スマホが直接、衛星とつながる時代へ。次世代5G規格「Rel-19」による衛星通信に世界初成功

[更新]2025年11月7日09:52

世界初:シャープ・ESA・MediaTek、3GPP Rel-19準拠5G NTN接続を実現 - innovaTopia - (イノベトピア)

欧州宇宙機関(ESA)、MediaTek、Eutelsat、Airbus Defence and Space、シャープ、工業技術研究院(ITRI)、ローデ・シュワルツ(R&S)の7者は、EutelsatのOneWeb低軌道衛星を用いた世界初の3GPP Rel-19準拠5G-Advanced非地上ネットワーク(NTN)接続の実証試験に成功した。

試験はオランダのESA欧州宇宙研究技術センター(ESTEC)で実施され、MediaTekのNR-NTNチップセット、ITRIのNR-NTN gNB、シャープが開発したフラットパネルアンテナ搭載のNTNユーザー端末を使用した。3GPP Release 19仕様に基づき、Kuバンド50MHzチャネル帯域幅での条件付きハンドオーバー(CHO)に成功した。Airbus製OneWeb衛星は透過型トランスポンダを搭載し、KuバンドサービスリンクとKaバンドフィーダーリンクを備えている。

本試験はESAのSpace for 5G/6G & Sustainable Connectivityプログラムの支援により実現された。

From: 文献リンクESA, MediaTek, Eutelsat, Airbus, Sharp, ITRI, and R&S Announce World’s First Rel-19 5G-Advanced NR-NTN Connection over OneWeb LEO Satellites

【編集部解説】

今回の実証実験が示す意義は、技術的な革新性だけでなく、通信インフラの構造的変革を示唆している点にあります。

最大の技術的ブレークスルーは「条件付きハンドオーバー」の成功です。低軌道衛星は時速約2万7,000kmで地球を周回するため、通信端末から見ると衛星は数分で視界から消えていきます。従来の衛星通信では、この衛星の切り替え時に通信が途切れることが課題でした。条件付きハンドオーバーは、事前にハンドオーバー指令を受け取り、電波状態などの条件が満たされた瞬間に自動で実行する仕組みで、遅延や中断を大幅に削減します。

従来の5G NTNは3GPP Release 17/18で定義されていましたが、今回のRelease 19では50MHzという広帯域幅のKuバンド対応が実現しました。これは従来規格の5、10、15、20MHz帯域幅と比べて大幅な拡張であり、より高速なデータ通信が可能になります。

この技術が実用化されることが期待されると、スマートフォンやIoT機器が地上の基地局と衛星の両方にシームレスに接続できるようになることが期待されます。山間部、海上、災害時など、地上ネットワークが届かない場所でも、同じ端末で通信を継続できる世界が現実味を帯びてきました。

また、3GPP標準への準拠により、独自規格で分断されていた衛星通信市場が、モバイル業界全体のエコシステムと統合される可能性が高まります。スケールメリットによるコスト低減も期待され、衛星通信が特殊な用途から日常的なインフラへと変化する可能性があります。

シャープが開発したフラットパネルアンテナも注目に値します。従来の衛星通信用パラボラアンテナと異なり、平面型のアンテナは車載や建物への設置が容易で、ユーザー端末の小型化と普及化に大きく貢献する可能性を持つ技術です。

一方で、衛星と地上ネットワークの統合には、周波数調整や規制面での課題が存在しています。また、低軌道衛星コンステレーションの増加は宇宙デブリのリスクも伴うため、持続可能な運用体制の構築が求められます。

【用語解説】

3GPP Release 19(Rel-19)
3GPPが策定する5G技術仕様の最新版。3GPPは移動体通信の国際標準化プロジェクトであり、Release 19では非地上ネットワーク(NTN)の高度化、特にKuバンド対応や広帯域化が盛り込まれている。

非地上ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)
衛星や高高度プラットフォーム(HAPS)など、地上の基地局以外を用いた通信ネットワークの総称。地上ネットワーク(TN)と統合することで、山間部や海上など従来カバーできなかった地域への通信提供が可能になる。

低軌道衛星(LEO:Low Earth Orbit)
高度約200〜2,000kmの軌道を周回する人工衛星。静止衛星(高度約36,000km)と比べて遅延が小さく、高速通信に適している。地球を高速で周回するため、複数の衛星を配置したコンステレーション(星座配置)で運用される。

条件付きハンドオーバー(CHO:Conditional Handover)
通信中に接続先を切り替える際、事前に条件を設定し、その条件が満たされた瞬間に自動実行する仕組み。低軌道衛星は高速移動するため、スムーズなハンドオーバーが通信品質維持の鍵となる。

Kuバンド
周波数帯域12〜18GHz帯の電波。衛星通信で広く使われており、Ka、Cバンドなどと組み合わせて多様なサービスに対応する。

gNB(next Generation NodeB)
5Gネットワークにおける基地局装置。NTN対応gNBは衛星通信に特化した機能を持つ。

フラットパネルアンテナ
従来のパラボラアンテナと異なり、平面型の電子制御アンテナ。ビームを電子的に制御できるため、衛星の動きに追従でき、小型化や車載化が容易になる。

【参考リンク】

3GPP(Third Generation Partnership Project)(外部)
移動体通信の国際標準化プロジェクト。5G、6G仕様を策定し、世界中のモバイルシステムの基盤。

Eutelsat OneWeb(外部)
高度1,200kmに600機以上衛星を配置する低軌道衛星通信サービス。全世界への高速・低遅延通信を提供。

ESA Space for 5G/6G Programme(外部)
衛星と地上ネットワーク融合による5G/6G技術開発。欧州デジタル変革と産業・社会の接続性向上を推進。

MediaTek(外部)
スマートフォン向けチップセットで世界的シェアを持つ台湾半導体メーカー。5G NTN技術開発で先行。

ITRI(工業技術研究院)(外部)
NR-NTN gNB技術開発を担当する台湾公的研究機関。商用ソリューション「Ameba RAN」推進中。

Rohde & Schwarz(外部)
NTN通信チャネル特性評価と実験室ハンドオーバー検証に計測機器を提供したドイツ計測器メーカー。

【参考記事】

ESA, Eutelsat, Airbus, MediaTek and partners successfully Test 5G-Advanced NR-NTN(外部)
ESA公式発表による実証実験詳細と条件付きハンドオーバー技術の成功解説。

Eutelsat’s OneWeb makes 5G-Advanced NTN test call(外部)
低軌道衛星の高速移動中のハンドオーバーメカニズムとRelease 19の帯域幅拡張を技術的に解説。

Eutelsat OneWeb, MediaTek conduct first 5G-Advanced NTN tech trial(外部)
3GPP標準準拠によるスマートフォン・自動車・IoT市場展開と商用化コスト削減への道を強調。

5G Non-Terrestrial Networks in 3GPP Rel-19(外部)
3GPP Release 19のNTN技術進化とペイロードアーキテクチャ、地上・衛星統合の将来像解説。

【編集部後記】

スマートフォンを持って山や海へ出かけたとき、圏外に悩まされた経験はありませんか。今回の技術が実用化されれば、同じ端末で地上と衛星をシームレスに切り替え、どこでもつながる世界が訪れることが期待されます。

国内でも衛星通信サービスへの動きは活発化しており、ソフトバンクは2026年内の商用サービス開始を目指すほか、KDDIはスペースX社のスターリンクと、NTTドコモはスカパーJSATと提携し、それぞれ実証実験を進めています。災害時の通信確保や、過疎地域のデジタル格差解消にもつながるこの技術、皆さんはどんな場面で活用したいと思いますか。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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