と、生育向上のための制御法開発に取り組む。

両社は化学肥料製造・運搬に伴う化石エネルギー消費、窒素肥料施用による環境汚染、農地からの温室効果ガス排出といった現代農業の環境課題を、土壌微生物群の機能制御・利用により解決することを目指している。

クボタはGMB2030ビジョンのもと、東京大学と2021年に産学協創協定を締結し、パナソニックHDは2024年に策定した「技術未来ビジョン」に基づき、資源価値最大化を掲げて本研究に参加している。

From: 文献リンク持続的社会の実現を目指し、土壌微生物機能制御・利用学に関する研究を開始

【編集部解説】

クボタとパナソニックHDが東京大学と進める土壌微生物研究は、現代農業が直面する根本的な課題に対する革新的なアプローチです。化学肥料への依存構造を微生物制御という「見えない資源」の活用で打破しようとする試みであり、単なる環境対策ではなく、農業生産そのもののパラダイムシフトを意味しています。

土壌微生物の機能を理解し制御することで何が実現するのか。クボタが取り組む水田での窒素・炭素変換制御は、化学肥料の投入量を削減しながら収量維持を目指すものです。同時にメタン削減に注力する点は重要で、水田は世界の温室効果ガス排出源としても認識されており、この技術が確立すれば農業全体のカーボンフットプリント低減に直結します。

パナソニックHDの野菜栽培での微生物群制御は、より実践的な課題解決に向いています。ほ場内の生育差異を微生物レベルで解明することで、従来は経験値に頼っていた農業管理を科学的基盤へ移行させるという意味が大きいのです。これは精密農業の新たなフロンティアとも言えます。

注目すべきは、両企業が2021年および2024年に示した長期ビジョン(GMB2030、技術未来ビジョン)が、この研究開始の背景にあることです。社会課題解決という文脈の中で、土壌という「これまで十分に活用されてこなかった資源」に対する企業の向き合い方が変わってきた証左でもあります。

ポジティブな側面は明確です。化学肥料削減による環境負荷低減、温室効果ガス削減、持続可能な農業の実現といった複数の目標を同時達成する可能性を秘めています。一方、潜在的なリスクとしては、微生物制御技術が確立されたとしても、実装には農業現場での実装コストや知識障壁といった課題があります。また、土壌環境の多様性と地域性を考えると、一律的な制御手法が有効かどうかも不確定要素です。

規制面では、この研究成果が農業資材や肥料の認可基準に影響を与える可能性があります。微生物製剤やバイオスティミュラントといった新カテゴリーの農業投入材が、より科学的根拠を持つことになるからです。

長期的には、デジタル技術と組み合わさることで、スマート農業の次のステージへ進む可能性があります。土壌微生物の状態をセンシング技術でリアルタイム把握し、AIが最適な制御を指示するといった統合的な農業システムの実現も視野に入ってくるでしょう。

【用語解説】

土壌微生物
土壌中に生息する細菌、放線菌、真菌などの微生物の総称。有機物の分解、養分の生成、病害抑制など、農業において重要な生態系機能を担う。

窒素・炭素変換機能
土壌微生物が有機物に含まれる窒素と炭素を、植物が吸収可能な形に変換するプロセス。窒素肥料削減とメタン排出削減の鍵となる。

メタン削減
水田から発生する温室効果ガスであるメタンの排出量を減らすこと。土壌微生物の活動制御によって実現を目指す。

微生物科学イノベーション連携研究機構(CRIIM)
東京大学内で設置された研究機構で、微生物科学に関する産学協創を推進する組織。本研究の実施母体となっている。

生態系機能
土壌微生物群が物質変換や生物間相互作用を通じて発揮する、生態系全体への作用。これを解明・制御することが研究の目標。

精密農業
データやテクノロジーを活用して、農作業を最適化する農業手法。土壌微生物の制御もこの範疇に含まれていく可能性がある。

【参考リンク】

株式会社クボタ(外部)
食料・水・環境分野における総合ソリューション企業。GMB2030ビジョンのもと、持続可能な社会実現に向けた事業展開を推進している。

東京大学大学院農学生命科学研究科(外部)
農学・生命科学に関する教育研究の中核機関。土壌微生物機能制御研究部門を設置し、本研究を推進している。

土壌微生物機能制御・利用学社会連携研究部門(外部)
東京大学CRIIM内に2025年4月1日付で設立。クボタとパナソニックHDの共同研究を実施している。

クボタ GMB2030(外部)
2021年策定の長期ビジョン。豊かな社会と自然の循環実現を目指す経営方針を示している。

パナソニック技術未来ビジョン(外部)
2024年策定の研究開発方針。資源価値最大化と循環型社会構築が中核テーマとなっている。

【参考記事】

パナソニック公式ニュースリリース:持続的社会の実現を目指し、土壌微生物機能制御・利用学に関する研究を開始(外部)
パナソニックHDの公式発表。本研究についての詳細と技術未来ビジョンとの関連性を掲載。

持続可能な社会実現へ 東大とクボタ、パナソニックHDが土壌研究開始(外部)
本研究の背景と意義を分析した記事。現代農業の環境課題解決に向けた取り組みを報道。

国際農業研究センター:作物と微生物の多様な共生が切り拓く持続的な農業の未来(外部)
土壌微生物と作物の共生メカニズムについて、最新研究による知見をまとめた資料。

クボタのSDGs経営戦略【地べたのGAFAへ】~GMB2030実現に向けた戦略(外部)
クボタの長期ビジョンとSDGs達成への取り組みを解説。GMB2030の実現方針と背景を掲載。

【編集部後記】

農業は「見えない仕事」かもしれません。私たちが毎日食べている野菜や米は、当たり前のようにあります。

でも、その当たり前は、土の中で起きていることに支えられています。この研究は、その「見えない部分」を見える化し、コントロールしようとする試みです。これが成功したとき、農業はどう変わるのか。私たちの食卓はどう豊かになるのか。一緒に未来を考えてみませんか。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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