2025年7月30日、Googleは地理空間AIモデル群「Google Earth AI」を発表し、中心となるモデル「AlphaEarth Foundations」を公開した。同モデルは衛星画像・レーダー・気候シミュレーションなどを統合し、陸域と沿岸を10メートル四方で表現する仮想衛星として機能する。ストレージ消費は従来比16分の1、誤差は約23.9%低減した。年間1.4兆件の埋め込みフットプリントを含む「Satellite Embedding」データセット(2017〜2024年分)がGoogle Earth Engineで公開される。洪水・山火事警報などは既にGoogle SearchとMapsで数百万人が利用している。
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Google Earth AI: Our state-of-the-art geospatial AI models
【編集部解説】
地球規模で高精度な”目”
AlphaEarth Foundationsは、複数の衛星やセンサーから得られるデータを単一の埋め込み空間に圧縮し、地球全体を10メートル単位で再構築します。従来は雲や夜間観測の隙間を埋めるために複数の衛星を組み合わせる必要がありましたが、本モデルはAIによる推論でギャップを補完し、ほぼリアルタイムで更新できる点が革新的です。
圧縮効率というブレークスルー
埋め込みフィールドはストレージを16分の1に抑えつつ、誤差を23.9%削減しました。地球観測はペタバイト級データが常態化しており、保管・転送コストはボトルネックでした。圧縮効率の向上は、途上国や中小企業でもグローバルスケールのマッピングが現実的になることを意味します。
実利用と”公共財”データセット
洪水・山火事アラートが既にSearchとMapsで配信され、数百万人が恩恵を受けています。さらに、1.4兆件規模のSatellite Embeddingデータセットを開放することで、研究者や自治体が都市計画・農業・生態系保全に応用できる基盤が整いました。
リスクと規制のゆくえ
10メートル解像度は個人特定を避けつつ実用精度を確保する設計ですが、土地所有者や小規模事業の行動を読み取れる可能性は否定できません。EU AI Act(正式施行日は調整中)など各国のガイドラインでは、透明性と説明責任が焦点になる見通しです。偏りや誤分類が防災や政策判断に直結するため、第三者評価の枠組みづくりが急務でしょう。
地政学的インパクト
地球観測は従来国家レベルの専権事項でした。巨大プラットフォームが”仮想衛星網”を提供することで、データ主権や情報格差の論点が再燃する可能性があります。民間が環境監視を担う未来を歓迎する声もある一方、依存リスクへの警戒も高まっています。
【用語解説】
AlphaEarth Foundations
Google DeepMindが開発した地球観測向け埋め込みモデル。多様なリモートセンシングデータを10 mグリッドで統合し、圧縮効率と精度を両立する”仮想衛星”。
Satellite Embeddingデータセット
AlphaEarth Foundationsが生成した年次埋め込みフィールド(2017〜2024年)。Earth Engine経由で1.4兆フットプリントを提供。
【参考リンク】
Google Earth(外部)
高解像度衛星画像と3D都市モデルを無償で探索できる地球ビューワ。
Google Earth Engine(外部)
衛星画像と地理空間データを解析するクラウドプラットフォーム。Satellite Embeddingを含む大規模データセットを提供。
DeepMind(外部)
Google DeepMindの公式サイト。AlphaEarth Foundationsなど先端AI研究を紹介。
【参考記事】
Google DeepMind says its new AI can map the entire planet with unprecedented accuracy(外部)
16倍圧縮と23.9%精度向上、1.4兆件データセットなど技術詳細を報告。
Google’s newest AI model acts like a satellite to track climate change(外部)
10 m解像度とクラウドカバー除去能力を中心に環境分野への応用を検証。
Google calls its new AI model a “virtual satellite.”(外部)
複数データソース統合とプライバシー配慮設計を解説。
AlphaEarth Foundations helps map our planet in unprecedented detail(外部)
DeepMind公式ブログ。研究背景と今後の連携方針を提示。
【編集部後記】
10メートル単位で地球を”見える化”する技術が社会に入ってきました。防災から農業まで活用範囲は広がりますが、同時に”誰が地球をどう監視するのか”という問いも深まります。もし皆さんが現場で地理空間データを扱っている、あるいは使ってみたい分野があるなら、ぜひそのリアルな期待や懸念をコメントでシェアしてください。一緒に次の一歩を探りましょう。