高機能素材Week-幕張メッセにて11/12-11/14開催:高機能素材とは単なる「材料」ではない

[更新]2025年11月5日17:31

 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年11月12日から14日まで、幕張メッセで開催される「高機能素材Week」は、日本の材料技術の最前線が一堂に会する展示会です。この展示会には、化学メーカーから材料加工企業、さらには研究機関まで、日本の素材産業を支える多様なプレイヤーが集結します。

https://www.material-expo.jp/tokyo/ja-jp.html#(RXJapan特設HP)

注目すべきは、この展示会が単なるビジネスマッチングの場にとどまらない点です。半導体材料、バイオマテリアル、エネルギー貯蔵素材など、次世代技術の根幹を成す高機能素材の開発動向を直接体感できる貴重な場となっています。特に化学系・材料系に興味のあるみなさんにとって、教科書や論文では得られない実用化のリアルな知見に触れられる絶好の機会ではないでしょうか。

一昨年の高機能素材week公式動画。

自らの研究を産業応用の文脈で捉え直し、企業の技術者と直接対話することで、研究の方向性に新たな視座を得られるはずです。また、各社が抱える技術課題を知ることで、あなた自身の研究テーマやプロダクト開発に活かせるヒントが見つかるかもしれません。未来の材料革新を担う人材として、この展示会への参加は自己投資以上の価値があると言えると思います。

素材の面白さ?

私たちの生活って、実は素材の進化と一緒に変わってきたんです。例えば、19世紀末に鉄とコンクリートの熱膨張率がほぼ一致することに気づいた技術者がいて、鉄筋コンクリートが生まれました。これによって高層ビルや大きな橋が作れるようになり、街の風景がガラリと変わったんですね。20世紀に入ると、軽くて熱に強いセラミック材料のおかげでジェットエンジンが実現し、私たちは空を自由に飛べるようになりました。そして、過酷な環境にも耐えられるエンジニアリングプラスチックが登場したことで、人工衛星や宇宙探査機まで作れるようになったわけです。

こうして見てみると、私たちの暮らし方って、ずっと材料の限界と可能性に左右されてきたんだなあ…..って気分になりませんか?ということは、新しい高機能素材を開発するって、単に技術を進歩させるだけじゃなくて、私たち人類の生き方そのものを広げていくことなんです。今回の展示会で出会える最先端の素材たちも、きっとまだ私たちが想像もしていない未来の扉を開いてくれるはず。だからこそ、ぜひ足を運んでみてほしいんです。

そもそも高機能素材って?

高機能素材とは?

既存の製品にはない優れた機能・性能を備えた、紙・繊維・プラスチック・ガラス・金属などの産業用素材。(コトバンクより(出典:小学館)

例えば、軽量かつ強靭性を兼ね備えた繊維、過酷な環境下でも劣化しない耐薬性の高いプラスチック、極限状態でも性能を発揮する特殊セラミックなどがこれに当たります。近年は、脱炭素社会に向けたサステナブルマテリアルの開発競争が激化しているほか、半導体や通信分野での技術革新を背景に光機能材料への注目度が急上昇しており、今年の展示への期待値は例年以上に高まっています。

この記事では、会場に展示される数多くの先端材料技術の中から、筆者が特に注目する3つのトピックスに焦点を当て、最後に足を運ぶ価値のあるお勧めの展示ブースもご紹介します。

脱炭素素材

近年、脱炭素技術は気候変動対策において注目されています。2025年のノーベル化学賞が金属有機構造体(MOF)の研究に授与されたことで、この分野への関心が高まっています。MOFは多孔質構造により気体分子を効率的に捕捉できる特性を持ち、二酸化炭素の分離・貯蔵技術での応用が期待されています。

脱炭素へのアプローチは、二酸化炭素の排出削減だけでなく、より幅広い方向に広がっています。その一つが「ネガティブエミッション技術」です。これは大気中にすでに存在する二酸化炭素を吸着・除去することで、地球上の二酸化炭素総量を減少させる技術です。直接空気回収(DAC)技術やバイオエネルギーと炭素回収・貯留(BECCS)など、さまざまな手法が研究されています。

また、回収した二酸化炭素を化学原料として活用する「カーボンリサイクル」の研究も進んでいます。二酸化炭素をプラスチックや燃料、建材などに変換する技術開発が行われており、炭素を循環させる経済システムの構築に向けた取り組みが各地で始まっています。

高機能セラミックス

セラミックスとは、陶磁器やガラスのような非金属無機固体材料の総称のことです。一般的には窯業製品の総称として、無機物を加熱して焼結させたものを指します。

例えば、近年注目されているペロブスカイト太陽電池も、ペロブスカイト粉末というセラミックスの一種です。セラミックスには、アルミナやジルコニアのような生活に不可欠な基礎素材から、エレクトロニクスや自動車などに使われる、精密なプロセスで作られて特定の機能を示す高度な素材まで、幅広い種類が存在します。

私たちの生活は、プラスチックを除けば、多くの場面でセラミックスに囲まれています。自動車のエンジン部品や排気系統、スマートフォンの基板に使われる電子部品、建物の外壁タイルや断熱材、そして日常で使う食器や衛生陶器まで、用途は多岐にわたります。

セラミックス材料の大きな特徴の一つは、製造過程で形を自由に変えられることです。粉末状態から成形し、焼結することで複雑な形状を実現できるため、求められる機能や用途に応じて最適な形に仕上げることができます。この加工性の高さが、セラミックスをさまざまな分野で広く使われる材料にしています。

材料開発のDX化

近年、画像認識や機械学習によるパターン認識技術の進化により、材料科学の研究手法が大きく変わってきています。例えば、スペクトルの解析や、TEMやSEMといった電子顕微鏡で得られる画像を機械学習で分析できるようになり、これまで研究者が目視で行っていた作業の効率化や、人間では見落としがちなパターンの発見が可能になっています。

また、量子アニーリングの台頭や計算化学の手法の進化により、より複雑な材料を設計できるようになってきました。従来は実験と試行錯誤を繰り返す必要があった材料開発において、コンピュータ上でのシミュレーションや最適化計算が活用されることで、新しい材料の可能性が広がっています。

こうした変化は学会の発表にも表れており、この10年間で「機械学習を用いた〜」といったタイトルの研究発表を頻繁に見かけるようになりました。材料科学の分野においても、AIやコンピュータ技術の導入が研究の標準的な手法として定着しつつあります。

筆者注目の出展社3選

株式会社日本レーザー

日本レーザーのブースでは、Photonics Industries社のピコ秒レーザーとナノ秒レーザーが展示される予定です。「光を短い時間で一瞬だけ出せる技術」と言われても、正直ピンとこないかもしれませんね。でも実は、これって材料分析の世界ではとても重要な役割を果たしているんです。

新しい素材に期待通りの機能が発現しているかを確認するとき、私たちは化学的な分析手法に頼ります。例えば、プラスチックなら近赤外分光法、多くの試料ではラマン分光法、結晶性の材料ならX線回折(XRD)といった具合に。気づけば、素材の分析って本当に光に頼りきっているんですよね。

レーザーの特徴は、その指向性とコヒーレント(位相が揃った)光にあります。この性質のおかげで、より詳細な時間スケールでの分析が可能になるんです。つまり、素材の中で起きている一瞬の変化や反応を捉えられるようになる。これは素材化学の基礎の基礎にある、非常に重要な技術です。普段は論文の「分析手法」の欄でさらっと読み流してしまうような機器かもしれませんが、ぜひ実物を見てほしいと個人的には感じています。


BLUE TAG株式会社

BLUETAG社のブースでは、粒子AI画像解析ソフトウェア「AIPAS」が展示されます。現代の材料分析において、TEMやSEMで撮影した電子顕微鏡画像は欠かせない存在ですよね。表面の状態からナノスケールの構造まで、あらゆる場面で使われていますし、スペクトルデータと違って「像」として見えるので、決定的な証拠になり得るんです。

ただ、正直なところ、私たちって「目で見て確認する」だけで止まってしまっていませんか?本当はもっと深く解析できるはずなのに、時間がなくて手が回らない…そんな経験、きっとあるはずです。(自分の携わった研究でもかなり便利な道具があるとそれに頼って頭を使わなくなる、、、という経験で痛い思いをした記憶があります。)

ここでAIの出番です。AIPASは電子顕微鏡画像を詳細に解析して、私たちが見落としていたかもしれない情報を引き出してくれます。人間の目と経験だけでは捉えきれなかった粒子の分布や形状の特徴、統計的な傾向まで、AIが画像から「世界の実像」を結んでくれる。これって、かなり画期的なことだと思いませんか?限られた時間の中で、より深い洞察を得られる可能性が広がるわけですから。研究の効率化という観点からも、ぜひ注目してほしいツールです。


ノリタケ株式会社

ノリタケの磁器、ご家庭に一つはあるのではないでしょうか。私の祖母は陶磁器の蒐集家で、私が10年以上愛用していたマグカップもノリタケ製でした。百貨店に行けば必ずノリタケのコーナーがあって、たまにかわいいデザインを見つけると思わず買ってしまったり。そんな身近な存在ですよね。

でも、ちょっと考えてみてください。セラミックスって、原義的には窯業的に作られた焼成物のこと。つまり、ノリタケが高機能素材の展示会に出展するのは、実はとても理にかなっているんです。食器として私たちの食卓を彩ってきたあの繊細な磁器も、れっきとしたセラミックス技術の結晶なわけですから。

普段は製品としてしか目にしない食器が、どんな技術で作られているのか。その製造プロセスを展示会で見られるというのは、かなり貴重な機会だと思います。材料工学を学ぶ者として、日常に溶け込んでいる技術の奥深さに触れられるチャンスです。私は、ぜひ足を運びたいですね。

投稿者アバター
野村貴之
大学院を修了してからも細々と研究をさせていただいております。理学が専攻ですが、哲学や西洋美術が好きです。日本量子コンピューティング協会にて量子エンジニア認定試験の解説記事の執筆とかしています。寄稿や出版のお問い合わせはinnovaTopiaのお問い合わせフォームからお願いします(大歓迎です)。

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