古河電気工業と東京大学は、2023年に開設した社会連携講座を通じて共同開発した実証衛星「ふなで」を2026年度中に打ち上げる予定である 。
打ち上げ後は、約1年間にわたり軌道上での実証実験が行われる 。本プロジェクトで古河電工は人工衛星用コンポーネントの軌道実証と信頼性検証、さらに宇宙事業向けの新たな商材開発に取り組む 。

一方、東京大学は将来の高精度フォーメーションフライト衛星の実現に不可欠な基礎データの取得を目指す 。世界の宇宙産業市場が拡大を続ける中、複数の小型衛星を連携させる「小型衛星コンステレーション」の需要が急増しており、迅速な設計と安定した製造技術が競争力の鍵を握る 。
本衛星は、4UサイズのCubeSat衛星2基で構成され、その寸法は打ち上げ時で110mm×123mm×499mmとなっている 。軌道上で分離伸展機構を介して結合・分離するユニークな仕様である 。
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2026年に実証実験衛星「ふなで」打ち上げ
【編集部解説】
小型衛星が今、宇宙ビジネスの主役になろうとしています。古河電工と東京大学が共同開発した実証衛星「ふなで」の打ち上げ計画は、日本がこの急速に成長する領域でどのように競争力を持つかを示す重要なマイルストーンです。
Space Foundationの報告によると、2023年の世界宇宙経済は5,700億ドル(約87兆円)に達しており、従来の大型衛星ではなく小型衛星への投資が急増しています。このトレンドの背景にあるのは、コスト効率と開発期間の短さです。一基あたりの開発・製造費用が大幅に低くなることで、地球観測や通信インフラの構築といったミッションで「複数衛星の運用」が現実的になってきたのです。
古河電工が取り組む技術検証は、ここで特に重要な意味を持ちます。宇宙空間での極限環境—氷点下での動作、真空下での熱管理、放射線への耐性—を克服するコンポーネント開発は、多数の衛星を安定的に供給する体制を作るための前提条件だからです。ヒートパイプモジュール、Sバンド送受信機、高耐久性アルミ電線といった各部品の軌道実証を通じ、量産体制へのフィードバックループが確立されます。
一方、東京大学が目指す「フォーメーションフライト」の基礎運用実証も、長期的には極めて戦略的な意味を持ちます。複数衛星が協調することで、一基の衛星では実現できない観測精度や解像度を達成する技術です。理論段階から軌道上での実証データを取得することで、将来のより複雑なミッション設計が可能になります。
日本の宇宙産業は、国際競争の激化と人材・予算の制約という課題を抱えています。しかし、JAXAの放出機構を利用するなど、官民学が連携するエコシステムの中で必要な技術基盤を段階的に構築していくアプローチが定着しつつあります。本プロジェクトはそうした「共創」の具体例であり、日本が小型衛星ビジネスのエコシステムを形成できるかどうかを試す試金石となるでしょう。
【用語解説】
4U CubeSat(キューブサット)
1U(ユニット)と呼ばれる、およそ10cm四方の基本単位(高さ11.35cm、質量1.33kg以下)を組み合わせた超小型衛星規格。4Uはこれを4基分組み合わせたサイズ感を持つが、形状はミッションにより多様である。
太陽同期軌道
地球の自転と公転の動きに合わせて、常に同じ時刻に同じ地域の真上を通過する軌道。地球観測衛星に最適で、同じ照度条件で継続的に観測できるため、気象変化の検出に有効である。
Sバンド送受信機
マイクロ波通信帯の一種(周波数約2GHz帯)を使用する衛星通信機器。衛星と地上局間の指令・データ送受信に用いられ、高速・大容量通信が可能。
ヒートパイプモジュール
液体と気体の相変化を利用した受動的な熱輸送デバイス。宇宙空間は真空のため空気対流による放熱ができず、衛星内機器の発熱を効率よく放散させるために不可欠な部品。
On-Board Computer(OBC)
衛星に搭載される主要コンピューター。ミッション機器の制御、衛星の姿勢制御、通信管理などを統合的に担当。軌道上でのソフトウェア更新に対応した高い処理能力が求められる。
EFDURAL(エフジュラル)
古河電工が独自開発した高耐久性アルミ合金線。結晶粒を微細に制御することで、純アルミニウムの2倍以上の強度と100倍以上の耐振動性・繰り返し屈曲性を実現。衛星配線に最適な特性を持つ。
小型衛星コンステレーション
複数の小型衛星を軌道上に配置し、互いに連携・協調させて高度なミッションを実行するシステム。地球全域のリアルタイム観測や通信カバレッジの実現が可能。
【参考リンク】
古河電気工業 公式ウェブサイト(外部)
電線・ケーブルから衛星コンポーネントまで、インフラを支える素材・部品メーカー。
古河電工 衛星向けコンポーネント情報(外部)
宇宙・航空分野向けの製品ラインアップと技術仕様を提供。ヒートパイプやOBCなどの詳細情報。
東京大学 工学系研究科(外部)
CubeSatやフォーメーションフライト技術の研究開発を推進する国内トップクラスの研究機関。
JAXA 小型衛星放出機構(J-SSOD)(外部)
国際宇宙ステーション「きぼう」からのCubeSat衛星放出の仕様や搭載基準の公式情報源。
JAXA 高精度衛星編隊飛行技術(外部)
フォーメーションフライト技術の研究開発状況と応用分野の解説。宇宙戦略基金の支援プログラム。
【参考記事】
古河電工、衛星ビジネスへ 実証機26年に打ち上げ(福井新聞)(外部)
古河電工の宇宙事業本格参入戦略と2035年の100億円規模売上を目指す成長計画の詳細。
古河電工と東大、共同開発した人工衛星「ふなで」を2026年に打ち上げ(マイナビ)(外部)
衛星の技術仕様と市場規模54兆円の数値を含む報道。小型衛星需要増加の業界動向。
【宇宙開発】超高精度衛星編隊飛行(フォーメーションフライト)の概要と今後の展望(外部)
フォーメーションフライト技術の基本原理と単一衛星の物理的制約を超える応用可能性。
高精度衛星編隊飛行技術 – 宇宙戦略基金(外部)
フォーメーションフライト技術開発の支援状況と期待される応用分野の公式解説。
【編集部後記】
衛星技術が身近になりつつある今、私たちが何気なく使っているスマートフォンのGPS、天気予報のデータ、さらには防災情報まで、実は複数の小型衛星が協力して支えています。
ふなでの打ち上げは、そうした「見えない宇宙インフラ」が日本企業によって設計・製造される段階へ向かう、大切なステップなのです。もし、こうした衛星ビジネスの動きや、宇宙技術が暮らしを変える可能性に興味をお持ちでしたら、ぜひこれからの展開に注目してみてください。
























