Unruggableは、2025年11月にLONDON, UKでSolanaエコシステム専用ハードウェアウォレットを発表した。
UnruggableはオープンソースのSolanaネイティブインフラを開発するUK拠点のスタートアップであり、本ウォレットはSolanaに直接統合されたセルフカストディデバイスである。
デバイスはJito、Squads Multisig、Jupiter Lend and Swap、TitanSwap、Anza’s Confidential Transfers、Solana Name Serviceに対応し、ステーキング機能を備える。 アルミニウムモデルとInjection Molded Plasticモデルの2種類を提供し、いずれも同一機能を持つ。
コードベースとコンパニオンアプリはRustで実装され、macOS、Windows、Linux、Android、iOS、Solana Mobileで動作し、Ledger互換を持つ。 開発チームはBill Papas、Adam、Apesの3名で構成され、Solana Foundation、Jito Labs、Superteamの支援を受け、Superteam UK Demo DayとColosseum Breakout Hackathonで受賞している。
約10万SOL(約1800万ドル)がUnruggableのバリデータにステークされており、2025年11月にプレオーダーを開始し、出荷は2026年Q2を予定している。
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Unruggable unveils a solana-native hardware wallet
【編集部解説】
Unruggableのハードウェアウォレットは、「Solanaユーザーのための専用機」というコンセプトを押し出したセルフカストディデバイスです。 既存のマルチチェーン型ハードウェアウォレットが抱えていた「Solana対応は後追いで、UXもSPL対応も中途半端になりがち」という構造的な課題に対し、チェーン特化型という形で真っ向から挑んでいる印象があります。
技術面で特に重要なのは、「Solanaネイティブ」を単なるキャッチコピーにせず、RustフルスタックかつSPLトークン、Jito、Squads Multisig、Confidential Transfers、Solana Name ServiceといったSolana固有のスタックを前提に設計している点です。 これは、EVM系チェーンとは異なるトランザクション形式やステーキング体験を、ハードウェアレベルから支えることで「Solanaに最適化された署名と資産管理体験」を狙っているとも読めます。
3人チームがセルフファンドでハードウェア・ファームウェア・ソフトウェアをすべてオープンソースで開発し、Solana FoundationやJito Labs、Superteamの支援を受けつつ、Superteam UK Demo DayやColosseum Breakout Hackathonで実績を積んでいる点も、このプロジェクトの性格をよく表しています。 約10万SOL超がステークされた独自バリデータ運営を通じて、単なるデバイスメーカーにとどまらず、Solanaネットワークそのもののセキュリティにも関与する立場を目指しているように見えます。
ユーザー体験という観点では、30秒程度のセットアップ、macOS/Windows/Linux/Android/iOS/Solana Mobile対応のコンパニオンアプリ、さらにLedger互換性という組み合わせが、「既存ハードウェアウォレットからの移行」を意識した設計に感じられます。 すでに他社デバイスを使っているSolanaユーザーに対して、「Solana部分だけをより速く、より深く扱えるインターフェース」としての選択肢を提示しているとも言えます。
もちろん、リスクも存在します。ハードウェアウォレットは物理デバイスである以上、量産体制やサポート継続性への信頼が重要であり、新興かつセルフファンドのプロジェクトには、大手ブランドとは別種の不確実性があります。 オープンソースであることは検証可能性の面ではメリットですが、コードを実際に精査できる専門家は限られるため、「コミュニティ監査」がどこまで機能するかは今後のコミュニティ参加状況に左右されるでしょう。
規制やガバナンスの観点でも、セルフカストディのUXが向上するほど、取引所などのカストディ事業者に頼らないユーザーが増え、資産消失や詐欺被害時の救済スキームを誰がどの範囲で担うべきかという問いが強まります。 Solanaのように高速・低コストなチェーンでは、個人レベルで扱うオンチェーン取引のボリュームが増えやすく、ハードウェアウォレットは「安全性の向上」と同時に「自己責任の重み」を増す装置としても機能し得ます。
長い目で見ると、UnruggableのようなSolana専用ハードウェアウォレットの登場は、「なんとなくマルチチェーン対応のウォレットを使う」段階から、「自分が主戦場とするチェーンを決め、そのチェーンに最適化されたツールを選ぶ」段階へのシフトを象徴しているように思えます。 今回のプロダクトがどこまで普及するかはこれからですが、少なくともSolanaコミュニティ内部では、セルフカストディの選択肢が質・量ともに拡張されつつある、その一つのマイルストーンと言えるでしょう。
【用語解説】
Jito
Solanaのトランザクションを最適化し、検証者とユーザー双方の収益機会向上を目指すMEV関連インフラプロジェクトだ。
Squads Multisig
Solana上でマルチシグウォレットやチーム運用のトレジャリー管理を行うためのプロトコルおよびアプリケーションだ。
Jupiter Lend and Swap
Solana上のトークンスワップおよびレンディングを集約し、最適レートでの取引を提供するアグリゲーション系プロトコル群だ。
TitanSwap
Solanaエコシステムのトークン取引をサポートする分散型取引関連のサービス名称であり、トークンスワップ機能を提供する。
Anza’s Confidential Transfers
Solana上で取引額などの情報を秘匿しながら送金を行うコンフィデンシャルトランスファー機能を提供する仕組みだ。
Solana Name Service (.sol)
Solanaアドレスに「xxxxx.sol」のような人間が読めるドメイン名を紐づけるネームサービスだ。
Rust
高速性とメモリ安全性を重視したプログラミング言語であり、Solana関連のオンチェーンプログラムやツール開発で広く利用されている。
セルフカストディ(Self-Custody)
暗号資産の秘密鍵をユーザー自身が管理し、第三者カストディ事業者に預けない管理形態のことを指す。
ハードウェアウォレット
秘密鍵を物理デバイス内部に保持し、オンライン環境から隔離して署名を行うことで、暗号資産の盗難リスク低減を図る専用端末だ。
バリデータ(Validator)
Solanaを含むPoS系ブロックチェーンで、トランザクション検証とブロック生成を担うノード運営者のことで、ステーキングされたトークンをもとにネットワークを保全する役割を持つ。
【参考リンク】
Unruggable Official Website(外部)
Solana専用ハードウェアウォレットとコンパニオンアプリの概要やプレオーダー情報を掲載している公式サイトだ。
Solana Foundation(外部)
Solanaブロックチェーンの開発支援やエコシステム拡大を担う非営利組織で、技術ドキュメントやグラント情報を提供している。
Jito Network(外部)
Solana上のMEV最適化やステーキングソリューションを提供するプロジェクトで、バリデータやステーカー向けインフラを案内している。
Squads(外部)
Solana向けマルチシグウォレットとトレジャリー管理ツールを提供し、DAOやチームの資金管理を安全に行うための機能を提供している。
Jupiter(外部)
Solana上のトークンスワップやDeFiルーティングを担うアグリゲータープロトコルで、多様な流動性プールから最適レートを提示する。
Solana Name Service(外部)
Solanaアドレスに「.sol」ドメイン名を割り当てるネームサービスで、ドメイン検索や登録、管理機能を提供している。
Colosseum Breakout Hackathon(外部)
Solana関連プロジェクト向けハッカソンやアクセラレータを運営し、採択プロジェクトや受賞チームの情報を公開しているサイトだ。
【参考動画】
【参考記事】
Introducing “Unruggable”, A Solana-native Hardware Wallet And Companion App(外部)
Solanaコミュニティ向けにUnruggableのウォレットとアプリの概要や機能、開発チームの背景を紹介し、公式発表内容を補足しているスレッドだ。
Solana (SOL) se expande con su propia hardware wallet Unruggable(外部)
BeInCryptoによる記事で、Unruggableの位置づけや約10万SOLステーク、プレオーダー時期と出荷予定などを数値情報とともに解説している。
【編集部後記】
Solana専用のハードウェアウォレットが生まれるのは、「どこまで自分で資産管理を引き受けるか?」という問いに、コミュニティが具体的な選択肢を用意し始めたサインだと感じています。 取引所やホットウォレットに任せるのか、それとも物理デバイスまで用意してSolanaの世界に本格的に踏み込むのか――そのグラデーションが、少しずつ細かくなってきました。
すでにSolanaのNFTやDeFiに触れている方は、「自分にとってちょうどいいセルフカストディの距離感」を一度見直すきっかけとして、このニュースを眺めてみても面白いと思います。 まだSolanaを触ったことがない方も、「なぜ専用ハードウェアがわざわざ必要とされるのか」という視点から、このチェーンのスピード感やユーザー像をイメージしてみてください。
























