株式会社IHI(東京都江東区、代表取締役社長:井手博)と株式会社積木製作(東京都墨田区、代表取締役社長:城戸太郎)は、安全体感VRコンテンツ「汎用旋盤作業中の挟まれ・巻き込まれ災害」を2025年11月7日から提供開始した。
本コンテンツは積木製作が提供する「安全体感VRトレーニング」シリーズの新たなラインナップであり、VRを活用して汎用旋盤作業における事故の危険性を体験できる内容である。シンフォニア株式会社の体感デバイス「UNAGI」を採用し、災害時の痛みを再現する。
IHIはこれまでも積木製作と「Vプーリー点検中の挟まれ事故体験」を共同開発し、安全教育VRをグループ全体で導入している。「安全体感VRトレーニング」は累計700社以上で導入されている。
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IHIと積木製作が共同開発!汎用旋盤作業の危険をVRで「体感」する安全教育コンテンツを提供開始
【編集部解説】
製造現場における労働災害は依然として深刻な課題です。厚生労働省の統計によれば、2024年の製造業における死傷災害は26,676件に達し、全産業で最多を記録しています。特に「はさまれ・巻き込まれ」災害による死亡事故は、「墜落・転落」「交通事故(道路)」に次ぐ3番目に多い事故の型となっています。
今回IHIと積木製作が共同開発した汎用旋盤作業のVR安全教育コンテンツは、こうした現実的な課題に対する実践的なソリューションと言えます。旋盤作業は製造現場で日常的に行われる工程でありながら、回転する工作物への接触リスクが常に存在するため、作業者の危険認識が極めて重要になります。
このコンテンツの特徴は、シンフォニア社が開発した体感デバイス「UNAGI」を採用している点にあります。UNAGIはBluetooth Low Energyを使用してアプリと連動し、電気刺激のタイミングや強度を精密に制御できるコンパクトなデバイスです。出力電流0.5mA~5.0mA、出力時間0.1sec~3.0secの範囲で制御可能で、VRヘッドセット、スマートフォン、パソコンなど様々な端末と連携できます。VRの視覚情報に触覚フィードバックを組み合わせることで、座学では得られない「身体的な危険の記憶」を形成できるのです。
学術研究においても、VRベースの安全教育の有効性が実証されています。2024年の研究では、紙ベースの訓練と比較してVR訓練が危険認識能力を大幅に向上させることが示されました。特に注目すべきは、VR体験が「身体化された認知」と「感情的喚起」という2つのメカニズムを通じて学習効果を高める点です。経験の浅い作業者は没入型環境での身体的学習から、経験豊富な作業者はスリリングな体験による感情的刺激から、それぞれ異なる形で恩恵を受けることが分かっています。
積木製作の安全体感VRトレーニングはすでに700社以上で導入されており、建設業や製造業、鉄道業など幅広い産業で活用されています。IHIとの協業実績も評価が高く、前回開発した「Vプーリー点検中の挟まれ事故体験」では現場から「こんなにリアルに怖さを感じたのは初めて」という声が寄せられています。
近年、経験年数の浅い作業者だけでなく、60歳以上の作業者の労働災害発生率も課題となってきています。こうした状況において、実機での訓練前にVRで危険を体感できる意義は大きいでしょう。実際の機械を使った訓練では事故リスクがゼロではありませんが、VR環境なら安全に何度でも失敗を経験できます。
今後、製造業のDX推進とともに、安全教育のデジタル化はさらに加速すると予想されます。IHIのような大手企業が自社グループ全体でVR安全教育を展開していることは、この技術の実用性と効果を証明する事例と言えるでしょう。
【用語解説】
汎用旋盤
金属などの工作物を回転させながら切削工具で加工する工作機械である。数値制御ではなく作業者が手動で操作するため、回転中の工作物への接触による挟まれ・巻き込まれ事故のリスクが存在する。製造現場で広く使用されている基本的な加工機械の一つだ。
【参考リンク】
株式会社IHI 公式サイト(外部)
1853年創業の総合重工業メーカー。資源・エネルギー、社会基盤、産業システム、航空・宇宙の4事業分野を展開する。
株式会社積木製作 安全体感VRトレーニング(外部)
累計700社以上が導入する安全教育VRソリューション。建設、製造、鉄道など多様な産業向けに危険体感コンテンツを提供。
UNAGI – アプリ連動感電デバイス(外部)
シンフォニア株式会社が開発した体感型安全教育デバイス。電気刺激により災害時の痛みを再現する。価格は88,000円(税別)/96,800円(税込)。
【参考記事】
令和6年の労働災害発生状況を公表 (外部)
厚生労働省が発表した令和6年労働災害統計概要。
令和5年 労働災害統計 – 職場のあんぜんサイト – 厚生労働省 (外部)
厚生労働省がまとめている労働災害統計の詳細データ一覧。
IHIと積木製作が共同開発!Vプーリー点検中の挟まれ事故をVRで体験可能に(外部)
過去の共同開発VR安全教育コンテンツの取り組みを紹介している。
【編集部後記】
みなさんの職場では、安全教育にどのような手法を取り入れているでしょうか。座学や映像教材だけでは、実際の事故の「怖さ」を体感するのは難しいと感じたことはありませんか。
VR技術を活用した安全教育は、私たち自身が危険を「自分ごと」として感じられる可能性を秘めています。製造現場だけでなく、建設業や物流業でも導入が進んでおり、従来の教育手法では伝えきれなかった臨場感を提供しています。これからの安全教育のあり方について、みなさんと一緒に考えていけたらと思います。

























