Googleは2025年11月20日、Pixel 10シリーズ向けのアップデートを開始し、Quick ShareからiPhoneへ直接ファイル送信できる機能を提供した。
対象デバイスはPixel 10、Pixel 10 Pro、Pixel 10 Pro XL、Pixel 10 Foldである。システム全体の共有メニューに表示されるQuick Shareパネルから近くのiPhone、iPad、Macを検出し、ファイルを送信できる。
受信側のAppleデバイスはAirDropの受け取り設定を「10分間全員」に設定する必要がある。Bluetoothで最初の検出を行い、実際の転送では直接WiFiリンクに切り替わる。ファイルはローカルに留まり、外部サーバーを経由しない。
Quick Shareは2020年に開始されたNearby Shareから発展したもので、Android間の転送を目的としていた。現時点ではPixel 10ファミリーのみの対応で、他のAndroidデバイスへの展開時期は未定である。
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Android Quick Share on Pixel 10 can AirDrop to iPhones
【編集部解説】
今回Googleが実現したPixel 10シリーズとiPhone間のファイル共有機能は、単なる利便性の向上にとどまらず、テクノロジー業界における「クローズドエコシステムの壁」に対する重要な挑戦として位置づけられます。
最も注目すべき点は、GoogleがAppleと協力関係を結ばずに、独自実装でAirDropとの互換性を実現したことです。Appleは長年、AirDropの技術仕様を公開せず、自社製品間でのみ動作するクローズドな仕組みを維持してきました。Googleはこの壁を技術的にクリアし、Pixel 10からiPhoneへの直接ファイル送信を可能にしました。
セキュリティ面では、GoogleはRustというメモリ安全性に優れたプログラミング言語を採用しています。Rustはバッファオーバーフローなどの脆弱性を防ぐ設計になっており、NSAやCISAも推奨する言語です。さらに、第三者セキュリティ企業NetSPIによる検証では、「業界の他の実装よりも顕著に強力で、情報漏洩がない」という評価を得ています。
技術的な仕組みとしては、Bluetoothでデバイスをまず検出し、その後WiFi Directで直接接続を確立します。ファイルはクラウドサーバーを経由せず、デバイス間で直接転送されるため、プライバシーも保護されます。この点は、クラウド経由の転送が一般的になった現代において、逆に新鮮な安心感を提供するアプローチと言えるでしょう。
ただし、現時点では制約もあります。iPhone側でAirDropの可視性を「10分間全員」に設定する必要があり、通常の「連絡先のみ」モードでは動作しません。Googleは将来的にAppleと協力して「連絡先のみ」モードにも対応したいとしていますが、実現するかは不透明です。
また、この機能は現在Pixel 10シリーズのみに限定されており、他のAndroidデバイスへの展開時期は明らかにされていません。Googleはこの機能をPixel独自の差別化要素として活用する戦略を取っているようです。
この動きは、2024年にAppleがiOS 18でRCS(Rich Communication Services)に対応したことに続く、プラットフォーム間の相互運用性向上の流れの一部です。ユーザーの多くが複数のエコシステムにまたがってデバイスを使用する現代において、こうした互換性の向上は実用的な価値が高いと言えます。
長期的には、この取り組みがAndroidとiOS間のより深い統合につながる可能性があります。ただし、Appleが自社エコシステムの囲い込み戦略を大きく転換する兆候は見られず、今後の展開は予断を許しません。それでも、Googleがこうした技術的挑戦を通じて、ユーザー体験の向上を追求している姿勢は評価に値するでしょう。
【用語解説】
Nearby Share
Googleが2020年8月に開始したAndroidデバイス間のファイル共有機能。Bluetooth、WiFi Direct、WebRTCを使用してデバイス間で直接ファイルを転送する仕組みで、AirDropのAndroid版として位置づけられていた。2024年にSamsungのQuick Shareと統合され、Quick Shareという統一ブランドに移行した。
Rust
メモリ安全性を重視したプログラミング言語。コンパイル時に厳格な所有権とボローイングルールを適用することで、バッファオーバーフローなどのメモリ関連の脆弱性を防ぐ。NSAやCISAが「安全なシステム構築のための業界標準」として推奨している。
WiFi Direct
WiFiルーターやアクセスポイントを経由せず、デバイス同士が直接WiFi接続を確立する技術。高速なデータ転送が可能で、Quick ShareやAirDropなどのファイル共有機能で実際のデータ転送に使用される。
RCS(Rich Communication Services)
従来のSMSを置き換える次世代メッセージング規格。既読通知、高画質な画像・動画の送信、グループチャットなどの機能を提供する。Appleは2024年9月にiOS 18でRCS対応を開始し、AndroidとiPhone間のメッセージング体験を改善した。
【参考リンク】
Quick Share(旧Nearby Share)公式サポートページ(外部)
GoogleのQuick Share機能の使い方、設定方法、トラブルシューティングを解説する公式サポートページ。
Apple AirDrop公式サポートページ(外部)
AppleのAirDrop機能に関する公式サポートページ。ファイル共有方法、可視性設定などを提供。
Google Pixel 10公式ページ(外部)
Quick Share×AirDrop互換機能が最初に提供されるPixel 10シリーズの公式製品ページ。
NetSPI公式サイト(外部)
GoogleがQuick ShareとAirDropのセキュリティ検証を依頼した独立系ペネトレーションテスト企業。
Google Security Blog – Quick Share×AirDrop技術解説(外部)
GoogleのセキュリティチームによるQuick ShareとAirDropの相互運用性に関する技術解説。
【参考記事】
Android Quick Share now works with AirDrop on iPhone, starting on Pixel 10(外部)
9to5GoogleによるQuick ShareとAirDropの相互運用性に関する詳細レポート。
Android and iPhone users can now share files, starting with the Pixel 10 family(外部)
Google公式ブログによる発表記事。セキュリティ重視の開発姿勢を強調している。
Android Quick Share now works with Apple’s AirDrop feature on Pixel 10 phones(外部)
EngadgetによるQuick Share×AirDrop機能の分析記事。独自実装による互換性実現を指摘。
Android’s Quick Share now works with iPhone’s AirDrop, starting with the Pixel 10 lineup(外部)
TechCrunchによる報道。「10分間全員」モード利用と将来の「連絡先のみ」対応意向を伝える。
iPhone Users Can Now AirDrop Files to Android Devices(外部)
MacRumorsによるApple側視点からの報道。双方向の互換性実現を報じている。
NetSPI – Google Quick Share Security Assessment Report(外部)
NetSPIによる独立セキュリティ評価レポート。他社実装より「顕著に強力」と評価。
Nearby Share – Wikipedia(外部)
Nearby ShareからQuick Shareへの変遷を解説するWikipedia記事。歴史的経緯を記録。
【編集部後記】
AndroidとiPhoneが混在する環境で、ファイル共有に不便を感じたことはありませんか?家族や友人、職場の仲間とデバイスが違うだけで、写真や書類の受け渡しにひと手間かかる経験は、多くの方が持っているのではないでしょうか。
今回のGoogleの取り組みは、そうした「当たり前の不便」を解消する一歩です。AppleとGoogleという二大プラットフォームの壁が、少しずつ低くなっていく過程を、私たちは今まさに目撃しているのかもしれません。
皆さんは、スマートフォンのエコシステムの違いが生む摩擦を、どのように感じていますか?こうした互換性の向上が、今後どのような未来につながっていくのか。innovaTopia編集部も、皆さんと一緒にその行方を見守っていきたいと思います。
























