JavaScriptライブラリ「Forge」には、署名検証がバイパスされる脆弱性が存在する。対象はForge 1.3.2より前のバージョンであり、npmパッケージ「node-forge」として提供されている。
ForgeはTLSやX.509証明書、PKCS#12などの暗号処理を担うライブラリで、この脆弱性はメッセージ認証コード(MAC)データなどを含むフィールドで細工されたASN.1構造を処理する際に生じる。
問題はCVE-2025-12816およびCWE-436として識別されており、攻撃者が認証をバイパスしたり、署名済みデータを改ざんしたりする可能性があるため、Forgeを最新版へアップデートする必要がある。
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JavaScriptライブラリ「Forge」における署名検証不備の脆弱性
【編集部解説】
JavaScriptの暗号ライブラリ「Forge(node-forge)」で見つかった今回の脆弱性は、単なるバグというよりも「信頼の前提」が揺らぐタイプの問題です。署名検証は、送信者の正当性とデータの完全性を支える最後の砦であり、ここがバイパス可能になると、その上に乗っている認証やアップデート配信の安全性そのものが危うくなります。
ForgeはTLS、X.509証明書、PKCS#12など、ASN.1ベースのデータ構造を扱う場面で幅広く利用されており、npmでも非常に多くのプロジェクトに依存されています。内部のasn1.validate処理における解釈の不一致が原因で、細工されたASN.1データが本来は拒否されるべきところを「正しいデータ」とみなしてしまう挙動が報告されています。
具体的には、オプション要素の検証に失敗したあとでもパーサの位置が正しく進まず、次の要素が同じ不正データを参照してしまうことで、MACや署名付きメッセージの検証結果がすり替えられてしまう可能性があります。この結果、実際には改ざんされたPKCS#12や署名付きデータが「有効な署名」と誤認されるシナリオが指摘されています。
重要なのは、この問題がForge単体に閉じた話ではないことです。node-forgeはWebフロントエンド、Electronのようなデスクトップアプリ、バックエンドサービスなど、多様なソフトウェアの依存ライブラリとして深く組み込まれており、下流の開発者が脆弱性情報を追えていない場合、「署名で守られているはず」という前提が静かに崩れていきます。これは、ソフトウェアサプライチェーン全体のリスクとして捉えるべき問題です。
未来志向のプロダクトづくりを考えると、今回の事案は二つの示唆を与えてくれます。ひとつは、暗号ライブラリのような「根幹部品」は、単に採用して終わりではなく、継続的にアップデートと脆弱性情報を追いかける体制が欠かせないという点です。もうひとつは、署名検証や重要なセキュリティ機構については、単一ライブラリに依存しすぎない設計(検証手段の二重化やフェイルセーフ設計)を検討する必要があるということです。
こうした基盤技術の揺らぎはネガティブなニュースであると同時に、インフラの設計思想を見直すチャンスでもあります。暗号ライブラリへの依存を前提としながらも、どのように検証と監視を重ねていくのか。Forgeの事例は、これからのソフトウェア開発チームにとって、セキュリティと進化を両立させるための問いを投げかけているように思えます。
【用語解説】
署名検証
電子署名が本物であるか、データが改ざんされていないかを確認する処理のことだ。公開鍵暗号の仕組みを用いて、送信者の正当性とメッセージの完全性をチェックする。
ASN.1
「Abstract Syntax Notation One」の略称で、証明書や暗号プロトコルなどで使われるデータ構造の記述・エンコード方式だ。X.509証明書やPKCS#12など、多くのセキュリティ関連フォーマットに採用されている。
メッセージ認証コード(MAC)
共通鍵を使ってメッセージの完全性と送信元を確認するために用いられる値のことだ。改ざん検知やなりすまし防止に用いられ、今回の脆弱性でもMAC検証のすり抜けが問題になっている。
CVE-2025-12816
node-forgeにおけるASN.1処理の解釈不一致により、署名検証がバイパスされる脆弱性を表す識別子だ。各種ベンダーや脆弱性データベースが同じ問題を追跡するための共通番号である。
CWE-436(Interpretation Conflict)
同じデータを異なるコンポーネントが異なるルールで解釈することで、セキュリティ上のギャップが生じる問題を分類したものだ。今回のForgeの不具合も、この解釈の不一致によって検証ロジックがすり抜けられている。
TLS
「Transport Layer Security」の略称で、WebサイトのHTTPS通信など、ネットワーク通信を暗号化するためのプロトコルだ。サーバー証明書や暗号スイートと連携し、安全な通信路を確立する。
PKCS#12
秘密鍵と証明書、それに関連するメタデータをひとつのコンテナにまとめて格納するファイルフォーマットだ。ブラウザやOSへの証明書インポートなどで利用され、Forgeもこの形式を扱う機能を提供している。
【参考リンク】
Forge / node-forge(GitHub)(外部)
JavaScriptでTLSや証明書、PKCS#12などの暗号処理を提供するForge本体のリポジトリ。今回の脆弱性の修正状況も確認できる。
CERT/CC Vulnerability Note VU#521113(外部)
Forgeの署名検証バイパス脆弱性について、技術的背景や影響範囲、ベンダーの対応状況を整理した脆弱性ノート。
NVD(CVE-2025-12816 エントリ)(外部)
米国NISTが運営する脆弱性データベースにおけるCVE-2025-12816の公式情報。CVSSスコアやCWE分類、影響製品の概要を確認できる。
【参考記事】
Popular Forge library gets fix for signature verification bypass flaw(外部)
Forge(node-forge)の署名検証バイパス脆弱性について、具体的な攻撃シナリオや影響範囲、修正版リリースのタイミングを整理して解説しているセキュリティニュース記事だ。
VU#521113 – Forge JavaScript library impacted by a vulnerability in signature verification(外部)
CERT/CCがForgeのASN.1処理に起因する署名検証バイパス脆弱性を詳細に分析し、影響を受けるユースケースやベンダー対応、緩和策などをまとめている技術ドキュメントだ。
CVE-2025-12816: node-forge ASN.1 Crypto Bypass | Miggo(外部)
node-forgeのASN.1バリデーション問題をInterpretation Conflictとして位置づけ、攻撃成立条件やリスク評価、推奨アップデート手順をわかりやすく整理した技術ブログだ。
CVE-2025-12816: node-forge ASN.1 Validator Desynchronization …(外部)
ASN.1バリデータのデシンクロに焦点を当て、影響バージョンやCVSSスコア、実運用上の注意点を提供する脆弱性データベース記事であり、技術的なニュアンスの把握に役立つ。
CVE-2025-12816 | Tenable®(外部)
企業向けの脆弱性管理視点からCVE-2025-12816を解説し、深刻度、影響範囲、スキャンや検出方法に関する情報をまとめたアドバイザリだ。
CVE-2025-12816 – Debian Security Tracker(外部)
DebianにおけるCVE-2025-12816の影響状況と、関連パッケージの修正版リリース情報を追跡するためのセキュリティトラッカーページだ。
CVE-2025-12816 Detail – NVD(外部)
NVDによる公式エントリで、CVSSスコア、CWE-436の分類、関連ベンダー情報などを一覧できる。編集部解説ではリスクレベル把握の基準として参照した。
【編集部後記】
JavaScriptのライブラリは、ふだん私たちが意識しないところで、当たり前のようにサービスを支えてくれています。だからこそ、Forgeのような基盤ライブラリで脆弱性が見つかると、「自分のプロダクトは大丈夫だろうか」と不安になる方も多いはずです。
もしサービスづくりや運用に関わっているなら、この機会に一度「自分たちのスタックの中で、どんな暗号ライブラリや外部コンポーネントに依存しているのか」を棚卸ししてみるのも良いかもしれません。
























