パナソニックと三菱重工、月探査ローバLUPEX向け安全運転支援システムLUNADASを共同開発開始

[更新]2025年11月27日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

パナソニック アドバンストテクノロジー株式会社は、三菱重工株式会社との共同開発により、月極域探査機LUPEXローバ地上システム向け運転支援システムの開発を開始した。この開発は、JAXA宇宙探査イノベーションハブとの共同研究成果を活用している。

ステレオカメラを用いて岩石やクレータなどの障害物を検知するAIの性能を向上させ、3D地図生成機能と走行シミュレータを組み合わせた安全運転支援システムLUNADASを構築した。LUPEXは、JAXAとインド宇宙研究機関ISROが共同開発する月の南極付近に着陸し水資源を探索するプロジェクトである。

JAXAがH3ロケットによる打上げと月面探査ローバを、インドが着陸船の開発を担当している。LUNADASは、ゲーム開発エンジンUnityと物理エンジンAGX Dynamicsを用いて月面環境を模擬し、JAXA宇宙探査実験棟の模擬月面環境で実証実験を実施している。

From: 文献リンク月極域探査機(LUPEX)ローバ地上システム向け運転支援システムの共同開発を開始

【編集部解説】

パナソニック アドバンストテクノロジーと三菱重工業が、月面探査の未来を大きく前進させる技術開発に取り組んでいます。今回開発が始まったのは、月極域探査機LUPEXローバ向けの安全運転支援システムLUNADASです。

この開発の背景には、自動車分野で培われたADAS(先進運転支援システム)の技術があります。ADASとは、カメラやセンサーを用いて障害物を検知し、衝突回避や車線維持をサポートする技術です。パナソニック アドバンストテクノロジーは、この地上向け技術を月面という極限環境に応用しようとしています。

月極域探査ミッションLUPEXは、日本とインドの国際共同プロジェクトです。JAXAが開発するローバをISROが開発する着陸船に載せ、日本のH3ロケットで2028年以降に打ち上げる計画となっています。目的は月の南極付近で水資源を探査することです。この地域には永久影と呼ばれる太陽光が決して届かない場所があり、水氷が存在する可能性が高いと考えられています。

月面でのローバ運用には地上とは異なる困難が伴います。通信の遅延により地上からのリアルタイム操作は不可能に近く、オペレーターは限られた情報の中で常に安全を監視し続けなければなりません。そこでLUNADASは、ステレオカメラによる障害物検知AIと3D地図生成機能を組み合わせ、オペレーターが月面環境を直感的に理解できるインタフェースを提供します。

開発の鍵となっているのが、仮想環境での高精度シミュレーションです。パナソニックはゲーム開発エンジンUnityとNASAの観測データを活用し、月面の地形や太陽光の角度を忠実に再現しています。さらに物理エンジンAGX Dynamicsを用いることで、ローバが月面を走行する際の滑りや姿勢変動、車輪の轍まで詳細に模擬できるようになっています。

この技術は単なる実験ではありません。JAXA宇宙探査実験棟の模擬月面環境で実際に性能検証が行われています。

今回の開発が示すのは、地上の技術と宇宙の技術が相互に発展する新しい時代の到来です。自動車の安全技術が月面探査を支え、月面で得られた知見が再び地上の技術革新につながる。このような双方向の技術移転は、人類の活動領域を宇宙へと拡大する上で不可欠な要素となっています。

2028年以降に予定されるLUPEXミッションは、月面における持続的な探査活動の第一歩となるでしょう。水資源の発見と利用可能性の評価は、将来の有人月面基地や火星探査への足がかりとなる重要なマイルストーンです。

【用語解説】

LUPEX(Lunar Polar Exploration)
月極域探査ミッションの略称。JAXAとインド宇宙研究機関ISROが共同で開発する、月の南極付近に着陸して水資源を探索する宇宙探査プロジェクト。Chandrayaan-5とも呼ばれる。

LUNADAS(Lunar ADAS)
月面探査ローバ向け安全運転支援システム。ステレオカメラによるAI障害物検知機能と3D地図生成機能を組み合わせ、オペレーターの月面環境認識を支援するシステムである。

ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)
先進運転支援システム。カメラやセンサーを用いて車両周囲の環境を認識し、衝突回避や車線維持などをサポートする自動車技術の総称である。

AGX Dynamics
物理シミュレーションエンジン。車両や機械の複雑な動作、接触、摩擦などを高精度で再現できるソフトウェアである。

Unity
ゲーム開発エンジン。3D環境の構築やシミュレーションに広く使用されており、本開発では月面環境の仮想モデル構築に活用されている。

永久影(Permanently Shadowed Region)
月の極域に存在する、太陽光が決して届かない領域。低温が保たれるため水氷が存在する可能性が高いとされる。

H3ロケット
JAXAと三菱重工業が開発した日本の次世代大型ロケット。LUPEXミッションの打ち上げに使用される予定である。

【参考リンク】

JAXA 月極域探査(LUPEX)プロジェクト(外部)
JAXAによるLUPEXプロジェクトの公式ページ。ミッション概要、搭載機器、探査目的などの詳細情報を掲載

三菱重工業 LUPEX(月極域探査)(外部)
三菱重工業によるLUPEXローバ開発の紹介ページ。ローバシステムと地上管制システムの開発について解説

パナソニック アドバンストテクノロジー株式会社(外部)
ソフトウェア・システム開発を主業務とするパナソニックグループの関連会社。自動車機能安全や宇宙技術開発を推進

ISRO(インド宇宙研究機関)(外部)
インドの国家宇宙機関。Chandrayaanシリーズの月探査ミッションで知られ、LUPEXでは着陸船を開発

Unity Technologies(外部)
ゲーム開発エンジンUnityを提供する企業。リアルタイム3D開発プラットフォームとして広く利用される

【参考動画】

【参考記事】

Lunar Polar Exploration Mission – Wikipedia(外部)
LUPEXミッションの詳細情報。2025年3月にインド政府が承認し、H3-24ロケットで打ち上げ予定と記載

JAXA | Lunar Polar Exploration (LUPEX) Project Underway(外部)
JAXAによるLUPEXプロジェクトの解説記事。月極域の水資源探査の意義と国際協力について詳述

A New Era: Challenges in Lunar Exploration – Mitsubishi Heavy Industries(外部)
三菱重工業の月探査関連事業の紹介。LUPEXローバ開発やトヨタの有人与圧ローバー開発支援について説明

ISRO & JAXA LUPEX Mission Meeting Concluded(外部)
2025年5月にベンガルールで開催された第3回技術インターフェース会議の報告。H3ロケット使用と三菱重工業のローバ製造が確認

Advanced driver-assistance system – Wikipedia(外部)
ADAS技術の包括的解説。センサー、カメラ、レーダーを用いた安全運転支援システムの仕組みと自動運転レベルを説明

【編集部後記】

月面探査と聞くと遠い未来の話のように感じるかもしれませんが、自動車の安全技術が宇宙開発を支えているという事実は、私たちの日常と宇宙がすでに地続きであることを示しています。パナソニックと三菱重工業が開発するLUNADASは、地上で培った技術が月面という新たなフィールドで花開く瞬間を捉えたプロジェクトです。2028年以降に予定されるLUPEXミッションの成功は、人類が月に恒久的な拠点を築く第一歩となるでしょう。私たちinnovaTopia編集部も、この技術が地球と宇宙の双方にもたらす革新を、皆さんと共に見守っていきたいと思います。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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