Last Updated on 2025-08-01 09:28 by TaTsu
デザインソフトウェア企業Figmaの共同創設者兼CEOであるDylan Fieldは2025年7月31日、CNBCの「Squawk Box」番組に出演し、人工知能超知能(AI superintelligence)は同社にとって差し迫った脅威ではないとの見解を示した。
Fieldは「シンギュラリティ派なら『超知能がやってきて人間にはできないことができるようになる』と考えるかもしれないが、我々がすぐにそこに到達するとは信じにくい」と発言。
同社の複雑なグラフィックスエンジンなどの技術は、コードやインターネット上のデータから学習できるものではなく、事前学習データミックスの一部でもないため、AIが大規模に複製することは困難だと説明した。
Figmaは同日、ニューヨーク証券取引所で「FIG」のティッカーシンボルで上場を開始。IPO価格は当初予想の25ドル~28ドルの範囲を上回る33ドルに設定され、企業価値は193億ドルと評価された。
同社は2023年12月にAdobe による200億ドルでの買収案件が規制当局の反対により白紙化されていた。一方、MetaのCEOであるMark Zuckerbergは2025年7月30日、AI超知能への投資を継続すると発表し、AI人材獲得に数十億ドルを投資している。
From: Figma CEO says AI superintelligence is not a looming threat to the company
【編集部解説】
FigmaのIPO成功は、デザインソフトウェア業界において極めて重要な転換点を示しています。同社のIPO価格は当初予想の25~28ドルから、最終的に33ドルまで引き上げられ、企業価値が193億ドルに達しました。これは、2020年以降のIPO市場低迷期にあって異例の成功事例といえます。実際、IPOは40倍以上のオーバーサブスクリプション(需要超過)を記録し、半数以上の投資家が株式を取得できませんでした。
Dylan Field CEOの「AI超知能脅威論」に対する発言は、現在のテック業界における重要な視点を提示しています。Figmaの技術的差別化要因として、同社の複雑なグラフィックスエンジンが従来の機械学習の事前学習データに含まれていない点を挙げました。これは、単純なコード解析やウェブスクレイピングでは再現困難な、人間の創造性と複雑なインタラクション設計が組み込まれた技術であることを意味します。
注目すべきは、MetaのZuckerbergが今年7月に「個人向けAI超知能」というビジョンを打ち出し、数十億ドル規模の投資を発表している点です。MetaがAI中央集権型のアプローチではなく、個人のエンパワーメントを重視する方針を明確にしたことで、FigmaのようなクリエイティブツールとAIの共存可能性が浮き彫りになりました。
2023年12月のAdobe買収案件の白紙化は、結果的にFigmaにとって独立性を保つ最良の結果をもたらしました。同社は現在、安定した収益基盤を確立し、継続的な成長を実現しています。2025年第1四半期の売上は前年同期比46%増を記録し、粗利益率91%、営業利益率18%を維持しています。
しかし、長期的なリスクも存在します。AI技術の急速な進歩により、デザイン業務の自動化範囲が拡大する可能性は否定できません。LovableやBoltなどのAI中心のデザインプラットフォームが今年急速に普及しており、Figmaもより深いAI統合を優先課題としています。
この状況下で、Figmaの戦略的価値は「人間とAIの協調」にあります。同社が既にDev Modeを2023年に導入し、今年はAIベースのFigma Makeを発表するなど、完全な自動化ではなく、デザイナーの創造性を増幅させるツールとしてのポジショニングを明確にしています。
上場によってFigmaは12億ドルの資金調達を実現し、市場での認知度を大幅に向上させました。しかし、真の試練はこれから始まります。AI時代における創造的労働の価値をいかに維持・発展させるかが、同社の未来を決定することになるでしょう。
【用語解説】
AI超知能(AI Superintelligence)
人間の知能を大幅に上回る人工知能システムを指す。現在のAIが特定のタスクに特化しているのに対し、超知能は人間のあらゆる認知能力を上回り、自己改良や複雑な問題解決を独立して行える。シンギュラリティ(技術的特異点)との関連で語られることが多い。
IPO(Initial Public Offering)
株式公開のこと。これまで非上場だった企業が初めて証券取引所で株式を一般投資家に売り出すプロセス。企業は資金調達と知名度向上、株主は投資機会を得る。
ティッカーシンボル
証券取引所で取引される株式や債券を識別するためのアルファベットコード。Figmaの場合は「FIG」で、投資家が売買する際の銘柄識別に使用される。
ニューヨーク証券取引所(NYSE)
世界最大の株式取引所。1792年設立で、時価総額ベースで世界トップクラスの企業が上場している。厳格な上場基準により高い信頼性を持つ。
シンギュラリティ派
人工知能が人間の知能を超越するシンギュラリティ(技術的特異点)の到来を信じる人々を指す。2045年頃にこの転換点が訪れるとの予測が有力。
グラフィックスエンジン
コンピュータ上で画像や映像を処理・描画するためのソフトウェアシステム。リアルタイムでの描画計算やベクター処理を効率的に行う。
事前学習データミックス
AIモデルの学習に使用される大量のデータセット。インターネット上のテキスト、画像、コードなどを組み合わせてAIの基礎知識を形成する。
オーバーサブスクリプション
IPOにおいて投資家からの申込み株数が、発行予定株数を大幅に上回る状態。需要超過を示し、株式の人気度を表す指標となる。
【参考リンク】
Figma(外部)
ウェブベースの協調型デザインツール。インターフェース設計、プロトタイピング、チーム間のリアルタイム共同作業を可能にする。
Meta(外部)
旧Facebook社。Facebook、Instagram、WhatsAppなどのSNSプラットフォームを運営し、VR/ARやAI技術に大規模投資を行う。
Adobe(外部)Photoshop、Illustrator、Premiere Proなどクリエイティブソフトウェアの世界的リーダー。デジタルメディアとマーケティング分野で包括的なソリューションを提供。
【参考動画】
【参考記事】
Figma’s IPO price hit a $19.3B valuation out of the gate(外部)
TechCrunchによるFigmaのIPO詳細レポート。40倍のオーバーサブスクリプションと最終価格設定の背景を分析。
Figma Is Largest VC-Backed American Tech Company IPO in Years(外部)
ウォール・ストリート・ジャーナルによる、FigmaがアメリカのVC支援テック企業として数年間で最大のIPOとなったことを報じる記事。
Figmaが秘密裏にIPO申請:Adobe買収破談から1年(innovaTopia)
Figmaが2025年4月15日にIPO申請を行ったことを報じた記事で、2023年12月のAdobe買収破談について詳しく解説している
【編集部後記】
FigmaのIPO成功とDylan Field CEOのAI観は、クリエイティブ業界の未来を考える上で興味深い視点を提示してくれました。40倍を超えるオーバーサブスクリプションという驚異的な需要は、デザインツールへの市場の期待を物語っています。
皆さんは普段のデザイン業務や創作活動で、AIをどのように活用していますか?また、Figmaが今年リリースしたAIベースの「Figma Make」のような機能について、どのような可能性を感じますか?
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