Amazon Nova Sonicは、Amazon Bedrock上で提供されるspeech-to-speech型の音声AIモデルであり、電話インフラ上でのリアルタイム音声対話を実現するために設計されている。
企業は既存のSIPベースのPBXや、Vonage、Twilio、Genesys、Amazon Connectといったクラウドテレフォニープロバイダ、さらにPipecatやLiveKitなどのオープンソースフレームワークと組み合わせることで、コールセンターの自動応答、IVR代替、受付、アウトバウンドコール向けのAI音声エージェントを構築できる。これらの統合では、必ずアプリケーションサーバーが中継点となり、SIPやWebhook、WebRTCを通じて通話メディアを受け取りつつ、Amazon Bedrockの双方向ストリーミングAPIでNova Sonicと接続し、双方向の音声ストリームを橋渡しするアーキテクチャが採用されている。
また、Java/Node.jsによるSIPゲートウェイや、Vonage Voice API、Twilio、Genesys Cloudとの連携サンプルが公開されており、レガシーPBXからクラウドネイティブなWebRTCアプリケーションまで、段階的にAI音声エージェントを導入できる点が特徴だ。
From:
Building AI-Powered Voice Applications: Amazon Nova Sonic Telephony Integration Guide
【編集部解説】
Amazon Nova Sonicは、「音声で始まり音声で終わる」会話体験を、既存の電話インフラの上に載せるための中核技術です。 テキスト経由ではなくspeech-to-speechでリアルタイムに応答することで、ようやく「AIが電話口に立つ」ことが、技術的にも運用的にも現実的な選択肢になりつつあると感じます。
技術的な肝は、どの統合パターンを選んでも必ず「アプリケーションサーバー」が真ん中に立つ構造になっていることです。 SIP、Vonage、Twilio、Genesys、LiveKitといった多様なテレフォニー世界と、Amazon Bedrock/Nova Sonic側の世界を橋渡しするのがここであり、音声ストリームの変換、セッション維持、CRMやカレンダー連携などの業務ロジックが集約されます。 開発者視点では、「電話」と「LLM/音声モデル」の境界面をどう設計するかという難題に対して、AWSがいくつかのリファレンスアーキテクチャを示したとも言えるはずです。
今回のガイドが特徴的なのは、「これが正解だ」という単一の構成を示すのではなく、レガシーPBX〜クラウドPBX〜WebRTCフレームワークまで、現場に存在するテレフォニー環境ごとに実装ルートを具体例つきで整理している点です。 既存のSIP網を崩せない企業はJava/Node.jsのSIPゲートウェイから、すでにVonageやTwilio、Genesys Cloudを採用している組織はWebhook連携から、そして新規プロダクトであればPipecatやLiveKitを前提にした「AIネイティブな音声アプリ」として出発するなど、スタート地点に応じた戦略が取りやすくなっています。
ただし、日本の開発者にとって留意すべき点は対応言語です。 2025年11月現在、Nova Sonicは英語、スペイン語、フランス語、イタリア語、ドイツ語に対応していますが、日本語はまだサポートされていません 。国内での本格導入には、日本語対応を待つか、あるいは海外拠点やインバウンド対応(多言語対応窓口)での先行利用が主となるでしょう。
インパクトという意味では、まずコールセンターにおけるIVRの位置付けが大きく変わる可能性があります。 プッシュボタンでメニューをたどるのではなく、最初からNova Sonicが自然言語で要件を聞き出し、必要に応じて人間オペレーターに会話コンテキスト付きでつなぐ運用が見えてきます。 その結果、営業時間外やピーク時の一次対応をAIに任せ、人間は高難度案件や感情ケアに集中する、といった役割分担が現実味を帯びてきますが、「どこまでAIに任せるか」というガバナンス設計は避けて通れません。
ポジティブな面としては、多言語対応やトーン・感情を踏まえた応対、通話内容の構造化データ化による分析・フィードバックループなどが挙げられます。 一方で、音声AIが電話チャネルの奥深くまで入っていくことで、なりすましや詐欺、録音データの不適切な二次利用といったリスクも増大します。 通話相手がAIであることの明示やログの扱い、モデル学習への利用範囲など、プライバシーや通信の規制と絡む論点については、今後も各国・各業界のガイドライン整備が重要になっていきそうです。
長期的には、「電話=人が出るもの」という前提そのものが書き換わるかもしれません。 企業代表番号やコンタクトセンターだけでなく、個人向けのAI秘書や、医療・金融・物流など業界特化の音声エージェントが電話網の上で常駐する世界も想像できます。 innovaTopiaの書き手としては、これを単なる効率化の技術として見るのではなく、「声を介して人とAIがどう共存していくか」という視点で、今後もアップデートを追いかけていきたいと思います。
【用語解説】
Amazon Nova Sonic
Amazon Bedrock上で提供されるspeech-to-speech型の生成AIモデルであり、音声入力から直接音声出力を生成し、リアルタイムの会話体験を構築するために設計されている。2025年11月時点で日本語は未対応(英・西・仏・伊・独のみ対応)。
Session Initiation Protocol(SIP)
インターネット上で音声・映像通話などのセッションを確立、変更、終了するために利用されるシグナリングプロトコルであり、多くのIP電話やPBXで採用されている。
Real-time Transport Protocol(RTP)
音声や映像といったリアルタイムメディアをIPネットワーク上で運ぶためのプロトコルであり、SIPと組み合わせて通話の音声ストリームを搬送する用途で広く使われている。
Interactive Voice Response(IVR)
電話のキー操作や音声入力に応じて自動応答やメニュー案内を行うシステムの総称であり、従来型コールセンターの入り口として使われてきた技術である。
PBX(Private Branch Exchange)
企業や組織内の内線・外線通話を制御するための電話交換機システムであり、オンプレミスなレガシーテレフォニー環境で多く導入されている。
WebRTC
ブラウザやモバイルアプリ間でリアルタイムの音声・映像・データ通信を行うためのオープンな技術スタックおよびAPI群の総称であり、LiveKitなどの基盤技術となっている。
【参考リンク】
Amazon Nova Sonic(公式)(外部)
speech-to-speech型音声モデルAmazon Nova Sonicの機能概要やユースケース、料金などを紹介する公式プロダクトページ。
Amazon Bedrock(公式)(外部)
Amazon Novaシリーズを含む複数の生成AIモデルをAPI経由で利用できる、フルマネージドな生成AI基盤サービスの概要ページ。
Vonage(公式)(外部)
音声通話やメッセージング、ビデオなどのAPIを提供するクラウドコミュニケーションプラットフォームで、Voice APIからAIエージェント連携が可能。
Twilio(公式)(外部)
音声、SMS、メール、ビデオなどのコミュニケーション機能をAPIで提供し、顧客接点のワークフローをプログラマブルに構築できるクラウドサービス。
Genesys Cloud CX(公式)(外部)
音声やチャットなどのオムニチャネル対応コンタクトセンター機能をクラウドで提供し、ルーティングや分析、ワークフォース管理を統合するプラットフォーム。
Pipecat(公式)(外部)
Pythonベースで音声・テキストの会話エージェントを構築できるオープンソースフレームワークで、パイプライン定義により処理フローを柔軟に設計できる。
LiveKit(公式)(外部)
WebRTCベースのリアルタイム音声・映像アプリケーションを構築するためのオープンソースプラットフォームで、スケーラブルな低遅延通信基盤を提供する。
【参考動画】
【参考記事】
Amazon Nova Sonic Speech-to-Speech モデルの使用(外部)
Amazon Nova Sonicのspeech-to-speechモデルについて、対応言語やレイテンシ特性、双方向ストリーミングAPIの使い方を解説する公式ドキュメントである。
Amazon Nova Sonic がフランス語、イタリア語、ドイツ語の言語サポートを追加(外部)
Amazon Nova Sonicに追加されたフランス語、イタリア語、ドイツ語のサポート内容や提供リージョンを紹介する公式アナウンスで、多言語対応の文脈を補強する資料である。
Amazon enters real-time AI voice race with Nova Sonic, a unified voice model that senses emotion(外部)
リアルタイム音声AI市場におけるNova Sonicの位置付けを、競合モデルとの比較や感情・トーン理解機能に焦点を当てて整理する記事で、市場動向を知るのに役立つ。
【編集部後記】
電話の向こう側にいるのが人なのかAIなのか、これからどんどん曖昧になっていくのかもしれません。 その最前線の一つが、今回取り上げたAmazon Nova Sonicのような「電話網と直結した音声AI」だと感じています。
みなさんの仕事やプロジェクトの中にも、コールセンター、予約受付、社内ヘルプデスク、営業電話など「声でやりとりしている場面」は多くあると思います。完全な置き換えだけではなく、「人とAIが同じ通話体験を一緒につくる」としたらどんな形が心地よいか、私たちも一緒に考えていきたいです。
























