日本の自動運転は”実証から実装”の新局面へ。NTTモビリティ設立が果たす役割

[更新]2025年11月7日09:28

NTTモビリティ設立で自動運転が転機へ、遠隔監視システムが全国展開を牽引 - innovaTopia - (イノベトピア)

NTT株式会社は、安心・安全でサステナブルな自動運転の仕組み確立と自動運転社会の実現をめざし、NTTモビリティ株式会社を2025年12月15日に設立する。

改正道路交通法施行により2023年から特定条件下での自動運転レベル4の公道走行が可能となり、政府目標では2025年度に約50か所、2027年度までに100か所以上の地域での自動運転移動サービス実現が掲げられている。

NTTグループは高速・高信頼の通信ネットワークサービスと全国各地での地域密着のリレーションを生かし、多数の実証に取り組んできた。新会社は資本金14.3億円、NTT100%出資で、東京都港区に所在する。

NTTモビリティは自動運転サービスの導入・運用を包括的に支援するワンストップサービスを提供し、自動運転車両の提供・管理、導入・運用支援、遠隔監視システム提供を主な事業内容とする。

2027年度までに遠隔監視システムやインフラ協調システムなどを活かした自動運転サービス提供をめざし、地域公共交通の乗務員業務のAI化にも取り組む。

 - innovaTopia - (イノベトピア)
出所:公式

From: 文献リンクNTTモビリティ株式会社の設立について~自動運転事業の推進による自動運転社会の実現をめざす~

【編集部解説】

NTTが自動運転専業会社「NTTモビリティ」を立ち上げることは、日本の移動社会がいよいよ実装段階へ入ることを象徴しています。2023年の改正道路交通法施行から2年が経った今、レベル4自動運転は福井県や茨城県で既に営業運行を開始していますが、これらの成功をどのように全国へ横展開するかが大きな課題でした。NTTグループが35件以上の実証実験から得た知見を一つの会社に集約することで、その課題解決に動き出したわけです。

ドライバー不足は単なる交通業界の課題ではなく、国家的な急務です。高齢化により、運転手確保が深刻化する中で、政府は2025年度に50か所、2027年度までに100か所以上での自動運転サービス実現を目標に掲げています。NTTモビリティはこの政策目標の実現を支える核となる組織になる可能性があります。

同社の強みは「遠隔監視型」自動運転システムにあります。複数の異なる自動運転プラットフォームを一つの遠隔監視システムで統合運用できる仕組みを目指しており、これは業界全体の標準化に貢献する戦略でもあります。トラックの隊列走行実証も新東名高速で進行中です。物流業界のドライバー不足解決へも直結します。

一方、潜在的なリスクも考慮が必要です。遠隔監視システムが複数の車両を操作するため、通信ネットワークの信頼性が最優先課題となります。NTTドコモビジネスとNTTが10月に発表した『通信安定化ソリューション』は、この課題への対抗策です。マルチパス接続と無線品質の予測制御技術により、実証環境下で無線区間の通信品質の可用性(一定の通信品質を確保できる時間の割合)が95%から99%以上に向上することを確認しており、映像途切れのリスク抑制が実現されています。

規制面でも転機が訪れています。レベル4自動運転は従来の「ドライバーあり」を前提とした法体系の外にあり、今後の法制度整備と密接に連動します。NTTモビリティの成功は、この規制整備の進展にも影響を与えるでしょう。

自動運転専業会社としての事業規模拡大を目指し、政府目標の2027年度100か所以上という市場規模に向けて、段階的にビジネス展開を加速させる戦略が示されています。地域密着型のオペレーションサポートやAI活用による乗務員業務の効率化など、NTTグループの総合力が発揮される領域が広がっています。

【用語解説】

自動運転レベル4
特定の走行環境条件(走行場所、天候など)の限定領域において、緊急時を含めてシステムが全ての運転操作を自動的に行う段階である。ドライバーは運転操作から完全に解放されるが、条件外での走行には対応しない。日本では2023年の改正道路交通法施行により、特定条件下での公道走行が可能になった。

遠隔監視型自動運転
オペレーター(遠隔監視室の操作者)が複数の自動運転車両の走行状況をカメラ映像やセンサー情報でリアルタイムに監視し、システムが対応できない異常事態に対して遠隔から車両を操作する方式である。通信遅延は0.3秒以内が目安とされる。

マルチパス接続
複数の通信回線を同時に使用して通信の冗長性を確保する技術である。一つの回線の通信品質が低下した場合、別の回線に自動的に切り替えることで、映像途切れのリスクを軽減し、遠隔監視の信頼性を高める。

ODD(運行設計領域)
自動運転システムが安全に作動すると設計された限定領域を指す。走行場所、天候、時間帯、走行速度など、複数の条件で定義される。この領域外での走行は遠隔操作またはドライバーによる手動運転が必要となる。

ドライバーレス走行
乗員として運転を担当する人物が車内に乗車していない状態での走行である。遠隔監視型自動運転では、オペレーターが遠隔地から複数の無人車両を監視・操作する。

【参考リンク】

NTTモビリティ株式会社(外部)
NTT傘下の自動運転専業会社。自動運転車両の提供・管理、導入・運用支援、遠隔監視システムを展開する。

NTT株式会社 企業情報(外部)
日本を代表する通信・情報技術企業。自動運転社会の実装基盤を提供する。

NTTドコモビジネス スマートモビリティソリューション(外部)
自動運転向けの通信安定化ソリューション。遠隔監視の信頼性を高める。

国土交通省「国土交通白書2024」(外部)
自動運転レベル4の普及目標2025年度50か所、2027年度100か所以上が明記。

【参考記事】

自動運転向け通信安定化ソリューション提供開始(外部)
NTTドコモビジネスとNTTが2025年10月発表。遠隔監視の遅延が95%から99%に改善。

レベル4自動運転トラックの社会実装に向けた実証開始(外部)
いすゞ自動車が2025年10月発表。新東名高速でレベル4自動運転トラック隊列走行。

自動運転「レベル4」、本格普及は2027年度目標(外部)
日本の自動運転政策全体像。2025年度50か所、2027年度本格普及を目指す方針。

NTT、自動運転で新会社 グループの知見を集約(外部)
日経新聞2025年11月4日。NTTモビリティ設立の背景と戦略を詳細に解説。

通信予測制御技術を活用した車両の遠隔監視ソリューション(外部)
遠隔監視型自動運転の通信技術。複数台監視の要件と課題を技術的に解説。

自動運転移動サービス社会実装・事業化の手引き(外部)
国土交通省公開。レベル4自動運転の技術基準、安全基準、事業化プロセスを体系化。

【編集部後記】

2025年、日本の自動運転は「未来の技術」から「社会を支えるインフラ」へと、その役割を大きく変えようとしています。

NTTモビリティという強力なプラットフォーマーの登場は、その象徴です。特定の車両や技術に依存せず、多様なサービスを統合・支援する存在は、全国展開を阻んでいた標準化の壁を打ち破る鍵となります。私たちの移動の自由を、そして物流の未来を、この巨大なプラットフォームがどう支えていくのか。その戦略から目が離せません。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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