ヤマハ「YE-01」カーボンニュートラルに挑む|電動モトクロス世界選手権MXEP参戦へ

ヤマハ「YE-01」カーボンニュートラルに挑む|電動モトクロス世界選手権MXEP参戦へ - innovaTopia - (イノベトピア)

ヤマハ発動機株式会社は、11月4日からミラノで開催されるEICMA 2025に、電動モトクロスバイクのコンセプトモデル「YE-01」を出展している。YE-01は、フランスの電動二輪メーカーElectric Motion SASのCEOであるPhilippe Arestenと共同開発している。

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「YE-01」(出所:公式)

ヤマハは電動トライアルバイクTY-EによるFIMトライアル世界選手権への参戦や、ABB FIAフォーミュラE世界選手権への参戦で得た制御技術や熱エネルギーマネジメントの知見を活用し、電動モトクロスカテゴリーMXEPへの2026年の参戦を目指す。

また、ヤマハは全社環境目標として、2050年までに事業活動を含む製品ライフサイクル全体のカーボンニュートラル達成を掲げている。

From: 文献リンク電動モトクロスのコンセプトモデル「YE-01」をEICMAへ出展

【編集部解説】

ヤマハ発動機が電動モトクロスの世界に参入する今回の発表は、モータースポーツにおける電動化の新たな局面を象徴する動きです。2026年から始まるMXEPは、FIMモトクロス世界選手権のサポートクラスとして、ヨーロッパの5〜6会場で開催される予定で、電動プロトタイプバイクが競い合う初の国際的な舞台となります。

注目すべきは、ヤマハがElectric Motion SASとのパートナーシップを選択した戦略性です。2009年に設立されたこのフランス企業は、電動トライアルバイクの分野で40カ国以上に展開し、FIM E-Xplorer World Cupなどの競技で実績を積んできました。ヤマハは2024年11月にこの企業へ出資を発表しており、今回のYE-01開発はその協業の成果といえます。

ヤマハが持つレース環境での知見は、電動バイク開発において重要な差別化要素となります。電動トライアルバイクTY-Eは2018年からトライアル世界選手権に参戦し、2025年には全日本トライアル選手権IAスーパークラスで史上初の電動車による優勝を達成しました。

また、フォーミュラEでのパワートレイン開発経験も活かされます。Lola Yamaha ABTチームに350kWの電動パワートレインを提供し、高効率なエネルギーマネジメント技術を磨いてきました。

電動モトクロスの最大の課題は、バッテリー技術と熱管理にあります。モトクロスは急激な加速と減速を繰り返すため、バッテリーへの負荷が極めて高く、熱マネジメントが性能を左右します。近年の電動モトクロスバイクではサイクル安定性向上が実現され、液冷システムによる温度管理が標準化しつつあります。

MXEPクラスの創設は、電動と内燃機関を完全に分離する決断でもあります。これにより、電動バイクは従来のモトクロスと直接比較されることなく、独自の魅力を追求できる環境が整いました。一方で、観客の受容性や音響体験の違いなど、モータースポーツの本質的な価値観に関わる問いも投げかけています。

ヤマハの2050年カーボンニュートラル目標は、スコープ1・2・3の全領域を対象としており、製造だけでなく製品使用時の排出も含まれます。モータースポーツでの電動化推進は、技術開発の加速だけでなく、ブランドイメージの転換という意味でも戦略的な意義を持つのです。

【用語解説】

MXEP(Motocross Electric Prototype)
2026年からFIMモトクロス世界選手権のサポートクラスとして新設される電動モトクロスカテゴリーである。ヨーロッパの5〜6会場で開催予定で、電動プロトタイプバイク同士が競い合う初の国際的なレースクラスとなる。

ABB FIAフォーミュラE世界選手権
完全電動のフォーミュラカーによる世界選手権である。ヤマハはLola Yamaha ABTチームに350kWの電動パワートレインを供給し、高効率なエネルギーマネジメント技術を開発している。

スコープ1・2・3
温室効果ガス排出量の算定基準である。スコープ1は直接排出、スコープ2はエネルギー使用による間接排出、スコープ3はサプライチェーン全体を含むその他の間接排出を指す。ヤマハは2050年までに全スコープでのカーボンニュートラルを目指している。

【参考リンク】

Electric Motion SAS 公式サイト(外部)
2009年設立のフランス電動オフロードバイクメーカー。電動トライアル、エンデューロで世界展開し、ヤマハが出資

FIM Motocross World Championship(MXGP)公式サイト(外部)
FIMモトクロス世界選手権の公式サイト。2026年MXEPクラス情報やレースカレンダー等を提供

ヤマハ発動機 グローバルサイト(レース情報)(外部)
TY-Eトライアル世界選手権やフォーミュラE等、ヤマハのモータースポーツ全般の情報掲載

Lola Yamaha ABT Formula E公式サイト(外部)
ヤマハが350kW電動パワートレインを供給するフォーミュラEチーム。技術パートナー情報等を提供

【参考動画】

【参考記事】

INTRODUCING MXEP – MXGP TO DEVELOP ELECTRIC CLASS IN 2026(外部)
2026年開始のMXEPクラス公式発表。ヨーロッパ5〜6会場、従来MXGPと完全分離の独立クラス

Yamaha Motor Invests in Electric Motion SAS(外部)
ヤマハ2024年11月出資発表。Electric Motion設立2009年、展開国40超、技術詳細等記載

TY-E 3.0 and Kuroyama Make History with First IA Super Title on an Electric Bike(外部)
TY-E 3.0が2025年全日本トライアル選手権で史上初の電動車優勝。競技性能進化を実証

How the Stark Varg MX is Changing the Electric Motocross Game(外部)
電動モトクロスのバッテリー技術進化。シリコンアノード技術でサイクル安定性向上

Lola Cars extends technical partnership with Yamaha Motor through Season 13(外部)
Lola CarsとヤマハのフォーミュラE技術パートナーシップ延長。ヤマハ電動技術継続活用

【編集部後記】

モータースポーツの電動化は、単なる環境対応を超えた新しい魅力の創出に挑んでいます。エンジン音の消失という喪失感と引き換えに、瞬時のトルク応答や精密な制御といった電動ならではの楽しさが生まれつつあります。

皆さんは、モトクロスのような激しいオフロードレースが静粛な電動バイクで行われることに、どのような未来を感じるでしょうか。従来のモータースポーツ文化と新しい技術の共存について、次世代に残すべきモータースポーツの在り方について、ぜひご自身の視点で考えてみてください。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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