スクウェア・エニックス、生成AIでQA工程の70%自動化を表明―東大松尾研との共同研究で2027年実装目指す

[更新]2025年11月7日18:31

 - innovaTopia - (イノベトピア)

スクウェア・エニックスが3カ年事業計画「リブート」の進捗を報告した。計画の柱は、マルチプラットフォーム戦略の強化、主要IPを中心としたモバイルゲーム開発、そしてAI活用の推進である。

マルチプラットフォーム戦略は既に成果を上げており、旧作の売上は31%増加した。モバイルゲーム事業では「量より質」へ転換し、来年には「ドラゴンクエスト」のローグライクゲームなどを投入する。また、AI活用については、松尾研究所と協業し、2027年末までにQAおよびデバッグ作業の70%を自動化するという目標を掲げている。

From: 文献リンクSquare Enix’s multiplatform plan is already working, but it still wants to follow up a Dragon Quest roguelike and Dissidia Final Fantasy with more mobile games based on “major IPs” and “automate 70% of QA” with AI

【編集部解説】

スクウェア・エニックスが発表した中期経営計画の進捗報告は、単なる業績報告にとどまらず、ゲーム業界の未来を占う上で重要な示唆に富んでいます。特に注目すべきは、AIの活用、マルチプラットフォーム戦略、そしてそれに伴う雇用の問題です。

AIによるQA自動化の衝撃

スクウェア・エニックスは、2027年末までにQA(品質保証)とデバッグ作業の70%をAIで自動化するという大胆な目標を掲げました。これは、東京大学の松尾・岩澤研究室との共同研究「生成AIを用いたゲームQA自動化技術の共同開発」に基づくものです。この取り組みは、開発効率を飛躍的に向上させ、競争優位性を確立することを目的としています。

しかし、この発表の直後にアメリカとヨーロッパのオフィスで大規模なレイオフ(人員削減)が報じられたことから、AIによる自動化が雇用の喪失に直結するのではないかという懸念が広がっています。ゲーム業界では2022年以降、すでに4万人以上が職を失っており、AIの導入がこの流れを加速させる可能性があります。一方で、AIはあくまで反復的で退屈な作業を代替するものであり、人間はより創造的な業務に集中できるようになるという見方もあります。AIが人間のテスターのように予期せぬ不具合を発見できるのか、その精度も未知数です。

マルチプラットフォーム戦略の成果と今後の展望

ソニーのPlayStation独占販売からの方針転換であるマルチプラットフォーム戦略は、すでに成果を上げています。XboxやPCなど、より多くのプラットフォームでゲームを展開することで、旧作の売上は前年比で31%増加しました。これは、より多くのユーザーに自社のタイトルを届けるという点で明確な成功と言えるでしょう。

今後は、「ファイナルファンタジー」シリーズなどの主要なAAAタイトルも、発売当初から複数のプラットフォームで提供されることが期待されます。これにより、ユーザーは自分の好きな環境でゲームを楽しめるようになります。しかし、これは同時に、プラットフォームホルダーであるソニーとの関係性に変化をもたらす可能性も秘めています。

モバイルゲーム事業の「量より質」への転換

モバイルゲーム事業における「量より質への転換」は、これまで多くのタイトルをリリースしては早期にサービスを終了させてきた同社にとって、大きな方針転換を意味します。今後は、「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」といった強力なIP(知的財産)を活用し、より高品質なゲーム開発に注力するとしています。

この背景には、モバイルゲーム市場の競争激化と、ユーザーの期待値の高まりがあります。過去の失敗を糧に、持続可能な収益モデルを確立できるかどうかが、今後の課題となるでしょう。

今回のスクウェア・エニックスの発表は、AIと共存する新しいゲーム開発の姿と、それに伴う社会的な変化を予感させます。技術の進化がもたらす恩恵と課題の両方に、私たちは目を向けていく必要があります。

記事冒頭で触れられていたスクウェア・エニックスのレポートはこちら(外部)

【用語解説】

マルチプラットフォーム: 同じゲームタイトルを、PlayStationやXbox、PCといった複数の異なる機種(プラットフォーム)で遊べるように販売すること。これにより、より多くのユーザーにゲームを届けることが可能になる。

ローグライク: プレイするたびにマップや敵の配置が自動で生成されるゲームジャンル。一度やられると最初のレベルからやり直しになるなど、高い難易度が特徴だが、その分繰り返し遊べる中毒性がある。

QA(品質保証): Quality Assuranceの略で、ゲームが仕様通りに作られ、プレイヤーが快適に遊べる品質かを保証する活動全般を指す。単なるバグ探しだけでなく、ゲームの面白さや操作性など、総合的な品質向上を目指す。

デバッグ: プログラムに含まれる誤り(バグ)を見つけ出し、修正する作業のこと。バグが残ったままだと、ゲームが正常に動作しないなどの問題が発生するため、開発において非常に重要な工程である。

AAA(トリプルエー)タイトル: 巨額の開発費とプロモーション費用を投じて作られる超大作ゲームのこと。明確な定義はないが、一般的に最先端のグラフィック技術や大規模なコンテンツを特徴とする。

【参考リンク】

スクウェア・エニックス公式サイト(外部)
同社のゲーム、コミック、音楽等の最新情報や企業情報、IR情報を掲載。オンラインストアも併設。

東京大学 松尾研究室(外部)
東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授が率いる研究室。深層学習やAI技術の研究開発を行い、産学連携プロジェクトも多数実施している。

【参考記事】

Square Enix’s multiplatform plan is already working…(外部)
スクエニがマルチプラットフォーム戦略の成果やAIによるQA自動化目標などを報告。

Mass layoffs hit Square Enix hours after it shares plans to have AI handle 70 percent of its quality assurance…(外部)
スクエニのAIによるQA自動化計画発表直後の海外オフィスでの大規模レイオフを報道。

Square Enix says it wants generative AI to be doing 70% of its QA and debugging by the end of 2027(外部)
スクエニが東大松尾研究室と協業し、生成AIでQA・デバッグの7割自動化を目指す。

Square Enix Confirms Multiplatform Strategy Is Paying Off(外部)
スクエニのマルチプラットフォーム戦略が成功し、旧作売上が大幅増となった成果を伝える。

Gaming industry hit hard by layoffs and closures amid AI gold rush(外部)
AI投資が加速するゲーム業界全体で、レイオフやスタジオ閉鎖が相次いでいる現状を論じる。

【編集部後期】

スクウェア・エニックスのAIによるQA自動化は、ゲーム開発の効率を劇的に変える可能性を秘めています。しかし、70%という高い目標は、人間のテスターが持つ、予期せぬ挙動を発見する「ひらめき」までAIが代替できるのかという疑問も生みます。皆さんは、ゲームの品質を最終的に保証するのは、やはり人間の感性だと思いますか?それともAIの網羅的なテスト能力を信頼しますか?また、この発表の直後に海外オフィスで大規模なレイオフが実施されたことは、AI導入と雇用の問題が切り離せない現実を示しています。技術の進化は常に新たな可能性と課題を同時にもたらしますが、私たちがプレイする未来のゲームは、どのように変わっていくのでしょうか。

投稿者アバター
乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。 デジタルエンターテインメントの未来形がいかに人間の認知と感情に働きかけるかを分析し、テクノロジーが創造する新しい未来の可能性を追求しています。

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